「見ようとしなくても見えて、見ようと努力しても見えないものとは・・何か判るか?」


前にされた本の謎のように、また謎かけをされた。色々考えを巡らせてみるが、やっぱりわからないものはわからない。考えるため俯いていた頭を上げ、男を見たところでふと、思った。それは馬鹿な考えだと、言えば笑われるかもしれないけど。


「それは、あんたじゃないのか?」

「・・・・・・・・・」

「あ、その・・。いつも探してるときにはあんた、見つからないのに・・。ああ、いないんだって思うと途端に現れるから、・・・・」


口に出したところで、男の虚ろな目に見つめられて、何だか自分が今言った言葉がとても恥ずかしくなる。ついついアキラは今の言葉を取り消すように言う。


「悪い、今の忘れてくれ」

「・・・・・・・・・・」


もう一度俯くと、不意に男の白くい腕が伸びてきて、頬を撫でた。瞬間、ぴりりと頬に刺激が走る。静電気のようで、それでも何だか形容しがたい温かさのようなものがあるそれは、一瞬で収まり、男の手は頬を伝って顎に到着したところで、くいっと顎を持ち上げた。自然と男と目が合ってしまい、緊張か、あるいは恥ずかしさのせいか、ひどく居心地が悪かった。


「・・・・・お前が俺を探すことで。少しでも、距離が縮まるのであれば」


そこまで言って、男は顎から手を離し、代わりにアキラの目を覆う。


「ちょ・・・・」

「・・・また、会おう」

「ま・・・・っ」


手で覆われたせいで、目を開けた瞬間あまりの眩しさに目を瞑ってしまった。それを後悔しつつも1〜2秒後目を開けると、そこには男の姿など最初から無かったかのような空気が広がっていて。


「くそ・・・・・・っ」


どうしてか地団駄を踏んでしまいたくなって、年甲斐も無いからやめる。
男が「また会おう」と言ってくれた、その言葉を信じるほか、男と会うことはないだろうと、主導権を握られているようで悔しくて、アキラは下唇を噛んだ。


(けれどこの現状も悪くないかもしれない、)


END.