殴られて殴られて、顔は痛いし、目が腫れて視界は狭まっているし、腕は多分あらぬ方向に折れ曲がってしまっているのがうっすらと狭まった視界からちらちら見えるけど、激痛が度を超えてしまっているのか痛みを感じないからどんな風に折れ曲がっているのかよくわからない。足も、同じようにきっと折れてる。
見えるところも見えないところも、同じように殴られて、これが一体何時間続いているんだろう。確か、あいつらが剣を持って切りかかってきていた時もあったはずだけど、もうその痛みすら感じない。
熱くもなくて、ただ、殴ってくる衝撃を感じるだけで、あいつらの笑う声が聞こえるだけで。

どうしてこうなってしまったんだろう。
俺はただ、あいつらの横を通っただけなのに。それが悪かったのか?
ぼんやり考えていると、きゃらきゃら、と心底面白そうな笑い声が響いてきた。
誰がこんな場面を楽しんでいるというのだろう。あいつらだって、ずっと俺を殴ったりしていて、もう楽しそうな顔ではなく疲労を浮かべて「こいつはいつ死ぬんだ?」といったような顔をしているというのに。

「坊っちゃん、いや、嬢ちゃんかな?まあどうでもいい。そんなことはアタシにとって枯れかけた木に降り積もる雪くらいどうでもいい。意味がわからない?そんなことだってどうでもいいんだ。つまりは君がたとえ男であろうと女であろうとどうでもいいっていうことさ。どうでもいいのはそれだけじゃなくて君が今、そう、現在進行系で今!死にかけているのもアタシにとってはどうでもいいさ!けどねけどね、坊や、嬢ちゃん!もしも君がこいつらに何か仕返しをしたいと願うのなら!こいつらが俺と同じ目に合えばいいと願うのなら!こいつらが死ねばいいと願うのなら!こいつらを殺したいと願うのなら!そのとき今起きているこれはアタシにとってどうでもいいことではなくてアタシにとって大切なことになる!さあ、どうする坊や嬢ちゃんアタシに願う?願うかい?こいつらに仕返しを、こいつらに俺と同じ苦しみを、こいつらに死を!願うと言うのなら、いってごらん!アタシに何をして欲しいのか、アタシの手が必要か、アタシを必要とするのか!君が一言。自分がしてほしいことを言うだけでアタシは君の力になるよ坊や嬢ちゃん!お代のことは気にしなくてもいい、もうたくさん君からはもらっているからねえ!いや?今からもらうとでも言えばいいのかな?どちらにしても君はアタシに命令できる!こいつらを殺す?こいつらを死よりも苦しい目に合わせる?それとも許してしまう?さあどうする坊や嬢ちゃん!」

未だにあいつらが俺を殴り続ける手は止まらない。
聞こえる声は楽しそうにそう語りかけてきた。仕返し?殺す?きっとこの声は俺が死にかけているから聞こえているんだろう。幻聴だ。
嗚呼、でも、幻聴というのなら、その声がもしも本当に今現在実在している何かの声であるとするのなら、俺にそれが力を貸してくれると言ってくれているのなら。
どうせ死ぬんだから、言ってみるのも、いいかもしれない。

「…お、ね、…い…」

お願いします。

「ど…か…!」

どうかどうか、

「あ、な、の…き…っ、て、くだ、…い」

あなたの好きなように、してください。
こいつらを殺してもいい。死よりも苦しい目に合わせるのもいい。許してしまうのも、あなたが望むことならあなたが選んだことなら仕方ない。
だから、どうか、俺にあなたが語りかけてきてくれたのはきっと何かの縁があったということだから。
あなたが好きなように、してくれることが、俺の望みです。
いよいよ目も開けられなくなってきた俺が目を閉じた瞬間、再び、声が聞こえた。

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!アタシが好きなようにしろって!!初めてだよそんな事を言ってきたニンゲンは!!いや、君はニンゲンじゃないから言ったのかもしれないねえ!!いいよ、君、とってもいい!!もう死ぬというのがもったいないくらいに君のこと、アタシは気に入ったよ!!おk、わかった。君の願ったとおりにアタシが好きなようにしよう。ふふふふふふふ、何年ぶりだろうねえ、こんなに“笑った”のは!アハハハハハハ!本当、気分がいいねえ!!ふふ、ふはははは、あははははははっふふふふふっ!!」

あははははははは、ふはははははは、はははははははははっ!
そうやって声はひとしきり笑ったあと、俺に言った。

「了解したよお、依頼人」

一切の笑が込められていない、冷たい声。
声の主が「アタシ」という一人称の割には声が低めであったことにそのとき初めて気がついて、なんでこんな時にそんなことに気がついてしまうんだろう、もっとほかのとこに気が付けよ俺の馬鹿。
そう思いながら、俺の意識はブラックアウトした。





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