▼ジョルノとディオ


※「イタリア語」、『英語』です
 前提として
 ジョルノがディオと離れて生活するようになってから年二回、2月と8月にジョルノからディオに手紙を書いている ことになってます。踏まえてどうぞ↓




アーモンドの蕾も開花するような季節、パッショーネ本部の連絡用電話が鳴り響いた。情報処理チームが出てからたまにボスへ変わる、重要事にしか使わない、最近余り鳴ることのなくなった電話だ。フーゴが計算をやめて電話に出ると、相手は名乗りもせずに急に声を張り上げて何かを捲し立て始めた。それがイタリア語でないことと、相手の声の大きさにフーゴは思わず受話器を耳から少し離してどうしよう、と部屋に来ていたミスタに視線を向ける。多分相手は英語で喋っているが、教科書英語しか慣れていないフーゴには速すぎて聞き取れなかった。

「ん?どした?」
「相手、英語で喋ってる……誰だかわからないけど。……とても早口で聞き取れない」
「英語?まだそっちとは取引してねーけどナァ……貸してみ」

ミスタの英語力を少し不安に思いながらも、見栄を張っている様子もないためフーゴは素直に受話器を渡した。今はジョジョの命で日本語をやっているが、それが終わり次第英会話もきちんとやっておかなければ、とフーゴは自分の心に深く刻んだ。受話器を受けとりアロー、と声をかけたミスタは電話先とかなりのスピードで何かを言い合っているようで、大学に行ったはずの自分よりも英語ができるミスタにまた奇妙さを感じた。

「はぁー……ナァ、フーゴ」
「はい」
「こいつジョルノ呼べって聞かないんだけど?どっかのシマの奴でもなさそうだし……どうする?」
「名前は?」
「それが言わねぇんだ」
「…………」

素性の知れない相手に頭を抱えたフーゴは突っぱねちゃってください、と答え計算に戻った。ミスタはしばらく言い合っていたが勢いよく電話を切り不服そうな顔をしてなんなんだアイツ、と悪態を吐いた。そして数分もたたぬ間にもう一度電話が鳴りミスタが出、顔をしかめてフーゴの方を向いた。どうやら同じ相手だったらしい。相変わらずジョルノを出せの一点張りで相手さんも情熱的だ。

「ジョジョ呼んでみます?知り合いかも」
「うーん…でも向こう大人っぽいしよォ、アイツに限って……」

ミスタと顔を会わせて唸っていると、部屋のドアが叩かれて返事を返さないままドアが開かれた。ジョルノだ。チャオ、プランツォを食べにいきませんか。なんて言うジョルノのタイミングの良さにフーゴは驚いた。ミスタは受話器を耳から離してジョルノに示す。

「ジョルノ、お前さんにあつーいコールが来てるぜ」
「? 誰ですか?」
「知らねぇけどすっげぇ怒ってる」
「グラッツェ。……プロント?」

ミスタから受話器を受け取ったジョルノは向こうが喋り出してからすぐ英語に言葉を変えて話し出した。ジョルノが不思議そうな声を上げないことからフーゴは本当に知人だったのだろうと推測する。話しているジョルノは少しめんどくさそうで、フーゴはそんなジョルノは初めてみたしミスタも滅多に見ないジョルノの気の抜けように相手は前からの知り合いかと予想がついた。にしてもシニョーレ空条はあんな声じゃ無かったし早口で怒ったりする姿は想像出来ない。

『あなたの許可が必要なほど子供ではないので。ランチを食べに行くのでまた後にしてください!夜なら出ますから……はい?ちょっと、癇癪起こさないでくださいよ、仕事はどうしたんですか。僕?僕だってさっきまで仕事してましたよ!ランチはイタリア人にとって大事なことなんです!イギリス人のあなたにはわからないでしょうが…』
「……なんか、ジョジョ怒ってないですか」
「ん〜……向こうが駄々っ子みてぇ。あとイギリス人らしい」
「それは僕も聞き取れたけど……」
『知りませんよ、それにマーマイトなんて食べ物じゃないです!とにかく、部下待たせてるので今はあなたが何を言おうと切らせてもらいます。なんならランチの報告もして差し上げますよ!チャオチャオ!』

ガチャンと勢いよく切られた電話にミスタはふざけて拍手をし、フーゴは心配そうにジョルノを見た。ジョルノは一度手で顔を覆い隠すと首を振って誤魔化すようにいつもの柔らかい表情に戻した。

「んで、誰だった?」
「…歩きながらでもいいでしょう。早くトラットリアに行きませんか。僕お腹すきました」
「いーけどよ。フーゴは?」
「あ…はい、行きます。ちょっと待っててください」
「僕もコート着てこなきゃいけないから、階段で待ち合わせしましょう。ミスタもコートを取りに行くこと。仮にも女性なんですから外でソレそんなとこに入れてたら怒りますよ」
「へいへーい」

ミスタのロングパンツの前ウエスト部分に無造作に入れられている拳銃を指差してジョルノは言った。それを引っこ抜いて振って見せたミスタは不満げに返事してジョルノを手で追っ払い、ジョルノはそれを受けてため息をひとつついてからまたあとで、と言って部屋を出た。ジョルノが出て行ってからミスタはジョルノと同じようにため息をついて拳銃をパンツに仕舞う。

「機嫌わりぃなあいつ……」
「えっ?」
「ちょっとだけイライラしてっからいっぱい食わせとかないとな。つー訳でフーゴ、今日は多目に持っとけよ」
「……イライラといっぱい食べることに関係はあるのか?」
「あいつの機嫌が良くなる。すると、さっきのことが聞きやすくなる」
「成程ね」

二人目を合わせて笑い、ミスタはコートを取りに自室に戻っていった。ミスタとはまだ二年に満たない付き合いで一緒に任務を行うことも多くないが、異様なほど気が合ったしミスタはフーゴを本気で怒らせることをしない。まるで10年来の付き合いのようだ。その点はジョルノも同じだ。しかしジョルノはアバッキオやナランチャとはやりづらそうにしているから彼の中で彼らと自分と何が違うのだろうと思う。ジョルノが来てから二年が経とうとしているが未だに理由はわからない。
時計を見上げると12時を30分も過ぎていたため、財布をわし掴んでコートを羽織り部屋を急ぎ出た。




靴を鳴らしながら三人は階段を降りていく。ミスタは青のピーコートの内ポケットに拳銃を仕舞っており、ついでに帽子をかぶっている。帽子やコートの中には充填用の弾がわんさか入っているのをフーゴは知っているが、仕組みがどうなっているかは女性相手で聞くに聞けない。ジョルノは白のトレンチコートを着ているが、合わせが逆に見えるのには突っ込めずにいる。ファッションなのかもしれないし、フーゴと同じく成長期に入っていないジョルノはまだミスタよりも背が低く、加えて端麗な容姿をしているのでコートの下を見なければ違和感も無いことだし、趣味なのかもしれない。結局のところ似合っており咎めるものは後にも先にもいないだろう。

「ジョルノ、おめーマフラーは?」
「……あ。忘れてました。すっかり」
「寒がりのプリンチペッサ、かっかしてたからって忘れもんはいけないぜー」

手を擦り合わせるジョルノにミスタは自分のしていたマフラーをぐるぐると巻き付けて、横にりぼん結びをした。顔半分がマフラーに埋もれてしまったジョルノは鼻と目だけ出した状態でミスタを見上げたが、ミスタがわしわしと頭を撫でたのでジョルノは特に文句を言わず巻かれたままになった。紺のマフラーによってより目立つ色白でふわふわの金髪、輝くアランチャの瞳はプリンチペッサ(お姫様)を通り越してバンボラ(人形)みたいだと、口には出さずに思う。この際ミスタと性別が逆に思えるのは仕方の無いことだ。

「…グラッツェ、ミスタ」
「おうよ。アモーレ」
「ミスタ、それはまだ」
「うん?……ああ、わりぃ」

さりげなくイチャついて一人浮いても僕はめげない。まだってなんだよと全力で突っ込みたい。既にお互いにはお互いしかいないような親密なにおいさえ纏わせているくせに。ジョルノと自分しかいない状態でミスタの口調はどんどん男のそれになっていて、コートの前が閉まらないほどの大きな膨らみがなければ二人の性別を疑いたいところだ。

「その辺にしてもらえますか」
「ああ、すみません。早く行きましょう」
「さっきの電話の話しろよなー」
「……わかってますよ」

途端口をすぼめて目を反らすジョルノは本当に珍しい。ミスタにとってもそうなのか、ジョルノの背中をバシバシと叩いて早くと促している。ジョルノはそんなミスタを恨みがましく見上げてため息をひとつついて、話さないで済めば良かったんですけど、と前置きしてから話し出した。よっぽど話したくない相手だったらしい。

「早い話、あの人は僕の兄です。イギリスにいます」
「お兄さん?」
「えっ?お前兄貴とかいたっけ?」
「ミスタには後で話しますけど……、いたんですよね。元々別々に暮らしていたので知りませんでした」
「へぇーッ!おめーの兄貴なら性格悪いのも納得だわ!人を言い負かす勢いも!そっくりだな」

にやにやとしながらミスタが言うと、またジョルノがため息をついた。フーゴもそう思ったがそこまでズバッと言ってしまって良いものだろうかと苦笑いする。

「でもどうして本部に電話をかけて来たんですか?携帯だってあるでしょう」
「……、あの人話が終わるまでこっちに好きなことさせてくれないんですよね。だから携帯は教えたくなかったんです。まさかかけてくるとは思わなかったんですが……、出たのが君たちでよかった」
「無理に詮索するわけじゃあないですが、ジョジョは家族の話をしませんよね。今初めて聞いた気がします」
「いないようなモンだしな、実際」

ミスタが呟いてジョルノをまた撫でた。ジョルノはただ撫でられそのまま話をやめた。それ以上のことを問うことは出来なかったが、ギャングの世界で家庭を晒して得することなんてないというのはフーゴもよくわかっている。それにギャングになるようなやつにまともな家庭持ちは殆どいない。犯罪者で家族との縁が切られていたり、ゴロツキで家族はとっくの昔に死んでいたり、貧民街にいて実際の血縁者はいなかったり、とにかくまともなやつはいない。それこそ、まともな家族を持っているのはジョルノが連れてきたミスタぐらいだ。ミスタはフーゴにとって不思議で溢れた存在だった。



***

ジョルノは昼の電話から主にミスタに散々ディオの話を強いられていたが、多くのことを喋らなかった。イギリス人で、弁護士をやっていて、なんて当たり障りのない、個人を特定できるようなことを言わなかった。名前ですらイタリアでは仰々しいためただあの人、とギャングの男のことを言う時とはまるで違った声で語った。身内の情報を下手に喋って弱味にならないようにしているのかとフーゴは思っていたが、ジョルノにはそういった意図はなく、ただ前世の息子として気心の知れた友人にあんなおかしな人を紹介したくなかった。ディオが襲われるなんてのは笑い種だが、逆にディオの情報を知ったミスタやフーゴがディオ自身に「自分のことを知っている」と認識されるのが面倒なのだ。
悩みすぎてせっかく頼んだガドーショコラも味気無かったので今度甘いものが苦手なディオにとびきり甘い菓子やケーキをセットにして送りつけてやろうと密かに決めた。
電話番号の書かれた手紙を引っ張り出して、執務室の固定電話に番号を打ち込んでゆく。時差も大してないだろうから深く考えずコールの音を聞いた。ランチの報告、面倒な旅行の説得、と必要なことを並べて長いコールを待つと、数えるのをやめたぐらいで返事があった。外か仕事の話途中だったのかと思ったが昼にはこちらを考えず電話してきたのだから仕返しみたいなものだ。教えた番号と違う機からかけたため取り繕った丁寧な返事だったが、僕です、と一言言うと途端大声で名を呼ばれて思わず受話器を耳から離した。

『……!、……いっ!!、ハルノ、』
『うるさいです。ランチはジェノベーゼにタコのサラダ、デザートにガドーショコラでしたよ』
『そんなことはどうでもいい、ジョジョのところに行くとはどういうことだ!』
『どうもなにも無いです。ただ興味があったので……、日本にも行ってみたかったですし』
『このディオには手紙しか寄越さないくせにジョジョのところには行くのか!相談もせずに!』

そういえば確かに、ぐらいにしか思えなかったジョルノは生返事をして背もたれに凭れた。年の離れた兄に恵まれなかった環境から拾い上げてもらったことでまたギャングの頂点に立てていると言うことは理解しているが、前の父だと知ってからどうも頼りなさというか、想像していた姿との違いに幻滅してしまう。父親という存在に夢を見ていたことがまた恥ずかしい。

『…昼にも言いましたよね?同じことを二度も言わせないで下さいよ。それにあなたの言うジョジョがいたのはたまたまです』
『イギリスには来ない癖に日本には行けるのか……、可愛くない息子だな』
『今は息子じゃないですよ、マイブラザー。そのうちイギリスにも行きますんで拗ねないで下さい』
『……いつだ』
『予定は未定です』
『ハン! 相変わらずジャパニーズみたいな言い訳だな!お前がそういう態度を取るならこっちにも考えがある。今決めた!』
『何……、』
『好き勝手しようったってそうはさせん!おれが驚いた以上に驚くがいい。かわいいハルノ!』

ゆったりと話すジョルノとは違い、早口で捲し立てたディオは最後に電話越しにキスをして電話を切った。男相手にそういったことを冗談でする人じゃないことは重重理解しているため、向けられた好意に寒いはずの部屋でジョルノは頬を熱くした。問題はそこではない。ディオはやると宣言したことは絶対にやる。それが仕事でも、家事でも、嫌がらせでも犯罪でもだ。ジョルノが驚くような考え、と言っていたがいったい何をやらかす気なんだろうか。今から頭が痛かった。

「全くあの人は……」

ギャングはファミッリャ(家族)を大切にすると言うがあれは血縁のファミッリャのことじゃなく組織のことだとジョルノは改めて思う。ジョルノ自身ひとりで生きてきたせいもあるが、そもそも職業柄新しくファミッリャをつくるのも難しい。
ファミッリャのディオが大切でないと言ったら嘘にはなるが肯定するのは些か阻まれる。血の繋がりが嬉しくはあったが素直に好くことはできなかった。それはジョルノが反抗期を初めて肉親にぶつけた結果だったが、ジョルノ自身気付いていなかったしディオですら経験したことがなく理解していなかった。今更ふと気まずくなりながらも、瞼をぎゅっと閉じて考えるのを止めた。





150422
誤字修正181204



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