▼ルークinマイソロ2



 今日も今日とて、とても良い天気だった。グラニデでは晴天の日が多く雨はなかなか降らない。そんな青空の下で物語を書くのが、カノンノの趣味だった。
いつものように膝を机代わりにペンを滑らせる。パニールに教わった少し丸めの文字はとても女の子らしかった。しばらく下を向き続けていたカノンノは、空から降ってくるものに全く気がつかなかった。

ドサッ

「!!」

カノンノは大きめの音を立てた方に反射的に目を向けた。他の甲板にいた二人、ニアタも驚いた様子でその落ちて来たものを見ていた。白い上着に赤い髪、それに意識がないらしく、落ちたまま甲板に突っ伏していた。ディセンダーのような現われ方をしたその人をカノンノは不思議に思ったが、とりあえず一大事なのには変わりなく船内へ人を呼びに行った。




「ん…?」

ふと目が覚めた。確か一度はベッドから起き上がった筈だが、二度寝でもしてしまったのだろうか。それはいけないと仕方無しに寝惚けたまま目を擦っているとなにやら騒がしい。

「目覚めたみたいね」
「ふむ…これはこれは」
「大丈夫?あなた、空から降ってきたの」

髪がピンクの女の子が話しかけてくる。俺より明るい翠の瞳。大丈夫もなにも、と思いつつ見回すと、知らない人達の中に見知った顔がいた。ジェイドだった。

「あれ…あれ!?ジェイドいつのまにこっちに来たんだよ!知らせてくれれば……」

驚き勢いよく体を起こせば、くらりときてベッドに逆戻りした。頭がずきずきと痛むから原因はこれだろう。にしても女の子が言っていた落ちてきたとは。

「…とりあえず落ち着いて下さい。貴方、名前は」
「…? なに改まって訊いてるんだよ、というかここ何処だよ」
「ここはバンエルティア号という船の医務室です。甲板に落ちてきた貴方をこの子…カノンノが知らせてきたのでここまで運ばせてもらいました。ちなみに、私はジェイド・カーティスといいます。貴方は?」
「? ルーク、だけど…ジェイドどうしたんだよ。バンエルティア号とか聞いたことないぜ」
「やはり…」

ふむ、とジェイドは考え込んでしまった。バンエルティア号なんて船の名前は知らないし、マルクトにあったとしてもこれだけ立派であれば一度位は名前でも聞いたことがあるはずだ。落ちてきたというのも身に覚えがない。そういえば公務の途中、あまりの量の多さに不貞腐れてうとうととしていた。それが何か関係があるのだろうか。知らぬ間に超振動でも発動してしまったのか。

「な、なぁジェイド…ここ、もしかしてマルクトか?また飛んできちまったのか、俺…?」
「………」
「ジェイド!」
「…ああ、すみません。ここはグラニデと言う世界です。私が推測するに、貴方はパラレルワールドからこの世界に波長があってしまい飛んできたのだと思います」
「グラニデ…パラレルワールド?」
「もしも、の世界のことよ。ところで、貴方は何故彼を知っていたの?」
「そりゃ、一緒に旅をした仲間だから…でも、つまり、このジェイドは俺の知ってるジェイドじゃないってことか?」
「そういうことになるわね。この世界の貴方と彼は旅を共にする立場ではないもの」

銀髪の女性が言う。名前はリフィルと言うそうだ。多分この人も頭が良いのだろう、敵わない感じがする。カノンノが心配そうに見ているのに気づいて、大丈夫だと言いたくて笑ってみせた。そしたら余計心配そうな表情になった。なんでだ。

「ルーク。ある者が元の世界に戻れるような装置を作っている途中なので、それが完成するまではこの船にいて貰います、よろしいですね?」
「えあっ、あ、わかった。戻れないんだったら仕方無いもんな」
「船内の移動も自由とします。ただし覚えていて欲しいのは、ここには別のルークがいます。」
「えっ…?」
「パラレルワールドと言ったでしょう。貴方の世界に私がいるように、この世界に貴方もいるのです。こちらのルークには私から言っておきますので、ドッペルゲンガーだの騒がないでくださいね」
「あ、ああ…よくわからないけど、わかった」

カノンノが心配していた理由はこれかと思う。そして、この世界の自分が昔の自分だったら少し会いたくないとも思った。でもここで暮らす以上文句は言ってられない。

「まぁ服装が多少違うので周りからの区別はつくと思います。私は装置の過程を見てきたいので、程々に休んで頭痛が回復すれば自由にしてていいですよ。案内役を呼んでおくので残りはそれに聞いてください。」
「ん…」
「じゃあ…私も研究の続きに戻るわね。ここを出て右手奥の部屋にいるから、なにかあったら呼んでちょうだい」
「ありがとうございます」
「なら私は船のみんなに知らせてくるね。人が落ちてきたって大騒ぎ。早く話が回りそう!」
「うん…ありがとう」

ばらばらの用事で3人は一気にいなくなってしまった。ひとっこひとりいない医務室は静かにアルコールの匂いを充満させていた。この船が、この世界が気になる。だけど今は甲板に思いきりぶつけたであろう頭が痛かったのでジェイドの言葉通りしばらく休むことにし、毛布を肩まで引っ張った。




13.08.23






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