ピリオド

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「待ち続けるつもりだったんだ」
 サンダルフォンが洗ったコーヒーカップを、布巾でふき取りながらルシフェルが呟いた。サンダルフォンは手を止めて、横に立つルシフェルを見上げた。流れる作業ペースが僅かに崩れる。
 西日が差しこむ室内は赤く染まり白銀が色付いていた。ルシフェルはきゅっきゅっと布巾で丁寧にカップを拭きとる。それから、続けた。
「何年何十年、何百何千年だって、きみがただいまと言える場所になるつもりだった。きみに、お帰りというつもりだった」
「……後悔を、されていますか」
 自然の摂理に反する行為であった。進化という過程の中で、死は、別れは付き纏うものだ。その過程に逆らう現状を憂いているのかとおそれるサンダルフォンに、ルシフェルは首を振る。
「私ばかりが幸せな気がしてならない。本当に、良いのだろうかと……。サンダルフォン、きみは幸せだろうか」
 サンダルフォンは目をぱちくりとさせてから、見つめていたルシフェルから視線をシンクに落とす。泡だらけのスポンジが目についた。洗い物はもうない。サンダルフォンは、応えることはない。口にするのが恥ずかしい。けれど、ルシフェルはサンダルフォンの言葉を待っている。サンダルフォンは仕方なく、ルシフェルを見上げて首を傾げる。
「言わなきゃ、わかりませんか?」
 言いながら、その表情は、言葉では足りないほどに、幸福に満ちている。
「ああ。君の言葉が聞きたい」
 澄んだ瞳が、サンダルフォンの顔を覗きこむ。優しい顔をしている。口元の笑みを隠すつもりは無いのだ。分かり切ったことを態々聞くだなんて、
「仕方ないなあ」
 サンダルフォンは、観念して口を開いた。
「俺は───

2019/03/23
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