優しい前の主

「ッ清光!主に何しようとしてんだよ!」



「あー…こっちに来たらいけないよ。」

こいつが清光とやらか。俺たちの方へ近付こうとしたみんなをここに来ないように命じた。

今は危ない気がする。

「君が退いてくれないと俺が起きれない。」

目を離さなかった。

「はぁ?今の状況がわかってないの?」

「わかってるよ。」

こんな状態でわからないやつは普通いないだろう。

「んじゃあ、死ね!」

刀を振り上げる。


「なぜ俺を殺す必要があるのか教えろ。」

動きが止まった。

「まさか八つ当たりって言わないよな?勘弁してくれよ。」

まだやるべきことがたくさん残ってるんだ。

「いいじゃん。赤の他人なんだし。」

「まぁ、俺らはな。でも君の大切な大和守安定を見てみろよ。」

泣きそうな顔をしてんのがわからねぇのか。

「…ッなんで!?いつもいつも安定ばっかり!」

「…!」

加州清光が隙を見せた一瞬で刀を奪い、大和守安定たちがいる方へと転がした。

「?!何すん…いッ!」

俺は加州清光の肩を掴んで床へ倒した。

「手荒なことしてごめんな。」

さっきとは反対の眺め。俺は加州清光の顔の隣に手をついた。

馬乗り状態なわけで。やっちまった感と申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

「俺を折るんだったら早くしなよ。」

これは悪いことをしてしまったな。

「じゃあ、お話でもしようか。」

「…は?」

「そうだなぁ…前の主との楽しい思い出を聞かせてよ。」

「意味わかんない。」

「え、ないのか?そんなはずはないだろ。お前にしかやらないような愛し方をしてもらってたんじゃねぇの?」

あくまで俺の予想だけど。可哀想だからって言って最後の力を出し切るくらいだからな。相当過保護だったと俺は思う。

加州清光はゆっくりと口を開いた。


「遠征から帰ってくると必ず爪に赤を塗ってくれた…主の髪をいじっても何も言わなかった…俺が泣いている時…抱きしめてくれて。」

加州清光の目には涙が溜まっていた。

「それでもお前は満足いかなかったのか?大和守安定の方が愛されてると思ってるのか?」

「違う…」

溜まっていた涙が流れていった。

「…だろ?やっぱり優しいんだな前の主は。」



「うん。みんなを平等に愛したかっこいい主だったよ…」

泣きながら笑っていた。

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