▼君しか見えない








レプリカが少し前からこちらの様子をよく訊いてくるようになった。
『今なにしてる?』
『飯ちゃんと食ってるか?』
『ギンジさんと仲良くしてるか?』

「お前に教える必要はねぇ」

全て一蹴した。


近頃好き勝手言うようになった。

『もっと繋いできてくれよ』
『今日はなにしたんだ?教えてくれよ』
『アッシュ、すき』

うざったくて無言でブチ切ってやった。



『今何処にいるんだ?』
『なぁ、昨日アニスが見たって言うんだけど』
『近くにいるのか?』
『会いたいんだ』
『なぁ……』
『………』
『……もう知らね。ギンジさんにきくもんね』
『アッシュ、すきだよ』

繋がれていなくても聴こえてくるレプリカの声。ああ煩い。考えなしに動いて、馬鹿な発言しかしない。男しかも被験者に愛を囁くなんてまさに阿呆しかしないであろう行為。呆れ通り越し感心すらしそうだ。
苛苛としながら森で足を進めると、木々で遮られているはずの太陽に目が眩んで視界はぐるりと一回転する前に何がなんだかわからなくなった。








頭が痛む。首からも痛みを感じる。地面が冷たい、はやく体を起こさねば。手が動かない。

「………」

そこは地面ではなくもっと固いコンクリートだった。腕は後ろにまわっていた。引っ張ろうにも力が入らない。体を起こすことすら億劫で、特に動きを取らぬままどうしてこんなところにいるのか思考する。森を歩いていたら目が眩んで、いや、おかしいだろう。たとえ眩んだとしてなんだこの首の痛みは。なんだここは。前方は壁。足元を見れば壁のようなもの。人が通れるくらいには枠がついており稼働するのだろう。背中側に少し身を捻ると、床があるのは少しで、その下はなんだかわからない。暗い。ここは何処だ。六神将かヴァンにでも見つかったのかだろうか?それにしたってここは牢ではない。見覚えが無いこともないような気もするが、特定するには条件が足りなかった。

「くそ…」

やけに身体がだるい。薬でも打たれたのだろうか。

「目が覚めたのか」

上から声が降ってきた。少し顔を動かすと薄暗さに紛れて金髪が見える。こいつがこんなことをしているとは些か思えなかった。

「…なんのつもりだ、ガイ」
「おはようアッシュ。傷はつけて無いはずだから安心してくれよ」
「………」
「底冷たいよな。今部屋は準備中なんだ、悪いな。」
「部屋だと?何をするつもりだ。縄をほどけ」
「それは無理な願いだな。」

少しの沈黙の後、ガイは微笑みとも無表情とも取れる表情を変えず、しゃがみ込み俺の腕を掴んだ。

「っ触るな!」
「御主人様がお呼びなんでね。大人しくしてくれよ」
「断る!」

手を振りほどこうにも自分は拘束されている。抵抗など無意味で、身を思いきり引かれたと思えばそのままガイの肩に抱えられた。意図が掴めず少しの間呆けてしまう。それも束の間、身を捻り降ろせと唸ると「傷付けるなとの命令があるんでね」と言い稼働するらしい壁を抜けた。
俺の顔はガイの背にあり、見えたのは閉じた壁に光る紫の光。はと思い出す、これは赤と青の光の玉を合わせ開く扉だ。ならば此処は……

「コーラル城、だな…」
「正解」

自分より少し高い声が甘えた声で言う。見えなくてもわかる、レプリカだ。姿形はわからないが機嫌が良いことが感じ取れた。どうしてこんなことになっているのかと忘れかけた憎しみが心を埋め始める。だがガイに抱えられていたからか、それを上回る冷静さが今の俺にあった。

「何故こんなことを、俺に何を打った」
「打ったのはしかんやく…だっけ。なんでこんなことしてるかって?アッシュってば全然俺の話聞いててくれてなかったんだ……」

レプリカが声色をあからさまに下げた。項垂れる姿を目にしなくとも簡単に想像がつき、何故かぞくりと背筋が粟立った。

「弛緩薬…」
「俺言ったよね。好きだよって」
「………」
「好きならどうすればいいかなって考えてさ、ジェイドにも聞いてさ、自分の物にすればいいってとこについたんだ。だから、アッシュも俺の物にするんだ」
「何言ってやがる」
「我儘」
「っわかってんなら降ろせ!」
「ガイ降ろして」
「どこに?」
「そこのソファ」
「りょーかい」

そっと柔らかな上に降ろされる。だが、緩んだ筋肉はまともに力が入らず背凭れに倒れるように支えられた。そして根本的解決をしていないことに気が付く。未だに手首は拘束されている。

「くだんねぇ事言ってないで放しやがれ」
「やだ」
「おいレプリカ…」
「剣は握れないだろうし、譜術出してもガイに当たるよ?」
「味方識別がある」
「それで逃げてもガイが捕まえてくれる。ここにアッシュをつれて来たのはガイだよ」
「お前じゃ無理だろうしな」
「………」
「御託はいいさっさと手首を解け。ぶん殴ってやる」
「別に殴られてもいいけど…アッシュ逃げちゃうし。嫌。探すのどれだけ大変だったか……」
「早い話が解放する気はないってことだ、アッシュ。」
「ふざけるな!ヴァンはどうなる!?障気は…」
「そんなのもうどうでもいいんだ」

目を合わせても感じられない光にいよいよ腹が立つ。こいつは勝手に狂いやがった!

「アッシュと一緒にいれれば良いんだ」
「〜〜っガイ!お前も何故こんなやつについている!お前はこんなやつについている理由など」
「ルークが″こんなやつ″だなんて、聞き捨てならないな」
「な……」
「俺は最後までルークといれれば他はどうでもいいんだよ。勿論お前もな。でも、ルークがお前といたいと言うからそこは少しの我儘ってことで、目を瞑ることにした」
「お前までトチ狂ったか…!」
「まさか。俺は正常だ」

狂っているとしか思えなかった。己のレプリカが醜態を晒していることより、昔から根は真面目だったはずのガイまでがおかしくなってしまった事の方がショックが大きかった。
このままではいけない、そう思いやはりまず拘束を外すところから始めようともがくが、筋力が緩んだ腕ではどうにもならない。手首を捻るにも指は細かに動かせず唸るしかない。ここにいると自分も可笑しくなってしまいそうだ。環境もがそう伝えている。


「ああアッシュ、今日から俺達ここで一緒に暮らそう!」




見慣れた笑い顔で同じ顔は言った。












12.10.23






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