「な、なあ逆之上!」

俺はとっさに逆之上に声をかけていた。不思議そうに奴が振り向いてどうした、と返してくる。
やっべぇ…この先考えてねぇ…!

「や、いやー…なんていうか…お前って俺のこと知ってたんだな、って思って」

あははは、だなんて笑って誤魔化す。やばい、逆之上がめちゃくちゃ俺のこと変な目で見てる。挙動不審だもんな、俺。
でも逆之上はいきなり俺の方に近寄ってきて、でかい手で俺の頭を撫で回してきた。

「ばぁか、クラスメイトの顔くらい覚えてるっつの」

見てくれ。今、俺の目の前に、笑顔の逆之上がいる!!しかも俺の頭を、撫でている!!
夢じゃないよな、これって。夢じゃないよな…!
しかし俺はふとあることに気付いた。

「あれ、でも逆之上ってさ。教室にいる時はほとんど誰とも喋んないし、いつも違うクラスの大門と絡んでるのに、ちゃんと覚えてんのかよ」

そうだ、逆之上ってクラスの奴と全然話さない。それなのに、クラスの奴らの名前覚えてんのか。と俺は疑問に思った。

「なんだよ、疑ってんのかぁ?」

「そういう訳じゃ、ないけどな…。あ、じゃあうちのクラス委員の名前分かるか?」

「ああ?そんなん……………いや…あー…」

「……じゃあ…今、逆之上の右隣の席の奴は?」

「………………………」

得意げだった逆之上の顔がみるみるうちに歪んでいく。

「分かんねぇの?」

「ち、違ぇ!今思い出す!確かーお前が前にいて、んで隣は……あー顔も出てこねぇ!!」

「やっぱ覚えてねぇのかよ」

終には頭を抱える逆之上が可笑しくて俺は思わず笑ってしまう。やっぱり覚えてないよな、興味のないことにはとことんスルーしそうだしな。
………………ん、いや、でもそれってつまり。

「な、なあ…逆之上?」

「なんだよ!」

「クラスの奴らのこと全然覚えてないくせに、何で…俺のこと…覚えてんの」

俺がおそるおそるそう聞くと、逆之上はきょとんとしてから俺の方を見た。

「…なんでだろうな?」

そう言ってから、逆之上は天才テラスの方に用があるらしく、「じゃあな」と言ってそっちへ向かっていった。
俺はぼうっとその後ろ姿を見つめる。
数多くいるクラスメイトの中で、逆之上は俺のことを覚えてくれていた。それは、

「脈ありってことか…?」

その日、俺は浮かれすぎて午後の授業に集中できなかった。





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