ピリオド

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 天司長ルシフェルが復活をした。青空に広がる純白の翼を、僕たち──ルリアとビィは見守っていた。ルシフェルはカナンのことを、ルシファーの遺産のことを覚えていた。こうして、ひとつの、空の世界の長い戦いをは終えて天司長の復活というハッピーエンドを迎えることが出来たのだ。どこからともなく、四大天司も顕れた。空の世界も安泰だなあ、なんて肩の荷が下りたような、ほっとしたような気持ちになったのと同時に、何か大切なものを忘れているような気がした。それは、きっと、とても大切な何かだ。
 ルリアやビィも、何かを忘れているように小首を傾げている。
 僕たちは、何を忘れているのだろう。喉に、何かが引っ掛かったようなもどかしさを覚える。
 ルシフェルが、僕たちに感謝の言葉を告げたので、意識は塗り替えられる。あまりにも、次元の異なる神々しさに尻込みしながら、有難い言葉を受け取った。

 ……そういえば。僕たちはどうして、カナンに行ったのだろう。どうして、天司長と知り合ったのだろう。誰に、言われたのだろう。ぽっかりと空いた穴は、塞がらない。浮かんだ疑問の答えは、広い空の何処にもない。
忘れられた天司

 エーテルが形作っていく。銀の髪、蒼い眼。美しい、清廉なる純白の六枚翼。
 天司長として、ルシフェル様が復活を果たした。ああ、良かった。
 天司長の翼は、その場しのぎの代替品ではなく、やはり貴方の背にあるのが相応しい。満足に息を吐き出すと同時に、俺が消えていくのが分かった。
 元素と化す、姿を消すのではない。眠りにつくのではない。消失だった。
 さらさらと砂のように消えていくのが視界にちらついた。
 指先が消えていくのと同時に、意識が薄れていく。
 此れは、空の民でいうところの「死」と同義なのだろうと、漠然と思った。死ぬのは、初めてだけれど。自分の呑気な思考に乾いた笑みが浮かんだ。
「最期に、お役に立てたでしょうか……?」
 俺の問いかけに、願いに答える人は誰もいない。
──嗚呼、眠い。
 あの人に、褒められたい。名前を呼ばれたい。最期の瞬間まで、あの人のことばかりを考えている自分がおしくて、笑いながら、さようなら
忘れられた願い

 ふとした瞬間、違和を感じることがあった。あまりに些細なこと。自身に課せられた天司長という役割に支障をもたらすこともない。しかし何か、言い知れぬ違和は確実に胸を巣食った。何かが、足りない。漠然とした虚しさが広がる。
「……っ」
 誰かに、呼ばれた気がした。ルシフェルさま。期待を込めた声。応えなければ、名前を呼ばなければ、あの子は──。振り向いた先には、麾下の天司が報告のために控えるだけ。金の髪をした天司。私の反応に、僅かに驚いた様子を見せる。
「何か不備がありましたか」
「いや、何も。そのまま、戻ってくれてかまわない」
「承知しました」
 灰色がかった翼を広げて、彼は任務に戻った。灰色。彼の翼とは異なる、彼の翼は
「……?」
 彼の翼とは、いったい何のことだろうか。
 顕現してから、何かを思い出そうとしても、何を忘れているのかすら分からない。何かに、後ろ髪をひかれている。記憶、記録、全てに問題はない。戦闘においても、何も、異常は無い。
 再顕現の際に、何か不備があったのだろうかと思ったところで、特異点を思い出す。特異点たちの記録が混ざっているのだろう。いずれにせよ、この不具合も時間が過ぎれば正常になる。
忘れられた楽園


title:ユリ棺
2018/04/14
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