授業終了を報せる鐘が鳴った。数学の教科担任が教室を後にしたのに続いて、ニセラブレターを片手に俺も廊下に出る。この時間は誰も下駄箱には近づかないからラブレターをシズちゃんの靴箱に入れるには持ってこいなのだ。
4組20番の靴箱には、踵が少し潰れた外靴が入ってる。ラブレターはわかりやすいように靴の上に置いた。靴の上のラブレターを見たとき、シズちゃんはどんな反応するんだろう。頬を赤くするのか。挙動不審にキョロキョロするのか。それともあまり顔色は変わらない?
どれにしたって俺が楽しいことに変わりはない。早く放課後にならないかな。5、6時限目の授業はたいてい寝てるけど、今日は眠れそうになかった。




帰りのHRが終わり、お待ちかねの放課後がやってきた。掃除当番をサボった俺はいま屋上にいる。ここは中庭を見るのに一番適した場所で、普段鍵がかかっているので俺以外は誰も来ない。唯一、新羅を除いて。


「臨也」


噂をすれば、だ。いつの間にか隣に来ていた新羅は、携帯に目を落としつつ話しかけてきた。にまにまと頬が緩みきってるのを見ると、相手はあの同棲相手だろう。


「僕は先に帰るよ」

「えー新羅も一緒に見ないの?」

「静雄の反応が怖いしね。今回僕は何が起きても知らぬ存ぜぬを貫くからね」


それはまあ保守的なことだ。あいにく新羅の世話になるつもりはないので心配しなくていいのに。
操作をし終えたらしく顔を上げた新羅の顔はさっきまでのにまにまは嘘のように真剣なそれ。


「あのさ、友人として忠告しておくけど、臨也はもう少し自分の気持ちを考えた方がいいよ」

「自分のことは俺が一番理解してるつもりだけど」

「ううん。臨也は一つだけ目を背けてるものがある」

「…ないよ、そんなの」


俺は自分自身を過小評価も過大評価もしていない。それは自分の感情の動きについても言える。俺は自分の欲求は感情には素直だ。コントロールが出来ているとも言う。それらをちゃんとわかっている俺が何から目を背けているというのか。新羅が嘘をつかないのは知ってる。けれど、理解できない。わからない。


「まあいいよ。これは僕が言ってどうにかなる問題じゃないしね」

「俺は新羅の思ってるようなことはないと思うんだけどなー」

「後でわかると思うよ。…それよりセルティが迎えに来るからここらで去るよ。―じゃあね、」

「また明日」


最後の最後で真剣な顔を崩しにやけた顔を晒して新羅は嬉々とした様子で去って行った。いまいちよくわからなかったが、とりあえず今は新羅の言葉はどうでもいい。シズちゃんが、現れたのだから。





→さらに続きます