▼15.伝えられたら



※殺伐と見せかけて甘い。
 珍しくアッシュの片想いじゃないです





「が…、ガイ」

流れに押されるままに、気がついたらベッドの上に寝転がっていた。そして上には自分に覆い被さるガイ。襲われている、と言うのは考え過ぎだろうか。

「何だ?」
「いや…何だはこっちの台詞だ…」
「何かされてると思うのか?」
「ベッドに押し倒された」
「ああ…まぁそうだな」

ガイはポーズを変えぬまま、俺の左耳に触れた。普段触れないところを人に触られるだけで緊張が走るのにその上手袋がかさかさと鳴って、背筋がぞわぞわとした。

「っ…ガイ……」
「なんだい?」
「…その…」

言えるわけがない。ましてやガイがそんなことするなんて、復讐くらいしか理由は浮かばない。もしそうならそれは仕方がないと思うが、なんだこれは。 軟膏部をいじられ、耳朶まで優しく撫でられて。時折親指が奥に滑り込むと緊張せざるを得ない。体温が上がったような気がした。

「……っ、ン…ガイ…」
「ん?」
「や、めろ…何がしたい」
「何だと思う…?」
「知るか!用が有るならちゃんと言ってくれ…無いなら解放しろ」
「…滅茶苦茶にしたいって言ったら?」
「ッ…!離せ!」
「嫌だね」

半ば想像通りの言葉を聞き暴れて見せる。そんな事をしようとしているわりには、ガイの態度は俺に対して柔らかすぎると思った。だから、抵抗も本気ではなかった。押さえつけてくる力は、大爆発の準備で弱った俺の力をいとも簡単に上回った。元々の体格差もあったのだろうが、そこは認めたくない。

「くっ…」
「まぁ大人しくしてろよ。力じゃ敵わないんだし。悪くはしないさ」
「ふざけるな!」
「ふざけてなんかいないさ」

するりと手袋を外してからもう一度触り直されて、直の体温に体が熱くなる。ガイに直に触れられたのなんてもう何年前の話だろうか。

「お前にだって悪い話じゃないだろう…?」
「っん…何が、だ」
「俺のこと好きだろ?」
「――っ!!」

顔を傾けられ、右耳に囁かれる。近くで聴く自分より低い声に震え上がってしまった。ガイがこんなに近い場所で利き耳でない右耳に囁いているという有り得ない状況に酔った。ガイは薄く笑っている。絶対に良い意味での表情だとわかっていてもそれにすら見惚れてしまう。昔から自分はガイが好きだったのだ。決してやましい気持ちなど無かったが。

「なぁアッシュ…」
「うっ、うるせぇ…っ!」
「無理矢理はしたくないんだ」
「だったらやめ…っひぃ」

必死に口を回して逃げようとしていると顔を固定されて近かった口から侵入者が耳に来た。少しの水温からそれを舌と認識するまでにすでに感覚はやられていた。

「ん…」
「や、やめっ、ひ、ぃ」
「耳、昔から弱いな」
「っは、あ…」
「そういうところだけは可愛かったのにな」
「も、やめ、耳は…」
「耳『は』ねぇ…他なら良いってことかな」
「なっ、ちがっ、屑!」
「悪いこと言う子にはこうだ」
「ンっ…!?」

耳に侵入してきた舌やらから逃げようと抵抗すると挙げ足を取られ口を塞がれた。目を白黒させながら状況把握をするとドアップなガイの顔と唇には温かな感触、割って侵入してきたのは弾力があってぬるりとしたもの。キスをされて舌を捩じ込まれていると考えが回るまでにキスに飲まれてしまった。またそれに気付いたことにより顔は真っ赤になった。やらしい笑い方だとようやく気付いたがもう遅く息継ぎも出来ないくらい深いキスにすっかり前が見えなくなる。

「んは、ぁ…」
「真っ赤だな」
「あ…?」
「惚けてるのか。まぁいいけど」

部屋についてから脱いでいたために普段の法衣を脱がす手間もなくベルトに手をかけられる。簡単に外されて、首もとのホックを外し中着をはだけさせられた。アンダーシャツの上からガイが胸を撫でる。

「暑くないのか?この格好」
「…別に…」
「ふーん…」

確実に脱がされているのに緊張感にかけるガイの態度に色々な意味で半ば呆れる。未だに本当に復讐として自分を痛めつけるつもりか、ただからかわれているのかわからない。それ以前に、激しいキスのせいでまともに思考が回らないのもあるが。そう、キスされたのだ。それを思い出してまた顔に熱が集中する。

「っか、お前、キ…キスなんかしやがって」
「ワンテンポ遅くないか?」
「誰のせい…だっ!クソっ」
「…お前見てると無理矢理にする気も無くなってきたな
「じゃあ降りろ…っ」
「乱暴にしないってだけで滅茶苦茶にしないとは言ってないだろ?」

にっこりといつもの輝かしい笑顔で言う幼馴染みだったやつは本当にわからない。復讐じゃないのか。復讐以外にガイが自分に触れてくる理由なんかないはずだ。

「…!? なんなんだ、復讐のつもりならそれらしくしてみせろよ!」
「復讐…」
「俺が仇の息子で、憎いんだろ…だったら手荒くヤりゃいいじゃねぇか。ヤりたいならな」
「…アッシュ」
「なのになんでキスなんかしてんだ。あのレプリカとでもしたらどうだ。おかしいだろう?そうか、俺を、れ、レプリカの代わりにでもしたか」
「アッシュ、落ち着けって」
「ああ?ああ、じゃあ期待させておいて裏切るつもりなんだな。よ、くわかってんじゃねぇか。流石ガイだな。俺、は」
「ちょっと落ち着けって」
「っっ」

べしと左右から頬を叩かれてくるくる回る口を止める。自分の顔を両手で包んだまま上から見上げてくるガイは少し怒ったような表情をしていた。ああ自分が好き勝手に喋ったのが気に入らなかったのか。

「ちょっと勘違いしてるぜ、アッシュ」
「勘違い?何をだ。方法か」
「違うって。そもそも、俺が君を押し倒している理由が違う。復讐心が全くないと言えば嘘になるけど、復讐しに来たわけじゃないんだ…多分」
「……はぁ?意味がわからない。お前が復讐以外にこんなことをする理由がないだろう。なんだ、嫌がらせか?辱しめか…」
「違うって」
「じゃあ」
「好きだよ」
「………は?」

ガイは今なんと言ったか。自分の都合の良すぎる聞き間違いか、それとも新手の傷付け方か。それにしてもガイから自分へ有り得ない言葉が投げ掛けられていた。

「アッシュ…君が好きだ。…多分」
「……はぁ?」
「ずっと心配だったんだ」
「……」
「憎かったはずなのに一人で大丈夫かななんて気になって仕方がなくて」
「有り得ない」
「多分これは好きってことなんだろうと思う」
「嘘だ!」
「…どうして」
「ガイが俺を好くはずがない」
「ないとは言い切れないだろ?」
「いやない、有り得ない」
「……アッシュ」

アッシュは混乱していた。アッシュはかつてどんなにガイを好いていようがガイから向けられていたのは冷たい目だった。ヴァンからガルディオス家の末裔だと言う話を聞いてガイが自分に冷たい目を向けるのは当然だとも思ったし憎まれているのも理解していた。仇の息子である自分は永遠にガイに憎まれ続けるのだと思っていた。ユリアシティで会話を交わした時に再確認もした。 だから、ガイから好きだと言われることを理解できなかった。そんなことはどこを取っても有り得ないことだった。それこそ関係が仇の息子と復讐者から変わらない限り。

「俺は復讐心を呑んだうえで君が好きなんだ。復讐したかったのは"憎きファブレの息子"であってアッシュじゃないしな。君が気になってもう一度やり直したいと思ったんだ」
「…嘘だ」
「………。アッシュ。これでも信じて貰えないかな」
「う、ッ」

駄々を捏ねるように嘘だと繰り返す赤毛にガイは熱烈なキスを仕掛ける。少しもがいた手は優しくベッドに縫い止められ口付けを深めていく。口の端をどちらのかともわからない唾液が伝ってもガイはキスを止めなかった。時々ふいに離れては息を吸いまた口付ける。激しいキスに赤毛の意識は既に霧がかっていた。

「…っ、あ…」
「信じて貰えたかな」
「んあ…?ぁ…」
「君が愛しいってこと」
「ん…」

酸欠から頬を真っ赤にして涙目になり口元には溢れた唾液がつたっているアッシュを見て思わず元気になりそうなどこかは放置してガイはアッシュに話しかける。襲うというのは最終手段であり、自分の思いを確かめに来たのが本当のガイの目的だった。だから全てを理性の支配下に起き、アッシュに語りかけた。君が好きなんだとわからせるため。自分にもアッシュにも。

「ぅん…が、ぃ…」
「アッシュ?」

アッシュにガイの声が聞こえているか否かガイにはわからない。ただ自分の思いが確認出来ただけでも良かった。とろりとした目を向けてくるアッシュはとても危なかった。

「が、イ…すき、だ」
「え」
「すき…ガイ」
「えっちょっと、アッシュ!?」
「ん………」

危ない外見に加え爆弾発言をして目をゆるゆると閉じていくアッシュは言うまでもなく可愛かった。問題はそこではないが。昔から好かれていることこそ知っていたが直接言われることは無かったためガイは大ダメージを食らっていた。しかも発言したお姫様はすっかり夢の中である。ガイはとても据え膳なのに手を出せないというのは苦境に悩む羽目になってしまったのだ。想いが通じ合うのはいつになるのかとは考えもしないまま、目の前の問題に伯爵は一人頭を抱えていた。


また今度、再挑戦だ。と、長い間頭を抱えた後に結論を出して先に寝入ったアッシュの横でガイは眠りについた。






13.12.29






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