▼雲の上に立つ君


虐待トラウマ気味なジョルノ+ミスタ



任務から帰ってきて仮眠を取り、起きてから走り書きで書き終えたペラ紙を持ってジョルノの執務室のドアをノックする。時計の針は既に2時を指しており早いうちに報告を終えて寝直したいというのが本音だった。しかしいくらか待てどもジョルノからの返事は無く、声をかけてノックし直したが反応は無い。この時間だし寝ている可能性だってある、と思いいちよう断りを入れてからドアを開けると、休憩用のソファに狭そうに寝転がっているジョルノが見えた。微動だにしない姿からからかっているわけではなく本当にぐっすりだと言うことがわかる。確かに俺だってそれなりに忙しいが、ジョルノの忙しさはそれの比ではないのだ。しょっちゅう隈を作っているのを見ていたし、一緒にいると気が緩むのか眠そうに目を擦っては唸り上げていた。

「ったく、キレーな顔が台無しだっつーの……」

中に入り報告書をジョルノの机に置いてもうひとつのソファにひとまず座ってみるが、ジョルノが起きる様子はなく、少し眉をひそめてソファに頬を擦り付けている。寝るときまでそんな気難しそうな顔をしなくてもいいんじゃないかと他人事ながらに思い、ソファから立ち上がってジョルノの近くに寄り屈んでその端整な顔を覗きこむ。物音に気付いたのかもぞもぞと動くジョルノが面白くて、眉間をつつこうと手を伸ばすと顔の横に添えられていたジョルノの左手が勢いよく俺の手を弾いた。寝起きのせいとは別に辛そうな顔がこちらを見上げている。

「あー、よう。はよう。わりぃ」
「……っ、……なんだ、ミスタでしたか。何してくれんですか」
「ん?お前さんがこぉ〜やって顔しかめて寝てるもんだから伸ばしてやろうと思ってな」

珍しい表情もつかの間、思いきり眉を寄せて不機嫌ですという表情にかわった。確かに寝ているのを起こしたのは悪いけど報告待つって言ったのはお前だぜ、と口には出さずに毒づく。それよりも、さっきの表情はいったいなんだったのだろう。自分の前でも未だ表情が変わることは少ないジョルノの、多分希少価値な顔。

「どうせ起こすなら普通に起こして下さい」
「いや、起こす気は無かったんだわ。ゴメン。でも起きたんだったら報告書書いたから読んどいて」
「ああ…、わかりました。お疲れ様です」
「おうよ。ところでさ」

気になる。思い立ったら吉日、それが俺のモットーであり生き方でもある。つまり、今聞くしかないのだ。

「なんで俺手叩かれたの?」
「変なことされそうだったんで」
「しねーよッ!」
「しようとしていたでしょう」
「だーっ、そうじゃなくてさ、どうしてミョーな顔したんだよ。なんつーか、辛そうってか、怯えた?みたいな」
「……」

具体的に聞けず言葉探しをしながら言うと、わざとらしくしかめられていた顔のまま視線をそらされた。表情が緩んで、つり上がった眉と落とされた視線がジョルノらしくなくてこそばゆかった。俺の方は視線をそらさず、ジョルノの横顔をじっと見ていると盛大にため息をつかれた。流石にそれは予想外でびくっとしちまったが、ジョルノは怒ったりしているわけではないらしい。

「……少し夢を見ていたので勘違いしました」
「勘違い?思わず叩いちまうようなやつと?」
「はい」
「なんだそりゃあ」

今度は此方が顔をしかめると事実です、と後押しされた。友達と喧嘩した夢でも見てたのかなんて思いながら誰かと聞くと、あなたのその顔好きじゃないですとむくれながら言われる。その顔ってどんな顔だよ。

「そんなに聞きたいならあなたには教えてあげます。だから目を光らせながらこっちを見ないで」
「光らせてなんかねーよ!んで?昔の友達?兄弟?俺実はお前のことなんも知らねーし。すっげー今更だけど」

起き上がったジョルノの隣に座って肩を抱く。ジョルノはされるがままになって、目はやっぱり下を見てた。隈がすごい。

「義父です」
「義父ぅ?なに、パパとドンパチやってたってことか?」
「……義父は酒飲みで、母としょっちゅうカジノに行ったり一人で他の女をつまみに行ってました。僕は母の連れ子で義父からはやっかい者扱いされていました」
「…おいおい……」
「母は母でホストに入り浸り男をとっかえひっかえして家には殆どおらず、母が帰らないで機嫌の悪かった義父はいつも僕を虐待してストレスを発散していました。僕はまだ就学もしていない年齢でろくに抵抗も出来ず毎日怯えて暮らしていた。動けなくなるくらいに殴る蹴るされたこともあって、その後虐待は無くなりましたがその時の記憶がまだ残ってるんです。今日みたいに昔の夢見た日は特にひどくって」
「……それで急に手出してびっくらこいたってワケ」
「まあそうですね。情けないところを見せました」
「いや、そういう問題じゃあねぇだろ……」

作り笑いを向けられても出るのはため息ばかりで、まともに言葉が出てこなかった。ムショに入るまで普通の家庭で暢気に暮らしていた俺には考えられないような内容で、笑う顔が痛々しくてジョルノが弱っているように見えた。組織のボス倒して乗っ取るなんてやらかした奴とは思えない、ただの可哀想な16歳の少年としか思えなくなっていた。眉を寄せて見やると、どうしてあなたがそんな顔をするんです、と柔らかく笑われた。

「悪かった」
「何がですか」
「無理矢理辛いこと言わせちまった。本当にごめん」
「別にそこまで気にしてないんで。あなたが聞きたいと言ったからといって、話したのは僕の判断ですから」
「オメーそういうことばっか言ってんなよ……バカ野郎」

そう言いながら肩を抱いていた左腕とソファに放っていた右腕で抱き締めた。ジョルノは抱き返すでも抗うでもなくただ俺の肩に顎を乗せて落ち着いた様子で、反応に困っているということは感じ取れた。自分からは勢いよく来るくせに相手から来られると硬直するのだ。男を抱き締めてるなんて今更気付いたが別にジョルノならいいかとも思う。子供にするようにとんとんと背中を叩いていると、ソファにしたようにジョルノが俺の耳辺りに擦り寄った。

「……ミスタ」
「おー?」
「眠いです…」
「おー、そうだな。俺もねみぃわ」
「寝ます」
「おう」
「……離して下さい」
「そんな冷たいこと言わねーで一緒に寝ねぇ?」
「…えっ?」

体を離して驚くジョルノの顔が面白くて、綺麗な金髪を撫でて自分の方に引き倒した。一人でも狭そうだったソファに重なって横になるのは苦しかったがジョルノが転げ落ちなければいいかと彼を抱き締めなおす。ジョルノは最初は抵抗したものの、徹夜のせいもあって力が入らないのか胸に頭突きをされてからは動かなくなった。毛布とは違ったぬくもりが心地いい。

「おやすみ、ジョルノ」
「……おやすみなさい、ミスタ」

そういって、今更に赤くなった耳を見て少し笑ってしまい胸に一撃くらいながらも、やってくる睡魔に身を委ねた。



次の朝、返事がないとドアを開けたフーゴに見つかってベッドで寝ろだのそもそも何故一緒に寝ているんだだの散々に小言を言われるのだが、今の二人はそれを知る余地もない。




141118




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