ピリオド

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 茜は1を聞いて10を知る子どもだった。それは「父親」の遺伝なのかもしれない。そんな様子を垣間見るたびに黒子は複雑な気持ちになる。

(お父さんは、男だけどお母さん)

 気付いたのは6歳の時だ。毎日薬を飲む父は病気なのかもしれないと不安になってその薬の名前を調べた。それは男性ホルモンと女性ホルモンを調整するもので、処方されているのは男性妊娠体の、出産経験者だけだった。出産経験者はホルモンのバランスが崩れやすくなり、身体変化が出る事例がある。それを抑えるための調整薬だった。
 それからすとんと、茜は理解をした。どうして母親の存在が無いのかも、父親だけなのかも。全部分かった。
 同性間での婚姻が未だ世間から白い目で見られている。それに加えてその子どももまた、奇異な眼で見られている。なんて馬鹿馬鹿しいのだろうと茜は思う。けれど黒子が隠しているということは、そんな眼で見られたくないということなのだろう。
 本当の「父親」という存在について知りたくないのかと聞かれれば、迷うことはある。けれども1人で休むこともせずに齷齪と働く黒子の姿を見ていればそんなことも聞けない。それに黒子は茜が気付いたことも知らないのだ。

(早く大きくなりたいな。それで、俺が父さんに楽をさせてやるんだ)

 茜は黒子を尊敬していた。
 その目標を立てるだけで元より明晰だった頭脳は大人顔負けのものとなった。教師は茜を公立の中学では無く私学へと、と進めてきた。茜は黒子の耳に入る前にその話を切り捨てる。けれども茜を想ってなのか、それとも株稼ぎのためなのか、執念深い教師は黒子に連絡を入れた。



 初めて学校から連絡を受けたものだから黒子は大いに慌てふためいた。それが蓋を開ければ中学受験についてだったのだから拍子抜けだ。
 茜の担任は未だ年若い教師で、熱血漢溢れる人だった。茜を想っているような素振りの裏腹に自身の教師という職に酔っているようだった。

「僕は、この子の人生だからこの子が選んでほしいです。ただ後悔だけはしないでくれたら、何も言うことはありません」
「しかし茜くんを想えば」

 教師の食い下がる言葉にも黒子は頷かない。押し問答から解放されたのは下校チャイムが鳴り響いた時だった。それでも来た時間帯を考えれば30分程。
 学校なんて久々に来たなあと思いながら教室を出ると茜が待ち構えていた。

「父さん」
「茜?帰っていたんじゃないんですか?」
「待ってたんだ」
「それは・・・お待たせしました」

 水色のランドセルは大事に使っていても4年目になれば汚れや傷が目立つ。この年頃になれば反抗期を迎えると言うが、生まれてこの方茜の反抗期を黒子は見たことが無かった。今も黒子と手を繋いで帰路についている。
 公立の小学校だけあって校舎自体は使い古されているし、掃除も生徒自身が行っているため杜撰な箇所がある。それでも温かみのある昔ながらの学校風景だと黒子は思う。

「茜は中学、何処に行きたいとかありますか」

 敏い茜はそれだけで十分に分かった。お節介な教師がいたものだと内心、憤る。

「先生が言ったんでしょう?」
「・・・よく分かりましたね」
「父さんは俺に行って欲しいの?」

 不満そうな、不安そうな色々な感情をごちゃまぜにして茜は黒子を見上げる。

「もしも茜がお金の心配をしているなら、そんなの気にしなくたって良いんですよ。それだけです。茜が決めたことに僕は何も言いませんし、応援しますよ」

 その言葉に茜は笑う。矢張り父は誰よりも分かってくれていると思うと安心出来る。
 ひゅうっと風が吹いた。そろそろ暖房器具を出さなければならない。コートやマフラーも必要になる。茜は身長も伸びたし、服も買い替えなければならない。夕ご飯の話をしながら、2人並んで歩いた。
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