ピリオド

  • since 12/06/19
 届いたばかりの真新しい名札は『赤司』となっている。当然と言えば当然だ。黒子茜、ではなく赤司茜となったのだ。『赤司』と呼ばれるたびに自分のことを言っているとは思わなくて、応えるにはまだ時間がかかっている。何時か慣れる日が来ると分かっていても今はまだ、こそばゆい。それは黒子も同様だった。電話口で名乗ろうとするたびに、そういえばボクは赤司だったと思い返して気恥かしくなるのだ。

「赤司茜って何だか語呂が悪い気がする」

 名札を弄りながら思わず呟いてしまうと、学校からのお知らせプリントを読んでいた黒子が顔をあげた。

「そう、でしょうか」

 言われてみれば、そうかもしれない。若しかして嫌なのだろうかと不安になっている黒子に気付いた茜は慌てて取り繕う。

「嫌な訳じゃないよ」

 嫌な訳では無くて、未だ慣れていないからだとフォローをいれる。黒子は慌てた様子の茜に驚きながらも分かっています、と言う。

「あのさ・・・俺の名前の由来って聞いたこと無かったけど・・・」

 聞いて良い? 言外に含めて言うと黒子は微笑みながら、懐かしむように語った。


「茜が生まれた時に、夕暮れがとても美しくて、その光景が忘れられなかったんです」

 出産という疲れで意識を失って、眼が覚めた時に視界に飛び込んできたのは夕暮れだった。病室という白い部屋を真っ赤にするような、強い赤で未だ瞼の裏に焼き付いている。

 思えば不安から逃れたかったのだ。


「それから・・・ちょっとだけ、似ているでしょう?」

 誰と、とは言わないけれど茜には思い当たる節があった。

 征十郎という名前からとらなかったのは、その名前が黒子にとっては馴染み無いものだったからだ。それよりも赤司という名字の方が、馴染み深かった。

 だから、その部分から少しだけ拝借をした。

 なんだか強く育つように思ったのだ。


「『あか』って部分が?」

「ええ、 単純すぎますかね?」

 当時は自分のことに必死すぎて未来のことなんて考えていられなかった。

 過去も振りかえりたくなかった。今だけを、見つめようとしていた。だから、まさか、名字が赤司になる未来なんて考えもつかなかったのだ。

「ううん。 俺、自分の名前好きだよ」
「良かった」

 茜の容姿のみは赤司とそっくりではあるが、所作は黒子と似ている。矢張り人格を形成するのは環境ということなのだろう。

 笑っている様子はよく似ている。


(嫁と子どもが天使過ぎて辛い)

 それを見ていた赤司は緩みそうになる顔に力をいれて堪えた。
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -