時刻はもう7時。そろそろお弁当を食べようかと立ち上がると同時にピンポーンと鳴るチャイム。こんな時間に訪れる友達は生憎いない。セールスだろうか。けどセールスなんてこんなボロボロのアパートの住居者の元に来るものだろうか。軽い気持ちで扉を開けると、そこにいたのは真っ赤な―。


「………臨也さん?」

「やあ帝人くん。ちょっと匿ってよ」


まあ君の意見は聞かないけど。そう言って臨也さんは呆けている僕の横からひょっこりと部屋に入った。いや、いやいやそうじゃなくて。


「臨也さん!」

「なに?」

「あの、わかってると思うんですけど頭から血が……」

「あぁそうだった。ちょっとタオル貸してよ」


いま思い出したとでも言うかのように臨也さんは頭に手をやった。臨也さんの状態は、ギャグ的に言うと頭にトマトを投げつけられたような、真剣に言うと前頭部から血を流していた。それも結構大量。乾いてないところを見るとどうやら負傷したのはついさっきらしい。
急いでタンスを開いてまだ新しいタオルを取り出す。それを水で濡らして臨也さんに渡した。


「帝人くん気が利くー」

「人間として当然のことです。それよりどうしてそんなことに―?」

「あぁ、これ?うーんと俺の優しさがこんな結果を生み出しました」


ニコニコと、おおよそ怪我人らしからぬ普段と変化のない笑顔。その笑顔が今度は全く意味不明な言葉を紡ぎだす。正直、意味がわからない。よくわからないのですが、と言うと臨也さんはやれやれと肩を落として口を開いた。


「じゃあ簡単に言うとね、この血は赤い絵の具」

「……は!?」

「心優しい俺は非日常が大好きな君のためにわざわざ非日常を体験させてあげようと思ってこの計画を考えたわけなんだよね、昨日」

「…昨日ですか」

「うん。匿ってとか全部ジョーク。あ、全部じゃないかも。さっきまでシズちゃんに追いかけられてたから半分本気だったかな〜」


ペラペラと聞いてもいないことを喋りだす臨也さんが、普段は煩いなあとか思うけど今日ばかりはどうしても愛おしく感じた。


END.
うちの帝人様は感性がおかしい気がする