嫌いだ。嫌いだよ。君なんて大嫌い。
拒絶の言葉を口にすれば帝人くんはなおさら嬉しそうに微笑んだ。


「君って誰のことですか?」

「そんなこともわからないの?君しかいないだろ。この場にいるのは俺と君だけなんだから」

「名前で言ってくれないとわかりません。それにその拒絶は……本当に、僕に当てられたものなのかどうか」


帝人くんはさあ、と声には出さずに俺を促す。彼は微笑んでこそいるけれど内心怒りに満ちているのは雰囲気でわかった。俺が気づいていることに彼は気づいているのに、そんなこと一切構わないあたりが彼らしい。

それにしても、名前で言うことと代名詞で言うことの何がそんなに気に食わないのだろう。拒絶の言葉は主語を言い換えたところで何も変わり無いというのに。彼の意図はわからない。わからないからこそ、ここは下手に刺激しないよう要求を呑む。


「俺は嫌い。大嫌い。……竜ヶ峰みか――」


竜ヶ峰帝人。その名を声に出すことは簡単なはずだった。はず、なのに。


「俺は、竜ヶ峰帝……みか、…み…っ!」


声に出そうとしても最後の1文字がどうしても言えない。まるで喉に規制がかかったようだ。どんなに首を擦っても一呼吸おいても――何をしても最後の一文字が声にならなくて。俺の様子を楽しげに見ていた帝人くんはやっと閉じていた口を開いた。


「これでわかったでしょう」

「…何が」

「臨也さんは僕のことを嫌ってないということを」


その言葉に一瞬でもそうかもしれない、と納得してしまった自分が酷く、疎ましい。



END.
13日からこそこそ書き続けていた作品