湖の水で手を冷やしてから手当てした。
ほとんど無言で。
指先に伝わるマツバさんの手は少し冷たくて、さすがゴーストマスターと思った。
ロコンは水面に写る自分をばちゃばちゃやって遊んでいる。
炎タイプでも攻撃ではない水は大丈夫らしい。
手当てが終わって、私はいそいそ帰ろうとした。
そんな私をミナキ君が止めた。



「まあ待て、チユリ
おもしろいことを教えてやろう」

「ちょ、ミナキ君
なに言うつもりだ!?」



親しげに口論する2人。
友達らしい。
あっ、今チャンスじゃーーん。
ロコンをさりげなく抱いてダッシュ。



「あっ」

「ほら、マツバがモタモタしてるから行っちゃったぞ」

「〜〜っ
後で電話する!」



私はゲートの中の案内台の下に隠れていた。
案内人の男の人が、ニコニコ笑っている。



「すいません……」

「いえ、なんだかそういうの青春みたいでいいですね
あ、ジムリーダー来ましたよ」

「しーーっ!」

「はい、わかってますよ」



息を潜めていると、バタバタとマツバさんが走っていく音がした。
それを見て案内人の人が驚いたような顔をした。



「ジムリーダーがあんなに慌ててるの、初めて見ましたよ
さっき通ったときは怒っていたようで
それも初めてです」

「そうなんですか?」

「はい
最近はジムでも上の空らしいですし
なにがあったんでしょうねえ?」



わざとらしく語尾をのばす。



「さあ……」



私に訊かれてもなにがあったかなんてわからない。
とりあえずお礼を言って、ミナキ君のところへ戻った。
さっきのおもしろいことっていうのが気になって。



「やっぱり戻ってきたな
よし、じゃあ話してやろう」



水辺に座りこんで手招きしてきた。
ミナキ君の隣りに座って、膝の上にロコンを置く。



「チユリのことはマツバから電話で聞いていた
驚いたよ
あいつから女の話が出るなんて」

「はあ……」

「その内容にも驚いた
いきなり“死のうとしてる子をどうやって説得したらいい?”だからな」



ドキッとした。
…ということは、ミナキ君は知ってるのか。
私が死のうとしてること。



「あいつは千里眼で人の心が見える
だから昔は制御できなくて悩んでいたよ」

「………………」



おい、待て。



「千里眼!?」

「ん?
聞いてなかったか?
あいつは千里眼なんだぞ
さすがは鈴の塔を守る一族の末裔といったところか」



初めて聞くものがぽんぽん出てくる。
千里眼……、末裔!?
なにも聞かされてない。
…まあ、言う必要ないけどさ。
ってちょっと待てよ。



「千里眼ってことは心の中丸見えっていう……?」

「昔はそうだったが、今は制御できるらしいからそうでもないだろう」

「でも見ようと思えば見れるの……?」

「ああ」



うっわ、うっわ!
だから最初会ったとき止められたんだ!
ということは、今まで私が思っていたこと全部バレてる……?
サアッと、血の気が引いた。



「こないだ電話がかかってきたときは、なんだか落ちこんでたな
なんでも誰かを傷つけてしまったとかどーのこーの」

「マツバさんでも人を傷つけることあるんだ……」



それを聞いたミナキ君はぶっと笑う。



「チユリの話をしているんだ」

「え!?
私!?」

「ああ
君のことでマツバは悩んでいた
どうしたら救えるのか」

「…さすがジムリーダー
責任感が強くて、すごいなあ……」



ミナキ君がくく、と笑う。
…笑うところ?
するとミナキ君から着信音が鳴り響いた。

スーイクンスーイクンラララララ〜



「ぶはっ!?」



なにその着信音!?
誰が歌ってんの!?
もしかしてミナキ君!?
涼しい顔で電話に出る。



「ああ、見つかったか?
……、そうか
ここにいるぞ」



ポケギアからマツバさんの怒鳴り声が聞こえた。
それに構わず電話を切る。



「今からマツバが来る
後のことはマツバに聞くといい」

「え?
え!?」

「ほら来た」



指さす先を見ると、マツバさんが走ってきていた。
早っ!
電話切ってから何分もたってないよね!?



「はあっ…、はあっ……」



息を切らして、その場にドカッと座りこんだ。
ミナキ君が笑いながら立ち上がる。



「じゃあな、チユリ」

「え、行っちゃうの!?」

「マツバが怖いんでな
また会おう」



手を振るミナキ君を、マツバさんはこれまで見たことのないような顔て睨んでいた。
…こわっ!
ミナキ君が去った水辺には、へたりこむ私とうたた寝してるロコン、それからため息をつくマツバさんがいた。



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