面倒くさい。そうとしか言いようがない。
さっきから10分は経った。角があるたびに曲がっているが、気配も後をついてくる。23歳の割には体力がある方だと思ってたけど、さすがに10分全速力はキツイ。キツすぎる。


「はぁ、はぁ・・・っ」


息も絶え絶え。喉は痛くて上手く呼吸ができない。加えていうなら当たり前に太ももも痛い。角を曲がりすぎたせいか現在地が把握できない。曲がっても曲がっても大きな道路には出られないところをみると、路地裏の迷路は俺をそう簡単には出してくれないらしい。
こうなったら、いちかばちか。


「・・・・・っ」


地面を思い切り蹴って、丁度あった自動販売機を踏み台に、そこから再度飛んで空き家の窓へと進入しようとした、が。
ぐい、


「・・・・っあ!?」


足首を掴まれ逆に引っ張られた身体は、そのまま地面に真っ逆さま。
しかしそんなことは常人には無理なはずだ。自動販売機の2メートルに、俺が跳んだ距離は50センチくらい。どんなに身長が高い奴でも届かないはずなのに。
こんなことできるのは、奴しかいないはず。


「―・・・臨也」


宙に浮いた身体を抱きとめ、耳元で囁かれる自分の名。この低い声もたくましい腕にも覚えがある。


「シズちゃ・・・・ぐっ、!」


シズちゃんの拳が鳩尾に入る。疲労していた身体が悲鳴を上げ、痛みに意識が霞んでいく中、最後に見たのは幸せそうなシズちゃんの微笑みだった。