真っ赤な屋敷。
真っ赤な使用人達と両親。
真っ赤な視界に広がる、惨事。
真っ赤な世界で笑う、男たち。

見渡す限り、赤、紅、朱、アカ。

下品な笑い声、金属音、女の悲鳴、それらすべてにイリマは怯えた。
私が何かしただろうか?否、私は何もしていない。だとしたら両親が?否、否!人が良すぎるが故に成り上がれない両親だ。恨みを買うことも、ましてや人を恨むことからして有り得ない。

ならば、これは何故?誰が、何の為に?

そこまで考えた頭は、一際大きく響いた叫び声で現実に戻される。
声のした方向を見れば、倒れ伏した女が男たちに囲まれていた。来年、子供が生まれるの。と嬉しそうに語っていた女は、倒れ伏したまま、動く気配がない。
ケラケラ、と男たちが笑う。
背後で、ドサリと何かが倒れる音がした。視線を移せば、若い騎士が倒れている。
僕も、綺麗なお嫁さんを捕まえたんです。そういって幸せそうに微笑んだ彼は、虚ろな瞳で、涙を流し、イリマに語る。

『どうか、ご無事で』

瞬間、彼の頭は鈍器によって潰された。

「、は」

飛び跳ねた脳が、頬に付着する。
飛び散った血が、足元に伸びた。
何人もの人が死んで、イリマは漸く自身の頭が冴えるのを感じる。
奴らの狙いは、イリマ=クルトアの、勇者候補の弱体化だ。
腕を切り落とす事による戦力の低下、両親や使用人といった人間を殺す事によるクルトア家の排除、そして残酷なまでの手口によるイリマの精神破壊。

「は、はは、はははっ…あははははは!」

イリマは笑った。
男たちの予定通り、狂ったように笑った。

「愉快、愉快だ!とんでもなく、愉快!」
「私を弱体化して、あの子を勇者にしようって魂胆なのだろう!あはははは!愉快、愉快だ!下らないほどにな!」
「流石は貴族、流石は権力の亡者!」
「私を排斥して何の得があるか、分かっていない愚か者たち!」
「いいだろう、徹底抗戦だ!貴様らに渡せるか!私は勇者である!最後まで勇者として生きてやろう!イリマ=クルトアは死んだ、これからは私はただのイリマ!勇者として生き、勇者として死んでやる!」

あはは、あはははは、はははははは!
笑う笑う笑う笑う。
高まる魔力、怯える男たち、それらに気付く事なくイリマはひたすら笑い、ひたすら壊れ、


呪った。


「愛しているよ、愚か者たち」
(殺してやるよ、愛し子たち)



次いで彼等を襲った閃光、轟音、地震。
それらの衝撃に目を閉じた男たちが目を開けた時視界に入ったのは、この世の物とは思えない美しさの美女と、倒れ伏したイリマの姿だった。







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