ピリオド

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 赤司の存在に戸惑いが無かったかと言えば即答することは出来ない。幾ら聡いといえども未だ9歳でしかないのだ。茜の中には勿論、複雑な思いもあった。どうして父さん―・・・黒子を助けてくれなかったのだろうか、追いかけてくれなかったのだろうか。けれども、その隣で見たことが無いくらいに幸せそうな雰囲気を出している黒子の前で言うには憚れた。今が幸せそうならまあいいかと思ったのだ。

 それに、今の茜にはそれ以上に問題を抱えていた。

「赤司さん」

 そう呼び掛けるたびに、赤司が悲しそうな顔をしているのは分かっていた。茜もその呼び名が他人行儀であると分かっていた。けれども、茜としてもどう呼び掛けたら良いのか分からないのだ。

 茜にとっては黒子こそが父であり母であった。喋り出して物心ついた頃から黒子のことを「父さん」と呼びかけていたのだ。

 しかし、正しく言えば「母さん」というべきなのだろうが、どうもタイミングが分からないのだ。

「父さん・・・? いや、でも・・・」

 すっかりタイミングを逃して悶々と悩んでいる茜を楽しそうに見ている赤司がいることを黒子だけが知っていた。


 黒子は呆れたように、息子の悩んでいる姿を見て笑っている夫に苦言する。

「茜が呼び方を変えるタイミングでも作ってあげればいいじゃないですか」

「ん?」

 何をとぼけているのやら。

 自分のことで悩んでいる姿がそんなに嬉しいのかと思えば、どうやら心中は複雑らしい。父さんと呼ばれたいが無理矢理は嫌だなんてとんだ我儘だ。その癖、茜が黒子を「父さん」と呼びかけている時も振りかえるのだからいやらしいったら無い。

「ボクとしては母さん呼びでも構いませんけど」

「ならテツヤが言ってあげなよ。 ボクのことは母さんで構いませんよって」

 うぐっと黒子は良い詰まる。

「・・・あんな風に悩んでいる茜なんて滅多に見れないんですもん」


 茜は良い子だ。良い子過ぎて、自分の問題は自分で解決しようとして、人に頼ろうとすることが無い。それは親を観て成長したのだから仕方ないことなのかもしれないが、黒子は寂しくもあった。

 同時に赤司の気持ちも少しだけ分かったのだ。

 信頼されていない訳じゃない、ただ頼られていないというのは酷く、空しく、哀しい。

 ふむと考えるようにして赤司が口を開いた。


「タイミングか・・・弟か妹でもいたら、呼びやすくなるんじゃないか?」

「え」

 含み笑いを浮かべた赤司の視線から逃れようとするも、腰にまわされた手によって阻止された。
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