今まで幾人もの人間を斬っては殺してきた。もはやその行為こそが当然とも言えるようになってしまったこの世の中、俺もその行為を繰り返し何喰わぬ顔で過ごしているのだから恐ろしい。男たちは日々戦や政治に頭を悩ませ、妻となる女たちはそんな男が戦に出でるのを各々が複雑な思いを胸に見送る、そんな世の中になったのだ。

「蔵ノ介さま、御支度整いました」

「…おおきに 下がってええよ」

自分は一番偉いのだと、自分こそが天下を取るのだと、そう思い込み自信をもっていなくてはならないことに不満を感じる武将はいるのだろうかと考えることもあるが少なくとも俺を除いてもごく数人だろう。表面上平和主義な主もいたりするが裏でどんな独裁的政治をしているかわからないし、いつ戦を仕掛けてくるかもわからない。城の中は常に緊張感が溢れ、ピリピリとした空気が張り詰めていて居心地が悪い。

「蔵ノ介さま、戦に行かれるのですか…?」

「…堪忍な ほんまはこんな戦なんややりたないんやけどな…」

「…無理を、なさらないでください」

「、わかっとるよ」

大事な妻にさえも心配をかけさせてしまう。戦に打ち勝ち城へと戻ってくる、自信はある。城の中の仲間を死なせずに幸せにしてやりたい、そう思うから。ならば手土産に持ちかえるは敵方の首。ほかの者は闘志を燃やしている。
俺が勝たなあかんねん。

せやから、

「せやから、もう少しだけ我慢しとって…」

「……くらのすけさま、」

「かならず戻ってくる、お前を抱き締めたるから城で待っとって…?」

「‥当たり前です。私は蔵ノ介さまの妻としてこの城に居るのです。何があろうとも我が城からは動きません」

「…そか、おおきにな」

馬に乗れば姿が見えなくなるまで送ってくれる。それがどれだけ有り難いことかを俺は知っている。俺のために涙を流してくれることが、それだけでもう十分満足だから。

「…ほんまに、おおきに」










明日の自分は
愛せるだろうか

(闇に落ちるその瞬間が)
(俺の最後となるのだ)



企画|花の下にて。
参加させて頂きました。ありがとうございました。