▼誕生日




自室で報告書のチェックを終えたフーゴは、手帳を開いて新しく入るであろう予定日に印をつけて、プライベートの休みをいつ取るか考えていた。イタリアではミスタのような時間や予定に適当な者が多く手帳を持つものは殆どいなかったが、仕事は完璧にこなしたい真面目なフーゴにはこれが手放せないでいる。パラパラと捲ると、約一ヶ月後に赤で書かれた文字を認識して思い出したように声をあげた。



響いたノックにどうぞ、と声をかけジョルノはペンを置いた。報告書と今後の予定案です、とフーゴがドアを開けながらに言い、ジョルノは礼を返す。


「向こうも足を出したので後は攻めるだけです。シーラE達を行かせるまでもないかと」
「そうだね。その案でいいよ。チームはミスタにでも決めさせといて」
「わかりました」

報告書等を受け取ったジョルノは同時にフーゴの報告の要約を聞き、机の端に束を置いた。その動作は面倒な宿題を放り出す学生のようで、ジョルノが学生服を着ているせいもあってかとても裏を統べる者の動作ではないことにフーゴは口元を歪めて笑いだしたいのを我慢した。それをちらと見たジョルノはらしくない行為に照れたのか目をそらしてペンを握った。

「ふふ…、そういえば、ジョジョ。来月は誕生日ですね」
「……何かプレゼントでもくれるのかい?」

誤魔化しに握ったペンをまた置いて、ジョルノは手を組んでフーゴを見る。天使の微笑みと一緒に問いかけられて今度はフーゴがたじろいだ。

「え、と、そりゃもちろんプレゼントも用意しますけど……。そうじゃなくて。ボスとして大きくパーティを催されるようならそろそろ準備をと思いまして。どうお考えでしょう?あ、既に準備なさっているようなら申し訳無いんですが…」
「……パーティ、か」
「それかパッショーネ内で開くにしてもリストランテの予約くらいはしなければ。ご家族で……は、流石にないでしょうけど」
「ご名答だね」

最後の案だけは濁らせて言うフーゴに頷きながらジョルノは目を伏せて考え込んだ。唸り上げる様ですら美しい、と目を瞑ってしまったジョルノをしげしげと見ながらフーゴはぼんやり考える。

「んー、顔見せってことでパーティを開くのか……確かに良いとは思うけど、正直に言って面倒だなぁ。警備が大変そうだし…やるならもう少し反逆組織が減ってからかな。どうせならみんなで休みでも取ってまったりしたいよ」
「わかりました。皆、とは?」
「君とミスタと、できたらトリッシュも呼んで四人で」
「じゃあトリッシュには声をかけてみます。リストランテ予約はご自分でなされますか?それとも、ホームパーティを開かれますか?」
「パーティを開くほどの事じゃないよ。皆で食べに行ってもいいけれど、僕はあの日のことを皆と話したいんだ」

四人で、ということに少なからず喜びを感じたフーゴはおおっぴらにパーティを開くよりも楽しみになったのだが、至って普通に言うジョルノの言葉に思考にストップがかかる。パーティを開かないと遠回しに聞こえたような気がしたのだが、当のジョルノは何もおかしいことは言っていないと言うような顔だ。聞き間違いかもしれない。イタリアでは誕生日には沢山の人を呼んで盛大にパーティを開くのが普通なのだから。

「…ジョジョ、すみません、パーティは開かないと言いましたか?」
「そうだけど?」
「リストランテにも行くわけではないと」
「……そんなに聞くってことは、僕、おかしなことを言っているかな」

少し間をおいて、ジョルノが眉尻を下げて聞き返した。自信の無さげな表情に堪らず否定をしようとするも、ジョルノから先に本当のことを言って、と釘を刺されてフーゴは肯定の意を述べるしかなかった。
そういえば、とフーゴは組織に戻った時にミスタから聞かされた話を思い出す。ジョルノは幼少の育ちから一般家庭の様を知らないために時たまおかしなことを言い出したりし出したりすると言うことだ。友達もいたことがなく、初めて仲良さげに近付いてくれたミスタには距離感がわからずやけにくっついていたりしたらしい。確かに親がネグレクトと暴行者でまともに食べるものもくれない家庭で、誕生日パーティーを開くなんて以ての外だと、やっとフーゴは合点が行った。

「ええと、すみません。あなたの過去は聞いていたのに」
「いや、僕の方こそごめんね。誤魔化せたらと思ったんだけど、本格的になるとわからなくて。普通は誕生日に何をするんだい?僕は、あの人がプレゼントをくれる日ぐらいにしか思ってなくて」

あの人、とはジョルノにギャングスターになる目標を与えたギャングのことだろう、とフーゴは推測する。ジョルノがパッショーネのボスになっても彼を詮索しないのはギャングということ以外を隠していたからか、それともジョルノがあえて詮索しようとしないのかはわからないが、他人ながらにジョルノに出来る限りで普通を教えようとしていたのかも知れない。そのおかげでフーゴはたった今ジョルノが普通を知っているように思わされたのだから。

「そうですね、確かにプレゼントは渡しますよ。それより前に、誕生日の人が友人や近所の方を呼んでホームパーティをしますね。6時くらいから開くことが多く、大人達はお酒を飲んで夜まで大騒ぎです、本当。僕はお酒を飲める年齢まで家にいなかったのでいつも大人が騒いでいるのを見てうっとおしく思ってました」
「へぇ…プレゼントをもらうだけじゃないんだね。もしかしてあれは日本の習慣なのかな……」
「日本の習慣…は、よくわかりませんけど今度調べておきましょうか?少なくとも、こっちではプレゼントはパーティのお返しに渡すのが普通です。パーティは本人が用意するので金銭的な意味でのお礼でもありますね」
「面倒なんだね」
「そ…うですかね?」
「時間の無駄だと思うけど」

首を傾げるジョルノは仕草や顔だけを見ればかわいいものだが、言っていることはイタリア人に取ってはナイフのようなことだ。仲間と楽しくやるのが最高の至福であるここの人に無駄など言い出したらキリがない。

「こう改めて言うのもなんですが、誕生日は特別な日なんです。家族ともそうですが、友人とも盛大に祝い上げて、生まれてきたことに感謝べきです!」
「わ、フーゴが僕に怒った……よっぽどのことなんだ」
「え…あ、すみません。というかその測り方はちょっと」
「ふふ…ごめんって」

肩を揺らして笑い出したジョルノにどうしたらいいか、と困り果てていた。フーゴは真面目に言っているので、どこが笑いの腹を擽ったのかわからないである。待って、と笑いを堪えながらに震えるジョルノが落ち着いてもフーゴの答えは出ない。

「わかった、わかったけど今年はパーティはなしがいいな」
「…何故です?」
「僕は来年18になるわけだから、大きくやらなきゃいけないんだろう?なら尚更今年はしたくないよ」
「まぁそうですけど……」
「良し。フーゴからのプレゼントは、僕達の休暇でいいよ」
「あ……はい、わかりました…」

確かにやるなら成人の祝いをした方が舐められず済むだろう、流石はジョジョ、なんて全く異なる吹き出しが頭の中に浮かんで膨らんだせいでフーゴは自分が笑われたことなぞどうでもよくなっていた。パーティのない誕生日とはかなり寂しいものではないかと思ったがジョジョがこう言うのだし大丈夫だろう、と思ってしまう。信仰心が教徒を救うと言うのにはいまいち共感できないフーゴだったが、自分がすっかり教徒の立場にいることには気づいていない。

「あ、フーゴ」
「なんです?」
「教えてくれてありがとう」
「っ、はい……!」

外でするよりも砕けた年相応の笑顔で言われてフーゴは胸がいっぱいだった。
震える声で退室してしばらく歩いてから足を止め近くの壁に背を預ける。冷え込む廊下の寒さも消し飛ぶような高揚感があった。頭だけ冷静になってみると、ジョルノの誕生日にあの時の身内だけで集まりたいという中に自分が入っていることがまた堪らなく嬉しくてしばらくは浮かれていられるな、と他人事のように思った。ミスタに知らせに行かなくては。感じた義務感にフーゴはミスタを探しに行くため書類を自分の執務室に置きに足を再び動かし始めた。





141201
加筆修正150208




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