ピリオド

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「飛べない鳥は、不幸でしょうか」
 サンダルフォンは鳥かごの隙間から指を挿し込み、ちょいちょいと小鳥を撫でた。小鳥はぴぃぴぃと鳴いてすり寄るように指にもふついている。サンダルフォンは小さな笑みを浮かべている。ルシファーは報告書を読みながら、視界の端にいれていた。
 親鳥の庇護下から零れ落ちた小鳥は、傷つき倒れどうにか生きていた。あとは朽ちるだけだろうかとなっていたところを、サンダルフォンに拾われた。ルシファーさま、どうしたら良いのですか。両手で包み込んで、ルシファーの下に戻ったサンダルフォンは不安に、瞳を揺らしていた。衰弱しているだけだ。餌を与えておけばいいだろう。その言葉通りに、サンダルフォンは小鳥を甲斐甲斐しく世話をした。獣が獣を育てる。面白い光景だから、そのままにしていた。ルシファーさま、どうしたら良いのですか。再び問われたサンダルフォンの手のひらには、小首を傾げる小鳥がいた。弱々しい姿がうそのようにまるまるとしている。飛ばないのです。太りすぎかと笑ったルシファーに、サンダルフォンはちがいます! とやや語尾を荒げて言い返す。笑いながら、その小鳥を見る。なんてことはない、ただ羽を怪我していただけだ。話を聞く限りでは、飛べないうちに巣から落ちて、その時に怪我をしたのだろう。治りますか。期待するような言葉に無理だろうな告げた。治療をしたところで、この鳥の平均寿命はたかが知れている。親鳥から何も教わることのなかったこの鳥が空の下で生き延びることは、どう考えたって無謀と言う他ならない。顔をゆがめてそっと両手のなかの毛玉を包み込んだサンダルフォンに、飼えばいいだろうと口にしていた。良いのですか。好きにしろ。……ありがとうございます。サンダルフォンは眉を下げながら、器用に笑った。生真面目な性格だ。飼育にあたり、問題は何もなかった。あの小鳥はどうした。届いた報告書を優先事項毎に仕分けをさせていたサンダルフォンに声を掛ければ、ぱちくりと目を瞬かせて、元気ですよとにこやかに告げた。麗らかな昼下がりのことだった。
「お前は、不幸だと思うのか」
 サンダルフォンは目を伏せた。鳥かごから小さな囀りが聞こえた。此処には餌もあり、襲われる心配もない。そうだろう? はい。言いながらサンダルフォンは寂しげに笑った。納得していないのだろうということが分かる。ルシファーの言葉が不満、なのではない。喉元に引っ掛かりを覚えて、うまく、呑みこめない。すり寄る小鳥は、のろくて、とても野生で生きる事ができるような性質ではない。小鳥の首元を撫でる。なでやすいように仰け反る小鳥。サンダルフォンが甘やかして、飼いならした。そのつもりはなくても、小鳥を、野生から引き離した。可哀想なんて、同情も、サンダルフォンのエゴ。分かっているのに、誰かに告白をしたかったのは、罪を背負うにはサンダルフォンの心はあまりにも、無垢だった。その罪悪に、耐えることのできない、脆弱さ。小鳥に、己を重ねているのか。
「お前も、空が恋しいか?」
「恋しい?」
 繰り返したサンダルフォンは、何も思い出していないようだった。くっと、喉の奥でわらい、柔らかな癖毛を撫でまわす。ルシファーさま! 慌てながらも振り払うことなんて、出来るはずもなく、耳まで真っ赤に染めてサンダルフォンはその手を享受した。従順で、あまりに愚者。ルシファーにとって、サンダルフォンと言う存在は目障りだった。完璧であったルシフェルを堕落させる魔性。ルシフェルは何を思って造ったのか、ルシファーにはわからない。公正無私なルシフェルが唯一手放そうとしなかった存在。愛玩か、廃棄かと迫ったところで何も言わなかったのは幸いだった。あれはまだ、壊れていない。廃棄と称して、記憶を改竄したサンダルフォンは基礎の性格からして、従順にルシファーを慕った。そこに、ルシフェルの面影をみることもなく。ただ、ルシファーを慕う。ルシファーは、ほくそ笑んだ。果たして、いつから、何故、張り合っていたのか。
──ざまあみろ。残念だったな、俺の勝ちだ。

「飛べない鳥は不幸でしょうか」で始まり、「残念でした、私の勝ち」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば12ツイート(1680字)以内でお願いします
#あなたに書いて欲しい物語
2018/07/01
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