臨也は昔から美しかった。昔といえど高校時代からの付き合いなのでそこからしかわからないが――とにかく臨也は、昔から男女問わず人気があった。
もちろん性格は非常に難があったわけだが、それを知っているのは新羅と門田と、それから俺くらいだ。それ以外のやつらはあいつが眼光の奥でどんな計算を働かせているか気づきもせず、「折原くん、」「折原、」と媚を売る。そして臨也は臨也で、それに笑顔で対応する。それが嫌で嫌で堪らなかった。

今思えば俺はそのときから臨也に恋していたんだろう。



「臨也、」

「なあに?シズちゃん」

「この卵焼き、美味いな」

「ほんと!?」


素直に褒めると臨也は嬉しそうにありがとう、と言った。今にも犬のように左右に揺れている尻尾が見えそうだ。臨也が嬉しそうだとこちらも嬉しくなって、ついつい顔がにやけた。そしてそのまま、茄子の味噌和えを口に含もうとした、そのとき。


「あ、UFO!」

「え」


視界の端に誰かが上空を指差したのが見え――反射的にそちらを向いた瞬間、「あ!」と臨也の声が聞こえた。今度は臨也の方を見る。臨也は今にも泣き出しそうな顔をしていた。俺がUFOを探している間に何があったのだ、と臨也の見ている方へと顔を動かす。

そこにいたのは、臨也の弁当を中身を食べている少年――確かりゅうがみね(残念なことに漢字がわからない)とかいう奴だった。もぐもぐと口を動かして飲み込んだと思えばまた次のものへと手を伸ばす。俺の膝にあるというにも関わらず、だ。ある意味で彼の度胸は大したものである。

口を開くのを躊躇っている俺の代わりに臨也が震える声で帝人くん?と零した。それを聞いた彼はぴたりと動きを止めたかと思うと、笑顔ではい、と返事をした。


「………それ、シズちゃんへ作った弁当なんだけど」

「ああ、大丈夫です。静雄さんには僕がきちんとお弁当を持ってきましたから」


そう言った少年から渡されたのはコンビニ弁当だった。しかも賞味期限が明日の。


「………」

「じゃあ、このお弁当は僕が貰っていきますので…」

「ちょっと待った」


固まっている俺をよそに、少年は臨也の弁当を持って立ち去ろうとしたそのとき。臨也でも少年でも、もちろん俺でもない声が響き渡った。一斉にその声の方を見る。そこにいたのは来良の制服を着ている蜂蜜色の髪の少年だった。


「……え、正臣?」


最初に口を開いたのは弁当を奪った少年だった。何やらその正臣くんとやらと面識があるようだ。


「帝人!独り占めはよろしくないぞ」

「えーでもこういうのって早い者勝ちだと思うんだよね」

「そんなことないさ。さあ一緒に分け合おうじゃないか!」

「……おい今来た少年。それは臨也が俺に作ってくれた弁当なんだが……」

「……静雄さんだって独り占めはよくないと思うんです」

「はあ!?」


何故独り占めと言われなければいけないのだ。臨也は俺の恋人なのだから、その権利はあるつもりだ。
相手が年下、しかも多少の面識があることからなかなか怒りが頂点に達しない。標識を投げるのも気が退ける。

それにしても、と隣の臨也を見る。臨也はおろおろと、仕事の顔とは全く違う、つい守ってしまいたくなるような慌てっぷりでこっちを見たりあっちを見たりしている。
そんな可愛い顔でこの動作。惚れるなというほうが無理である。そんなわけで――俺は臨也の弁当を狙っている男たちの気持ちもわかるから、あまり強く言えない。


「……はあ、」

「溜息?…ごめんね、俺が弁当作ったばっかりに……」

「や、お前は悪くねえよ。ただ、お前のモテッぷりに嫉妬した」

「え……っ」


臨也は顔を赤く染めたかと思うと、今度は真っ青になった。赤くなる理由はわかっても青くなる理由はわからない。どうした、と問うと今度は目がみるみる潤んでいった。まさかと思った次の瞬間には臨也は涙をぽろぽろ零しだした。


「ちょ…おい、」

「ごめ……ごめんねっ…俺、そんなこと思われてもまだ、シズちゃん大好きだから…っ」

「お、おう」

「どんなに他の人に言い寄られても全く嬉しくないのっ…俺、は、シズちゃんしか見えないから…!」


ぐずぐずと泣き出した臨也を撫で、そのままゆっくりと腕を背中に回した。少年たちがあっと声を荒げた気がしたがどうでもよかった。

(この腕に臨也がいれば、それでいい)



END.
零さまリクエスト、「臨也総受け、しかしシズちゃんしか眼中に無い」…とのことでしたが、あんまり臨也総受けっぽくなってない…><;
苦情は零さまのみ受け付けます。
それではリクエスト有難う御座いました^^