物を溜めこむ性格ではないのだけれど流石に10年近く住んでいると物で溢れかえっている。いるものといらないものを分別しているにも関わらず物は減っている気配はない。
赤司も毎日のように顔を出して手を貸している。それに申し訳なく思いながらも有難く手を借りることにしていた。
「赤司くんだって疲れているのに、ごめんなさい」
「そんなことに気を使わなくたっていい。それに、これは僕のためでもあるんだから。僕だって早くテツヤと茜と暮らしたいんだよ。だからこれくらいどうってことないさ」
引越センターから送られてきたダンボールを組み立てて、物を詰め込んでいくという作業を繰り返す。
「ガムテープってもうありませんでした?」「俺が使っているやつがラストじゃなかった?」「なら明日買ってこないと」
茜と黒子がそんなことを言っていると不意に赤司が手を止めた。
「テツヤ、これって」
赤司が開いていた均一ショップで購入した小さなアルバムを観て黒子は懐かしむように言った。開かれている、とっていもそのアルバムには一枚しか保存されていない。
「懐かしいですね・・・茜を産んだ時に職員の方に撮ってもらったんです」
写真には生まれたばかりの茜らしき赤毛の子どもが、水色の髪を持つ人物に抱かれている光景が映っていた。しかし、赤司が言いたいことはそれじゃない。
「これは、テツヤなの、か?」
「え?」
その人物は水色の髪という特徴が同じくらいで今の黒子とはイコールで同一人物だと思い悪かった。というのも、写真の人物はあからさまに『女性』だったのだ。
黒子は何を言っているんだろうと訝しそうにしながら思い出したように言った。
「勿論、ボクですよ?・・・あ、この時はまだ女性ホルモンが多かったので身体も女性的だったから今思えばすこし女の人みたいですね?」
少し、ではない気もするのだが黒子に言うことも憚れて赤司は口を噤んだ。
「懐かしいです」
探しても黒子と茜が共に映っている写真は此れを含めて数枚しか無いだろう。それにこの写真は誰にも見せることは出来ずに、これを撮ってくれた職員を除けば黒子しか知らない写真だったのだ。
「あとで茜にも見せましょうか」
「あ、ああ」