いつも通り粟楠会の幹部に情報を売って、人気のない路地裏を通って帰宅する。今日もその予定だった。



「また何かあったら頼む」

「ええ、お安くしますよ」


リムジンの中で、情報を売る代わりに大金を得た。袋に入れられたそれは、数えて諭吉が10枚ほど。


「それでは、」


リムジンを出て人気のない路地裏へと進む。粟楠会とはもう何度も同じ方法で情報を売り大金を得てきたが、だからといって今日も身の安全が保証されたことにはならない。先週は大丈夫だったかもしれないが、今日はもしかしたら後ろから殴られるかもしれない。常に背後には気をつけ、ポケットの中に入っている右手はナイフを掴んでいる。

先ほどリムジンを出てから10分ほど歩いただろうか。進んだ先には迷路のような路地裏。ここまできたら少しは警戒を解いていい、とポケットの中に忍ばせていたナイフから手を離そうとした、その瞬間。


「・・・・」


後ろに、人の気配を感じた。
今はもう2時半だ。こんな夜中にわざわざ人通りの少ない路地裏を歩く者がいるだろうか。考えられるのは先ほど別れた粟楠会の人間だ。だが、気配は1つしか感じられない。というか、粟楠会の人間だったら気配を隠すに違いない。


「・・・・・・・」


試しに角を曲がってみると気配も同じように角を曲がった。
曲がった角の先には廃れた居酒屋などがあるだけ。こんな場所に用がある奴なんてまずいない。ということは気配は俺を追ってきているのだ。


「ち・・・・・っ」


今日こそはゆっくり眠ろうと思ってたのに、今夜はいつ自宅に帰れるのか。明け方だけは勘弁してほしい。
俺が走り出すと気配も走り出した。いよいよ俺は追われているらしい。後ろを見ても逆光でどんな人物なのかはわからない。ただ、身長は高い方なのはかろうじてわかった。