▼5-7邂逅


ジョニィとジョルノが喋っている部分は日本語→英語、イタリア語→イタリア語(訳つき)
ジョルノとミスタが喋っている部分は日本語→イタリア語です。
ちなみにラツィオはネアポリス(ナポリ)のあるカンパニア州の隣の州のことです。イタリア首都のローマがあります。
ラツィオの方が北に位置します。





僕、ジョニィ・ジョースターはイタリアに足を踏み入れてからずっと引き合う何かを感じながらホテル探しをしていた。南に向かうにつれて次第に強くなる、何か。ホテル探しなんかよりむしろそちらの方を探しているようでもあり、ホテルは二の次でも大丈夫な気がした。なんとなく、首元の痣辺りを撫でた。


***
 ジェニー・ジョースター、25歳。国籍はアメリカ、競馬の世界では有名な女性ジョッキーだ。技術や外見の良さはディエゴ・ブランドーと並び、トップ及び人気を競い合っている。
 そんな彼女がイタリアに訪れたのは、友人を久しぶりに訪ねるためでだった。友人の名はジャイロ・ツェペリ、人口の多いラツィオのローマに個人で病院を開いておりそこそこに繁盛もしている。前世からの友人に初めて会ったのは前と同じ19の時で、近くの医大からの帰りだった。元々国籍も違い今世では会えないとばかり思っていたので顔を見た時にはあまりの衝撃に涙をこぼしながら駆け寄るという無様な姿を晒してしまったのだが。
 流石はイタリア男、と言わんばかりに慰められ、赤くなった目元を擦りながら顔を上げると、少しの不自然な間の後に名前を呼ばれた時はそれこそもう死んでも良いと思ってしまった程だ。自分達一族だけが妙な記憶を持っている訳ではなかったと喜びもした。
 それからは二人の大学の間ぐらいの場所にあるカフェやジャイロの借りているアパートで話してバカをしてそれは楽しい時間だった。けれど1年後、大学を出たジャイロはイタリアに戻り病院を継ぐと言い、まだ学生だったジェニーはついていくことも出来ずに離れてしまった。それからまた時が立ち、ようやく一人立ちをした昨年からジャイロの様子を見に行くのがジェニーの楽しみであった。年齢的に結婚ぐらい考えろと喝を入れようと考えながらジョッキーの仕事を暫く休んだのだ。
***


空港から降りてずっと歩きっぱなしで疲れた僕は近くのトラットリアに立ち寄った。イタリア語はジャイロのために多少目を通したりはしたが、短い単語ぐらいしかわからないため指差しでパニーノとコーヒーを頼んだ。男性定員は去り際に投げキッスを寄越してきて、運ばれたパニーノにはプロシュットがはみ出るくらいに詰め込まれて出てきた。美人はこう言う時に良かったと思う。
軽食を済ませて時計を見れば約15時。昼食にも夕食にも微妙な時間で、後の体重調整が面倒だと思ったが一週間ほどいるつもりなので考えるのは後にしようと決めた。
店を出てからのんびりと歩道をあるいて、今年はクスリにキマって路地なんかに伏せてるやつが少ないなぁと思いながら、何かに足を引かれる。暫く歩くと、歩道に寄せてある一台の青い車が見えた。高そうな車、と思いながら通りすがろうとすると向かいから車の持ち主と思われる浮いた格好をした二人が歩いてきた。パッと見未成年に見える二人は女性の方が荷物を持っておりここイタリアでは可笑しな光景だ。そしてその隣の薄いコートを着た少年に視線を移した時に、ばちりと視線が絡み合った。少年が首筋に手を伸ばすとほぼ同時に僕も首筋を、一族の象徴の痣を撫でた。

「……、Ciao」
「…Ciao」

立ち止まってしまった以上声を声を掛けないわけには行かなかった。それは向こうも同じだったようで、軽い挨拶を投げ掛けられて同じように返す。全く知らない他人の筈なのに、痣はざわついて仕方がない。この少年に今日一日引かれてきたと体が語っているのだ。

「È un conoscente?(知り合いですか?)」
「No.(いいえ)」
「Allora perché?(じゃあなんで)」
「Mista, si prega di tenere tranquilla.(ミスタ、静かにしていて)」
「…ぴ、Piacere(初めまして)」
「Piacere mio.(こちらこそ初めまして)」
「あ〜…僕イタリア語殆ど喋れないんだ、英語喋れないかな?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ありがとう」

覚えていないイタリア語は使い物にならないと思い、早々に切り捨てる。まだ小学生か中学生かの少年が英語を流暢に喋れるなんて、小さい頃英語圏に住んでいたか、それとも。なんてうわべで考えながら、既に答えは確信していた。

「名前は?」
「そちらから名乗るのが一般的かと」
「…ジョニィ・ジョースター、アメリカ人。職業はジョッキー」
「ジョルノ・ジョバァーナ、この辺の中学生です」
「ウン、よろしく。あー…なんか用があった訳じゃなかったんだけどさ。その、なんかさ、まどろっこしいなぁ。君だって感じるでしょ、これ」
「まあ感じなくはないですが、証拠が欲しいですね」

隣の女性が妙な顔をしながら此方を訝しげに見る。言葉が解らないと言うよりは、内容に違和感を覚えているらしい。僕だって何のこと喋っているのかワケわからない会話だと思う。元々話す内容も何もなかったわけだから仕方がない。
ただ感じるのは、彼――ジョルノが僕と同じだということだけ。久しぶりの感覚だ。
フード付きの緩い服を引っ張って、左首元を露出する。女性の方は驚き、ジョルノは痣を確認すると一言礼を言って自分の痣も見せてくれた。襟から覗いた白い肌にも自分と同じ痣が確認でき、ひとまず安心する。

「すみません、女性にはだけさせてしまって」
「いいよ別に。前は男だったんだし」
「そうですか」
「ウン。そうだ、これあげるから連絡してよ。他のやつは日本にいるはずだから来年にでも来なよ」
「空条氏…も、ですかね?」
「承太郎は高校生、徐倫は中学生だよ」
「……やはり時間のズレがありますね。わかりました。春辺りに行きます」
「伝えとく」

名前と連絡先が書かれた名刺を一枚ジョルノにあげててきぱきと話をつける。今世で見つけたらまず話し合おうが僕らジョースターの約束だ。主にジョナサンがうるさいから。この金髪だと徐倫の息子とかその辺かなぁと適当に推測してみるがあの家は本当に紛らわしい家系だから当たるとは思っていない。
隣の女性が少し不満げにジョルノに何かを言っていたが、イタリア語だったために内容はわからなかった。ジョルノはそれを気にとめた様子もなく手帳の千切ったページにペンを走らせていた。

「…ジョニィ」
「なに?」
「これ、僕の連絡先です。この後どちらへ?まさか僕に会うためだけにイタリアへ?」
「ありがと。そんな訳ないだろ、友達に会いに来たんだ。で、ホテル探し中」
「成程……ホテルに希望はあります?良かったら用意しますよ」
「……君何モンなわけ」
「ただの中学生ですが?」
「げー」
「まあ詳しくは空条氏にでも。で、ホテルどうしますか」
「じゃあコーヒーが美味しくてベッドがふかふかのとこ」
「聞きましたねミスタ?一時間以内でお願いしますね」
「……Si」

ぶすっと返事をした女性は荷物を持って車に乗った。その際に女性が残した小人のようなものをジョルノはつついて、トレ、と呟いた。そいつは警戒するように僕とジョルノの間を行き来する。

「それスタンドだよね」
「ええ。彼女のね。連絡先をあげたのを拗ねてるのかな……」
「ガールフレンド?」
「いいえ」
「あ、そうなの」
「ええ……用意出来たので車までどうぞ」
「……ん」

スタンドの小人が何かを言って、ジョルノがその小人を撫でる。普通初対面の奴の車なんか乗らないけど歩き疲れていたし、こいつは大丈夫だって体が感じ取っていたから大人しく乗った。運転席の彼女はミラーから見ても不機嫌そうだったが、ジョルノは慰めようともしないから彼は本当にイタリア人なのだろうかとも思い、訊いたところ実際はイギリスと日本のハーフでイタリアの血は少しも入っていないと言われて堪らず笑ってしまった。日本のハーフなら陽気に話さないのにも頷ける。かつての妻もかなりのシャイで可愛かったものだ。




ジョルノとミスタはジョニィと会った場所から車で20分程の中規模ホテルに一番良い部屋を取りジョニィを下ろした。フーゴに連絡を入れて探したホテルは近くて一番条件に合いそこそこの規模である。そこはパッショーネの管理下であり、寝具は勿論、コーヒーや紅茶が特に良いと評判の場所だ。
少しやり過ぎたか、と今更ながらジョルノは初対面の気がしないジョニィを見て気付いたがジョニィがコーヒーやハーブティに素直に喜んでくれたため、良かったと思った。ホテルの店員にも危険の無いように、また最高のもてなしをするように言いつけておき、また近いうちに会うだろうと考えアリヴェデルチと残して別れた。


「ジョルノー、さっきの何だったんだよまじ。初対面なのに親しげに話し出すし、おまけにお前さんと同じ星付きと来た」

あと急にコキ使うなよ、とミスタが運転席から言った。ミラーから見えるミスタの顔は不機嫌と言うよりも、不可思議そうに道路を睨んでいる。ジョルノにも詳しいことはわからないために暈した言い方になったがわかる範囲で話をした。

「まあ、痣を見てわかる通り血縁者ですね。何か血縁同士で引かれるものを感じました。空条氏もいるみたいですしあの様子では一度は集合させたいみたいです。いったい何人いるんでしょうかね」
「あたしが知るかっての。一人で行くの?まあ空条氏がいるなら大丈夫だろうけど」
「まさか。あなたも連れていきますよ」
「マジで?日本に?」
「はい。殆ど記憶にないので楽しみです」

すっかり旅行気分でスケジュールを組み始めたジョルノに多少ゲンナリしたミスタだが、決定してしまった以上楽しむしかないとすぐに割りきった。確かに行ったことはないし普段あまり縁もないが国自体はよい国だと聞くし。そういえば日本語なんか分からないが英語で通じるのだろうか、と考えていたところ、ジョルノから重大な任務が言い渡される。

「あ、そういえばミスタ、日本語は行くまでに覚えて下さいね」
「………ハァ!?え?」
「フーゴと一緒にやって教えてもらって下さい。重要なもの以外仕事からも外しますんで。向こうの春だから、半年後くらいかな」
「え、ちょっと嘘だろ!日本語ってロシアの次に難しいって聞いたことあんぞ!?」
「慣れてきたらパッショーネの中でも日本語で話すことにしますね。ドン・パッショーネの命ですよ」
「〜〜〜ックソ!」

良い笑顔で言われて部下の身であるミスタは逆らえる筈もなく、さらに決まってしまった明日からの予定にスラングを吐いてハンドルを殴り付けた。巻き込まれたフーゴなど気に止めることもなく、ジョルノの理不尽さの苛立ちを運転に出したがミラーから見えたジョルノは機嫌どころか表情をも崩すことはなかった。思っていた以上に機嫌が良いらしい。
若干二名を巻き込みながら、ジョースターとの対面の時が近づいていった。






141018
加筆修正150209





戻る

TOP





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -