唇が、重なった。 今まで幾度となく屈辱的な行為を強制されてきた。それは強者が弱者をいたぶるかのようなもので、まるで優しさの欠片も感じられなかった行為なのに。 初めて、キスをされた。 それは触れるだけの、一瞬のもので、泡のようで。それでもどこか甘さを、優しさを含んだもので。 「・・・・」 その後の言葉を続けることが出来なくて、身体が疲労を訴えていて。とりあえず心身ともに休ませようと、じっと天井を見つめた。 けれど先ほどの予想外の出来事があり、どうしてもいつものように易々とまどろみの中には飛び込めなくて、ただただ今のシキの異様さを考えていた。 どうしてシキは丸一日、下手して二日も帰ってこなかったのか。 どうしてシキは今日は様子が違うのか。 その謎は多分、この約2日間の間にシキが殺した相手が関係しているのではないかと、漠然と思った。 アキラを監禁してからも殺しをやめたことはなかったはずだ。それなら、多分、今回の相手はシキがよほど気になっていたか、もしくは大事な人だったか―・・・・・。 そこまで考えを巡らせて、ふと心臓あたりに針で刺されるような痛みを感じた。どうしてかただの空想、根拠のない勝手な妄想だというのに、シキの「大事な人」が気になって、羨ましくて、同時に悔しくて。 (・・・・・・・・悔しい?) 変なシキにつられたのか、今のアキラも何だか変だった。 孤高の存在といえど、確かにシキだって人間だから、大切な存在の一人や二人、ちゃんといて当たり前のはずなのに。それが悔しく感じるのは何故なのだろうか―。 END. |