▼徹夜は人を駄目にする


※若干の下ネタ注意




「腰がいたい……」

自称二徹目のジョルノが呟く。いつ倒れてもいいように様子見でソファーで書類に目を通していたミスタは、ジョルノの気を解すためだとか、あまり考えずに思ったことを返した。

「……激しすぎなんじゃあねぇの?」
「何が?」
「セックス」
「……、してませんよ!!あなたと一緒にしないでください!仕事で座っている時間が長すぎて筋肉痛みたいなものです!」
「ボス、まさかの童貞かよ」
「…………」

声を張ったせいか眉をひそめて頭を振ると、がっくりと項垂れてしまう。書きかけの紙とペンを放り出したままジョルノはデスクに両肘をついて手で顔を覆った。二徹と言ってはいるがジョルノの自己申告は信用ならない。睡眠時間がまばらだったあの時以上の疲労を見せ元の顔立ちの良さも霞ませる色白具合はとても健康状態だとは言えない。セックスはしないでも少なくとも溜まってはいるだろうなとミスタは思った。

「はぁ……」
「ちこっと休めよ。寝ないと体上手く働かないぜ」
「大丈夫です……、まだ…、それに、任せられる人がいない。ぼくがやらないと」
「オレがやるぜ?」
「正直頭が回る人が欲しい…、そう、フーゴとか……。データを見る限り彼以上に頭がいい人はそういないだろうな」
「無視かよ。確かにオレそんな頭よくねーけどさァ」

ミスタの話は参考程度にしか聞いていないらしい。平生のジョルノは、あなたにはデスクワークよりも外で働いてもらいたい、と言うのでオブラートを剥がせばデスクワークは向いていないからしないで良いと言うことだ。それぐらいミスタにもわかるし実際体を動かす方が性に合っているが、それがデスクワークを他人に押し付けてまですることかと言えば答えはNOだ。ジョルノはボスと言えど自分よりも年下で、本来ならまだ学生として学校に通い授業を受けるだけで良いような年だ。そんな彼に全部任せますなんてやっていられない。

「とりあえず休め。な?」
「ミスタ」

ソファーから立ち上がりジョルノのデスクに手をつく。ファイルやらクリップやらが散在したデスクの書類は大分統制を失っており、つまりジョルノの集中力も切れているということだ。見上げてくる顔の隈もすごい。

「どうせ重要なやつは先に終わらせてるんだろ」
「でも……」
「でももだってもねぇ!どう考えても二徹どこじゃないだろうが、大人しくオニーサンの言うこと聞いてなッ!このファイルは終了!」
「…………わかりました。君に言い返す言葉もすぐに出てこないくらい疲れているみたいだ」
「ケンカ売ってんのか」
「大安売りですよ」

少しだけ笑って返してくるのは、ケンカして黙らせればまだ続けられると思っているのだろう。そうわかっていては苛立ちも起きないし馬鹿にした言葉よりもジョルノの体が大事だった。成長期に寝ないと背が伸びないとか言う物理的な心配もある。
バサバサと紙とファイルを重ねてペンもペン立てに立てて奥の部屋を指差すと観念したのか伸びをして首を鳴らした。それから肩を回して垂れてきていた前髪を上げて、ようやく椅子から立ち上がろうとして思いきり転んだ。転んだというより足から崩れ落ちた。これには心配よりも先に笑いが来てしまい、声を抑えて肩を震わせた。ジョルノは口を尖らせてミスタを手招きした。

「悪かったって」
「別にいいです。それより、ベッドまで連れてってください。関節が軋んでいたい」
「立てねぇの?」
「君がいるから立たないだけです」
「かーわいい、わかりましたよプリンチペッサ(お姫様)」
「ふざけてんですか」
「大安売りだせ?」
「……もうなんでもいいです、眠い…、はやくしてください」

欠伸を噛み殺してうっすらと涙の膜を張りながらジョルノは目を擦る。ミスタがしゃがみこんで手を伸ばすと両腕を伸ばしたジョルノがミスタの手を取らずにただ重くなった瞼でミスタを見る。甘える子供みたいな仕草がかわいらしいが同じ背丈のジョルノを抱えられるかとミスタは悩んだ。ジョルノは見た目は細いが意外と骨太で着痩せするタイプなので重さも油断ならない、と思う。

「ねぇミスタ…」
「なんでこんなときだけ甘えたなんだ……?おめー、流石にだっことか無理ある…」
「今のぼくは軽いです……大丈夫、君に比べたら全然。じゃないとここで寝ます」
「ぐっ……、具体的にはどんぐらい?女より軽けりゃ運ぶしかねー」
「前は55ぐらいでしたけど……ねぇミスタ、腕が疲れてきたのでそろそろ、椅子を枕にして寝ます……。意外と柔らかいんですよ…」
「おわっ、バカ、わーったよ!」

ゆるゆると下ろされた腕をいなしてジョルノの背に腕を回す。ミスタの腰辺りに落ちた腕でそのままジョルノはミスタの短いカシミヤを掴んだ。ミスタに言われるままにジョルノが腰をあげると、そのタイミングでジョルノの脚に腕を滑り込ませたミスタが勢いをつけてジョルノを持ち上げ立った。何度か腕を動かしてジョルノの臀部の下に固定したミスタは、こんなに大きな子供をこの年で抱くことになるとは、と一人感動していた。コアラの子のようにミスタの首に抱きついたジョルノはおそらく初めてであろうだっこよりも眠気の方が強く、のしのしとミスタが歩く度に起きる揺れが心地よかった。瞼が自然と落ちてゆく。
ベッドまで長くない距離歩いたミスタは既に目をつむってしまっているジョルノをそっとベッドに転がした。仰向けになったジョルノは膝を立てて分かりにくいがパンツを微かに押し上げるものがあった。が、ジョルノ自身は既に微睡んでいて本人の意思は関係していないようだ。他人が勃起しているのを見るのは初めてではなかったし、ミスタはただ、普通の16歳に出来ないようなことをてきぱきとこなしてしまうジョルノにも年相応なところがあったのか、と兄か親にでもなったような気分だった。

「ジョルノー、抜かなくていいのか」
「放っておけば、収まります……それに眠い…」
「あんまり溜めてると体に悪いぜ」
「…あんた今日はそればかり……。さっき言ったけれど、あんたとは性欲の差がかなりあるんです…。うるさい。」
「そういうものかァ?」
「そういうもんです。Buonanotte...」

辛うじて開けていた目を閉じて膝を倒したジョルノは背を丸めて赤子のように手を胸元に寄せて寝息をたて始めた。そのうち起き上がっていたものもジョルノの言っていた通りに収まるだろう。年頃とは思えないジョルノの淡白具合に自分の過去と比べても疑問しか出ないが、イタリア男の本分を投げ出して同世代の女の子をあしらうジョルノは本心からそれをやっているようだし根本から違いがあるのだろうと無理矢理納得した。
荒れた唇に微かに生えている髭に満たない体毛、そして黒ずんだ目元から推測するに徹夜四日目には入っているだろうか。しばらく一緒に暮らしていた時に知ったがジョルノは週に1、2回しか髭を剃らない。それも朝起きて洗面台で剃るから、目立たないなりに生えていると言うことは三日か四日はまともに寝ていないと言うことだ。流石に風呂には入っているらしく髪を嗅いでもそこまで汗くさくない。元々体臭も薄めで同じ男のはずなのに顔立ちが女っぽいと体質もそうなのかと最初は思ったものだ。ジョルノが小さく唸ったため久しぶりに頬を擦り合わせ唇を鳴らしてから顔を離して、投げ出されていたタオルケットをかけてやり静かに部屋を出た。

「やっぱフーゴは欲しいよなァ……。別に組織を裏切った訳じゃねーんだし。あいつのことだから気にしてそうだけど」
「こんなペースじゃジョルノがぶっ倒れかねねー」

デスクに積まれたファイルや紙、中途半端に開いた引き出しから覗いている附箋、そしてゴミ箱に廃棄されたペン。ファイルをひとつ手に取り見てみたがそこには地図や店の写真、沢山の数字がひたすら書かれている。シマの売り上げ報告書だろうと予想はつくが、これ全てに目を通しサインをして指示を送り全チームのものを見た後に納金の多いチームには報酬を考えてやったりなどしたっぱのしたっぱにいた人間でも上のやることと忙しさは想像がつく。情報チームもまだプロフィールの把握及び普段の態度の様子見でまともに使えないため全てジョルノがこなしているのだ。いくら頭の回転が早くて有能なジョルノにだって限界があるだろう。
そこまで考えて、ミスタは行動に出た。まだ午後4時、カーテンが閉めきられており大陽は見えないが新たに組み上げ始めた親衛隊はまだ建物内にいることだろう。情報収拾に長けたムーロロに、現地で圧倒的火力を持ち咄嗟の判断力にも長けるシーラE。二人ともジョルノの信者と言っても良いほどジョルノに尽くしている親衛隊の筆頭だ。ジョルノ自身の健康に問題が出ていると言えばどこに隠れて暮らしているのかわからないフーゴもすぐに見つけられるだろう。二人はあまり仲がよくなさそうなので別々に話に行かなくちゃならないが、そこはジョルノの第一の部下としてそれを苦労なんて言ってはいられない。まずはムーロロから、そう意気込んでデスクに散らばっていたクリップをまとめてペン立ての隣に集めてミスタはジョルノの執務室を後にした。




15.03.01



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