▼スイート・トラップ


※ジョナディオ前提のDIOジョル、いちよう一巡後
 遊び人ディオ、Mっ気ありジョルノ
 急に始まって急に終わる




「あ、なんですか……やめてください。重いです」

ベッドにかけていたところを押し倒され、読みかけていた本を開いたまま胸に乗せる。見下ろしてくる赤い目がやけに輝いて、人類の色でない鮮やかさがいやに目を止めさせる。誰も呼ばない名前を乗せる舌は声は、息子の自分ですら甘く感じる。気付いてはいけないのだ。

「貧弱だな。……血が足りないのだ」
「あげませんよ」
「最終的にはお前の意志は関係ない。人間は脆弱だからな」
「そんなだからゲロ以下って言われるんです…」

本をベッドの端に追いやられて、手もそれぞれに縫いとめられる。抵抗しても徒労に終わることは見えていた。握り締められた手は冷たい方にあわせて冷えてゆくようだ。

「ジョナサンに怒られますよ」
「言わせておけ」

肌の露出している場所に口づけられ、だんだんとその位置が首に近づく。不快感がないだけましだと思った。拘束がほどかれて、襟刳りを思いきり開かれる。空腹の吸血鬼の前で、自分は面白いぐらいに無力であり、格好の餌なわけだ。他では感じようのない被虐感に思わず顔が緩んだ。

「いいにおいがするなァ…、ハルノ」
「どうせ血のにおいでしょう?」
「ジョースターの匂いだ……」

すんすんと犬のように鼻を利かせて馳走を今か今かと待ち構えられ、まるで此方がまてを仕掛けているようだ。鋭い犬歯が首を掠めて、消毒のように舐められると自然と力が抜ける。それと同時に来る高揚は吸血鬼ならではの力なのだろうと思いながら顔を反らした。無駄は嫌いだ。

「……痛いのはいやですからね」
「ものわかりのいいやつだな。さすが」

私の息子だ。そう言われて喜んでしまう自分がいるのが嫌だった。じわりじわりと体温が上がっているのだけは感じ取られたくなかったが、初めて感じる衝撃に何もかも呑まれていった。
いたい。疼く。生命を吸いとられているのに確かに感じる快楽が頭をかき混ぜた。喉を鳴らす音が近くて、撫でられている胸が強ばる。シーツにしがみついて必死に熱を逃がした。時々口づけて、吸われて、性行為の経験もない体は動揺しっぱなしだ。あつくてたりなくて。

「ぁ、は、ぅ……っ!」

息苦しくて、ついに声を漏らすとやっと気付いたように刺さっていたものが抜かれて傷を執拗に舐められた。それだけでぴりぴりとした痛みと甘さがやってきて脚を擦り合わせた。ようやく体を起こした吸血鬼は血のついた口周りを甲で拭いながらにやりと笑って慈しむように僕の頬から傷のついた首周りを撫でて、綺麗にした口で舌舐めずりをした。

「苦しそうだな」
「…………」
「手伝ってやってもいいぞ?優しくしてやる」
「……っ!それこそ、ジョナサンに、」
「怒られなければいいのか?」
「ぁ……、や、ちがっ…!離れてください……」
「なぁに バレなければいいのさ」
「パードレ!!」

伸ばされた手を叩き落として、寝返りを打って動きやすい体勢で体の距離を離した。ありがたいことに気分がそこまで乗っていたわけじゃないのか、自分を追ってベッドを進んでくる様子はない。親に迫られているというのに身体は発熱時のようにあつい。

「血はあげたでしょう。もう用はないはずです」
「つれないな」
「第一息子になにしようとしてるんですか 自分で処理します」
「息子じゃなきゃ今ごろ食い殺すかヤり殺してるがね」
「少しは口を慎んで」

体を起こして、下半身を上着の裾で隠しながら視線をそらすとクスクスと笑われて今更恥ずかしいといった感情が心を占めた。吸血には快感が伴うと聞いていたはずなのにこんなにあっさりと流されてしまうなんて。息が荒いせいで未だに肩の揺れが収まらない。自己嫌悪も甚だしい。

「ムードがない…」
「あってたまりますか」
「可愛げもないときた。肩を揺らして興奮しているくせに」
「うるさいです!!」
「ワガママだな」

仕方なさそうに言われて睨み返すとまたクスクスと笑ってこちらを見た。目を細くして、あれは、まるで。背筋が震える。無意識に後ずさった。

「いやだ、出てってくれ」
「いいじゃあないか ジョナサンは来ない。私はしたい。お前も」
「僕はあんたみたいにバイじゃない。ゲイでもない。あんたとすることなんてない」
「顔を赤くして言われてもなァ」

たべてくれと言っているものじゃあないか。露骨な発言に有り得ないと思えないのが恐ろしい。それでも体は疼いて、もっとほしいと声をあげていた。ベッドが軋んで向こうが動き始めても後ずさることしか出来なくて、はりついた喉で必死にジョナサンと呼んだ。いやだとか、パードレだとか、色々な言葉が混じって自分でも何を言っているのか訳がわからなくなっていた。騒ぎ立てる僕をお構いなしに組み敷いて吸血鬼は笑う。名前を呼ばれて背筋をぞくぞくと快感が走った。

「ディオ」

もはや視界が霞んでぼやけていた自分から視線が外されて、それと同じ方を見ると大きな男が一人ドアを開けて立っていた。

「なにしてるんだい」
「見ればわかるだろう?野暮なこと訊くなよ」
「ダメだよ。ジョルノから離れて」
「お前に命令される筋合いはないね」
「……ディオ」

ドアの傍に立っていただけの男がずかずかと部屋に入ってきて、吸血鬼を自分から引き離した。吸血鬼は首を押さえて苦しそうに男を睨んだ。

「大丈夫かい ジョルノ」
「ぁ……は、い…」
「ディオに何されたの?」
「……ちを…吸われて、あと…」
「……うん、ありがとう。わかったから、休んでいてね」

まだぼんやりとした頭で答えると、男は被さっていた吸血鬼を完全にどかせて自分を撫でてくれた。ようやくそれがジョナサンだと気付いて、火照った頬を何かが流れた。吸血鬼……パードレは、ジョナサンに首輪を引っ張られて、スタンドで自由を奪われていた。先まで楽しそうだった表情は今や恨めしそうにジョナサンを睨み付けている。

「ダメじゃないか ジョルノにあんなこと」
「うるさい 俺の自由だ」
「君ってやつは……」

腰を太い腕で固められて無理矢理パードレを部屋の外に出したジョナサンはドアを閉じる前にごめんね、と謝って出ていった。
まだあつい体と頭を冷やそうと、近くの枕を引っ張って抱え込んだ。下半身の熱は冷めていない。一瞬でも組み敷かれた後を期待してしまったことが自分でも嫌だったはずなのに体は自分の考え通りに反応してくれなかった。ため息をついたはずが、あつい吐息に変わっているようだと思った。心臓は限界まで働いている。休めと言われたが、熱を燻らせたまま休めるはずもないと若い体は主張していた。それを無視するように冷たいシーツを手繰り寄せて目を強くつむった。



15.01.19




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