扉が開く。少しさび付いたそれは開けにくそう。


「起きたか・・臨也」

「―シズちゃん」


見慣れた長身、少し痛んだ金髪、サングラス。それからバーテン服。この低い声も外見もすべて俺の見知ったシズちゃんのはずだ。それなのに、この拭いようもない違和感は何だろう。


「趣味悪いねーシズちゃんも・・。俺をくくりつけて殺す気?まあ、君の殺人履歴の第1号になるなんてこれほど屈辱的なものはないけど・・」

「黙れ」


言うが早いか胸倉を掴まれ強引に立たされたかと思うと、頬に衝撃。遅れて痛みがはしり、口内に鉄の味が広がる。出血の量から考えると頬が切れたのではなく歯が抜けたんだろう。たぶん奥歯。
堅い畳の上にひかれた布団のおかげで全身強打、なんてことはないけど痛む身体。足枷が邪魔くさい。痛む頬に手を添えると同時に、今度は背中にさっき以上の衝撃。


「ぐ・・ぅ、・・・げほっごほッ!」


いっそ死んだほうがましではないか、というほどの激痛が体中を巡る。息を吐くことは出来るか吸うことがどうにも難しい。というか咳ばかりが溢れてくる。思考もなんだかあやふやだ。


「シズちゃんさ・・・・そんな連携コンポどこで覚えてきたの・・」

「あ?まだ話せたんだな」


もしかしてこれ俺死ぬの。言葉を発する前に、シズちゃんに鳩尾を蹴られる。手加減されたおかげで気絶することはなかった。けどもし手加減をされてなかったら?そう思うとぞっとする。打ち所が悪ければ内臓破裂も夢じゃない。暴行されてるのにおかしな考えだがシズちゃん手加減してくれてありがとう。


「これで少しは大人しくなっただろ」

「・・・・」


話そうと思えば話せる。ただそれをしないのは、俺に学習能力があるから。
それにしても体中が痛い。ここまで痛めつけられたことは初めてだと思う。骨折はしてない。ただ身体中がその一歩手前の状態。ここでシズちゃんを激昂させたら俺の人生はお終いだ。長生きしたいとは思わないけど、ここで人生をを終わらせる気はさらさらない。ただ、ここで屈するだけは腹立たしいから非難の視線を浴びさせる。


「あ?何か言いたいことあんのか」


まるでチンピラのようなシズちゃんに、俺はそれに絡まれたサラリーマンのように小さく横に首を振る。


「俺はてめえに言いたいことがある」

「・・・・・・」

「お前は今からこの家で飼う」


突拍子もない台詞に目が眩む。何そのエロゲみたいな台詞。何その悪い予感しかしない台詞。言いたいことはやまほどあった。もし俺がいつもどおりぴんぴんしていたら、今の台詞に侮蔑の視線と嘲笑を送っていただろう。

シズちゃんの瞳は真剣だった。