「誰も助けてくれなかった」

ポツリ、呟いてから口元に残る唾液をぬぐう。
声色には悲しみも怒りも何も感じられず、ただただそれを理解するために言っただけのように感じられた。
細くて小さな子供は、痛む身体を我慢して、壁へ背をもたれさせた。
見上げた視界、格子のついた窓越しに映る空はとても綺麗な青色をしていた。けれど、それがとても忌々しい。

「みーんな、見ないふり」

先ほどまで流れていた涙も、枯れた。
感情というものがここまで枯れていくのかと、幼い子供は思う。
助けて、と叫んだ。彼女が知る大人、全てに助けを求めた。けれど、求めた叫びは暴力でふさがれて、求めた助けは『見て見ぬふり』で殺された。
困ったら何でも言ってね、そう昔ではない過去に優しい笑みを浮かべていた女性は痛々しげな表情を浮かべて、ごめんね、と呟いていた。
お前の両親には何度も助けられていたからな、そう言って頭を撫でてくれた両親と顔見知りであった男性は、握らされた紙幣や渡された食糧、その他諸々を抱きしめて、すまないと唇を噛んでいた。
子供は賢かった。
彼らの様子を見て、自分の犠牲と引き換えに孤児院の他の子供たちと大人たちは食糧という大きな生きる糧を手に入れたと理解した。

「…信じていたのに、なあ」

今までの優しさは嘘だったのだろうか、いくらこの村が深刻な食糧不足だったからと、まだ10を数えたばかりの子供を犠牲にするほど、ここの大人たちは優しくなかったのか。
戦争から逃げて、ようやく辿り着いた村だった。両親を戦争で失い孤児になってしまった彼女を、彼女の妹を、優しく受け入れてくれた孤児院だった。
なのに。

「しょせん、孤児は孤児、よそ者はよそ者、どうなろうが、それほど良心は痛まない」

そういうこと、なのかなあ。
はあ、とため息を漏らせば、ずきん、と身体が痛む。視線をおろして、彼女は自身の身体を見つめた。
抵抗するからという理由で頭の上で手を縛られた。手首には縄の痕がくっきりと痛々しく残っていた。
気持ちよくなるからね、といって、全身を舐められた。着けていた服は破かれて、もはや着る意味をなさない。
痛みしか生まなかった行為をされた。そこからは赤い血と、白濁色の液体が流れ出ている。

「もう、いっか」

たった10年しか生きていないけど、こんなにも期待を持つことも希望を持つことも出来やしない世界なら。
自分がこれ以上傷ついてしまわないうちに、諦めてしまおう。生きていくには、『まとも』を捨てるしかない。
子供らしさ、自身が守られるべき存在であること、そういった、所謂『子供らしさ』というものを、捨てるしかない。

「…つかれたよ、くるしいよ、しあわせになりたかったよ、」

かあさま、とうさま。
消え入りそうな声で呟いて。幼い子供…女になってしまった少女は目を閉じ、『まとも』を捨てざるを得なかった。


(二度と助けを求める事のない子供のお話)






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