僕はもうなにもできない。
手を差し出すことも、抱きしめることも、理由を聞いてあげることも、慰めてあげることも。何も。
君の儚い笑顔の奥に壊れてしまいそうな想いがあったとしても、そこに触れることは許されない。
――僕を選んでくれたなら。
◆ ◆ ◆
「ありがとう。でも大丈夫だから」
“大丈夫だから”の中には、これ以上触れてこないでという見えない予防線を張っている。
だったら、少し腫れた瞼とかそんな隙を見せないで欲しい。
そんなの見せられたら、抱きしめたくて仕方ない。
「本当に?」
大丈夫なわけないのに。
君はとても寂しがり屋なのに。
「うん。大丈夫」
それと同時に、とても残酷な嘘を平気でつくんだ。
それでも愚かな僕は道化師になったように、嘘の笑顔を張り付けて「何かあったら、すぐ連絡して」と言い放つだけだった。
それが僕の精一杯だった。
「ありがとう。いつも聞いてもらってばっかでごめんね」
彼女の申し訳なさそうに、少し眉尻を下げて言う姿は、どうしようもなく儚く、思わず手を伸ばしてしまいたくなるんだ。そんな葛藤と戦っていることなんて知りもしない彼女は、続けて「本当にありがとう」と屈託ない笑顔を、無防備に僕にみせた。
ああ、
ああ、どうして。
どうして、君は。
僕を愛してくれないのだろう。
ああ、
愛して欲しい。
その丸くて愛らしい瞳に僕を写して欲しい。
そしてそのまま時も忘れて僕だけを見てくれたら。
僕だけを。
僕の名を、愛おしく呼んでくれたら。
ああ、
ああ、どうして。
どうして君は。
「でも、大丈夫だから」
彼女は笑顔でそう言い放った。