期待した自分が馬鹿だったんだ。こんな怪物を好きになるなんて物好きどこを見渡したってそうはいない。ルックスはそこまで悪くないと思っている。ただ、外見だけじゃ駄目なことだってあるのだ。けれど夢を見ていいなら、雨でぼやけた視界から走ってきた人物がラブレターの相手だったら――




気づいたら中庭に向かって走っていた俺はとても馬鹿だ。きっと雨の中待ってるシズちゃんよりも馬鹿。
バシャ、と大きな音とともに靴の濡れる感触。大きな水溜りを踏んだために裾が濡れて肌に張り付いて気持ち悪い。雨に遮られて動かしにくい両足に必死に動かし、シズちゃんの前で立ち止まる。少しだけ乱れた呼吸を整え顔を上げた。


「………シズちゃん、こんなところで誰を待ってるの」

「―お前が、やったんだろ。これ、」


これ、と差し出された真っ白な封筒。中身は見なくてもわかっていた。だってそれを書いたのは間違いなく俺自身なのだ。


「よくわかったね、シズちゃん。ああ怒らないでよ。これは君のためを想ってやったんだから」

「俺のため…?」

「そう。君のため。可哀そうで孤独で寂しがりやな怪物くんのためだ。シズちゃん、君はいつでも怖がられてきた。老若男女問わず―そうだね、近づいたのは僕と新羅とドタチンだけかな。そんな君を哀れんだ俺が、一時でもシズちゃんのことを幸せな気分にさせてあげようと思ってこのラブレターを書いてあげたんだ」


こんなことペラペラ言って。返ってくるのは拳しかないというのに。
明日は絶対に学校に行けないな、と思いながらシズちゃんの動向を探る。さっきから静かなシズちゃんを見ていると少しだけ反省の気分になってきた。逃げるつもりはない。俺が悪いという自覚はあるのだから。


「いいよ、殴って」


それだけのことをしたんだから。
ぎゅ、と目を瞑る。この後訪れる暴力は30分で終わったらいいな、なんて希望的観測を持ってみる。
5秒が経った。10秒が経った。雨の音がざあざあと五月蝿い。俺の心臓の音もどくどく五月蝿い。15秒が経った。20秒が経った。雨音が僅かに静かになった。おかしいことにまだシズちゃんの動く気配すらしない。もしかして、と思い目を開けた。


「っ」

「……………」


目の前に映るシズちゃんの顔は無表情だった。何の色も、感情も見出せない無。俺以外の他人と話すときもあまり喜怒哀楽は見せていなかったがこれは極端であり、異様だった。


「シズちゃん……?殴んないの?」

「…………」

「怒ってないの?」


そんなことありえない。わかってる。シズちゃんは怒ってる。どうしようか。この状況は初めてだ。
とにかくシズちゃんが話すのを待とう、とじっとシズちゃんを見つめる。このまま無言を貫き通すのかと思っていると、唐突に話し始めた。


「―手前が蟲以下だったことは知らなかった。本家ノミ蟲に失礼だったな。お前は殴る価値もない。つまり今度からお前とは関わらないし目も合わさないし話さない。……ほんと最低だよ、お前」

「………そんな今さらな…」

「ああ今さらだ。……少しは話せるやつかもしれない、とか心のどこかでえ思ってた俺が馬鹿だったんだな」


最後の最後にシズちゃんが浮かべた笑みは自嘲だったのか嘲笑だったのか、俺には結局よくわからなかった。



END.
長い上にわけわかめすみません…。
書きたかったのは、シズちゃんに嫌われるようなことをしておいて嫌われるとすごく悲しかった臨也でした。ただ全然変な方向に進んでしまって残念。機会があればリベンジしたい