▼キミの代わりなんていないから



※タイトルはTOS-Rから。



俺の生まれた意味って何なんだろうか。師匠からレプリカと蔑まれて道具として扱われたり、父上からはいずれ国のために死ぬ繁栄の駒として息子として見てもらえなかったり。父上は今は優しいけど、逆に自分がその優しさを受け入れられないでもいる。俺はただの、アッシュ…ルーク・フォン・ファブレの複製体であって、それを貰うには値しないと思うから。母上の優しさも、本来は被験者ルークに向けられたものだ。全てが俺の表面の立場に与えられたもののように思えて、釈然としない。俺が、レプリカルークが生まれた意味がほしかった。
師匠はなんでもないように言った、ただの捨て駒だと。預言通りに進んでるように見せる目眩ましだと。つまり、アッシュの同位体であれば俺自身でなくても良かった。そう感じた。師匠にそう言われた日、俺は一人部屋でこっそりと泣いた。一人部屋は配慮されて当てられたと知らず、悔しくって悲しくって、色んな感情が混じって唸った。どんなに大人ぶっても、7年しか生きていない精神がついてこなかった。

「どうしてレプリカだったんだろ」
「駒、なんて、言われずに、師匠を尊敬する普通の人間の方が…」
「……」

ミュウもいない部屋では自分の声だけが響いて、馬鹿なことを考えているなと自分でつっこんだ。もしも、なんて仮定でしかないのだ。極めて可能性の低い別の道、だとジェイドが言っていた。現状(いま)から目を反らしてはいけないと。けれど、一人でそれに耐えるにはとても辛すぎた。隠している自分の心は悲鳴をあげていた。



「ん…おはよう」
「あ、ルークおはよっ」
「おはようルーク」
「おや。一人部屋を満喫して寝過ごして来ると思ったのですが」
「う、うるせぇよっ 俺だって一人で起きられるっつーの」
「嘘おっしゃい。髪が乱れていてよ」
「うえっマジかよ」

ボサボサの髪を手で直しつつ俺はみんなに笑われる。だらしのない自分の格好を見て面白おかしくあははうふふと。昨日の今日で、レプリカな俺を馬鹿にして笑っているように取れた。確かに別の意味で馬鹿にされてはいるだろうけど。それで、朝から気分は良くなかった。


「屑が!そんなことも出来ねぇのか!」
「うっ、うるせぇ!アッシュだって何してるか全くわからないような行動して…それに俺は屑じゃねぇ!確かにアッシュのレプリカかもしんねぇけど!」
「そこは声高にいうことじゃあねぇだろうが!」
「っ、しらねーよ!アッシュの馬鹿野郎わからんちん!」
「わ、わからんちんとはなんだ!俺のレプリカの癖に妙な言葉を使うな!」

周りから呆れられる子供の言い合いをアッシュとした。アッシュのツッコミはなんだか後で考えるとちょっとずれたことを言っているというのには気付くのだが、言われた時にはとても苛々とするのだ。それに朝から持ちどころが悪く、完璧にアッシュに当たってしまった。でも謝ると卑屈になるななんて言うんだ。自分は被験者お前は複製体だと言うようなしゃべり方をするの癖に。

「あーあー…」

これでは駄目だと、皆に迷惑をかけるなど言語道断だとわかってはいる。だけど気分は変わらない。一人でもやもや悩んで心寂しいと感じる。でもこんな悩みオリジナルな皆にはわかるわけ無いと思うし、話し相手へ愚痴愚痴言っても迷惑だろう。それもわかってる。いっそのこと、アッシュみたいに頭ごなしに怒鳴り付けてくれればいいのに、皆は優しいからしないだろう。皆がいる、なんてのは表面上の台詞のようだ。

「う、…ぅー…ちょっとつれぇ…いやかなり…」

膝を抱えて子供みたいに(精神年齢は子供だけど)駄々を捏ねてみる。ミュウが心配そうに見上げてくるがそれは無視してごろごろしてみたり。唸りながらなのでもしかしたら左右ぐらいの部屋には聞こえていたのかもしれない。不意にコンコンとノックが響いたことに跳ね上がり、返答は裏返った。

「ひゃい、?」
「はは、裏返ってるぞ。よう」
「ガイ…」

手を振りながら入室してきたのはガイだった。隣の部屋だったから五月蝿かったのかと思い、少し申し訳なくなった。が、どうも苦情を言いに来たわけではなさそうだ。

「なんか調子悪いんじゃないかと思って見に来たんだ。駄目だったか?」
「調子…別に悪くはなかったと思うんだけど?なんか俺ヘマしたっけ…」
「ああ違う違う。気分が良くないんじゃないかってことだ。さっきもうーうー唸ってるのが聞こえたしな?」
「う"…わりぃ」
「別に構わないさ。ただ、何か悩みがあるなら言ってみろ?一人で悩んでいてもいいことないからな」
「うん……」

そんなこと言われても言えるはずがない。ガイのお決まりの台詞は聞き慣れているから、流してもとくに罪悪感はないため言うまでには踏み切らない。ガイだって俺を憎いと思っていたんだからおあいこさまだと思う。

「なんだ、相談しないのか?」
「あ、いや、その…なんにも悩んでねーからさ、大丈夫だよ、心配性過ぎるんだよガイは。親かっての…」
「…お前を教育したのは大半が俺だし第二の親とも言えるかもなぁ。過保護しないと間違ったことしそうで心配なんでね」
「……しねぇっての…」
「なら自虐はやめるんだな」
「自虐じゃねぇよ、事実だろ…俺がレプリカなのは……っ!」

ガイが睨む。巧く引導されて思わず口をつぐんだ自分はどこからどうみても不自然だった。

「レプリカだからなんなんだ?お前が俺らと違うって言うのか。同じ飯食って寝て笑ってるのにか」
「……」
「第七音素だけで出来ているから違う?そんなの音機関にかけないとわからない些細なことだろう?普通に生活するのに何の問題があるんだ」
「…っ、でも俺は、アッシュの居場所を奪った」
「アッシュは捨てたって言っただろ?それにそうさせたのはヴァンでありお前の意思じゃないだろ。まっさらな赤子にできることなんか泣き声をあげるだけさ。お前は奪ってなんかない」
「ぅ、…気持ち悪いだろ、同じ顔なんて…」
「つくりが同じだけで同じ顔じゃない。アイツはお前と同じには笑わないだろう?お前にはお前だけの表情が、顔がある」
「ふぅ…っ、う、ぐ」
「ルーク、どうしてわからないんだ?レプリカなんて関係ない。お前とアッシュは別人だし、お前は一人の人間で俺の大切な主人であり親友だ。被験者ルーク(アッシュ)なんかじゃ駄目なんだよ」
「う…ぅ、ガ、イ…っ」
「俺はお前がルークで良かった。俺にとってのルークはお前しかいないんだ」

情けない姿をガイに晒す。目が緩んで仕方がないし鼻も垂れてくる。熱くてなにも考えられなかった。真剣に自分を見つめて自分自身を大切と、自分しかいないと言ってくれたガイの言葉が衝撃で嬉しいのか恥ずかしいのかもうさっぱりわからない。ただただ感激した。そんな自分を見て「おいおい」と言いながらも落ち着かせようとしてくれるガイは、本当に親のように思えた。

「ひっ、ぅぐっ、う、うぅ…」
「…まったく、ルークは馬鹿だなぁ」
「う、ふぅ…っ、…?」
「お前は誰かの代わりじゃないし、お前の代わりなんていないんだ。覚えとけ」
「っ…う"ん…っ、ん…」

しゃっくりでうまく答えられないためこくこくと必死に頷く。嬉しくて堪らなかった。こんな自分でもずっと見てくれていた人がいたのだ。悩んでいた自分には幸せすぎるプレゼントだった。

もちろんガイは、ずっとずっと前からルークを一人の人として見ていたのだがルークには気づかなかった。他の不安に押し潰されそうで。だから、こうして面と向かって安心させられたことにガイは満足していた。どこか焦っていた大切な小さな御主人様は、やっと落ち着いたように見えたから。

「お前は一人しかいないんだ。…自己犠牲を考えるなよ」
「……うん」

ありがとうガイ、と呟いた赤毛は緩く笑い、眠りについた。




13.10.22

レムの塔の話がまだ出ていないくらいのお話。この後に話が出て、ルークは自分が障気中和をするのを決心します
あとタイトルは、聴いているといつも「赤毛だなぁ…」なんて感じたので。




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