▼identify



※ジェイドほぼ別人
 アッシュのみ帰還ED後なのでルークは出てこない









「何用で」


ジェイド・カーティス大佐の執務室の戸を叩いたのは、この地オールドラントの英雄ルーク・フォン・ファブレ子爵。かつて共に国中を回り旅をした仲間でもある。簡単に扉は開かれペンを置いたジェイドが顔を覗かせる。

「……バルフォア博士に報告をと思いまして」
「どうぞ」

旧姓を出されジェイドはルークの腕を引き部屋へ連れ込んだ。そして部下などが入らぬようその際扉を施錠した。腕を引かれたルークはあからさまに嫌そうな顔をしてみせた。

「そちらにかけていて下さい。茶を出します」
「いや、いい。さっさと済ませたいからな」
「…わかりました」

外見遺伝子はルークのままだが、帰ってきたのはアッシュの意識を持っておりまわりからみればさぞ可笑しな光景であろう。大爆発は逃れやしなかったのだ。報告とあらば大爆発の流れ、それ以外に無いためジェイドも仕方なしに扉を開放したのだ。それ以外なら付き合ってやる義理などないのだから。

ジェイドはかつてレプリカルークに好意を寄せられ、かつ自分も何かしらの想いを抱えていると考えていた。だから尚更、被験者ルークには言い難い思いが渦巻きそれがとても気持ちが悪い。簡単に言うと、レプリカルークを罵る彼を嫌悪し、身体を書き換えて戻ってきたルーク、―――否、アッシュを嫌いとした。
無論そんな私的感情を表に出すはずも無く、飛び交うのは形ばかりの言葉。お互いそれを理解している感情の伴わない会話は、冷め詰まらぬものだった。





「もう一度言う。大爆発は終わった」

「…そうですね」
「気色が悪い」
「酷い言われようですね」
「………」
「私がそのようなものを引き摺る人間だと思いですか?」
「ハッ、ならもう少しマシな顔をしたらどうだ。ルークはいない。俺が上書きしたからな」
「……帰ってください」
「弱虫が」
「あなたに言われる筋合いはない」

アッシュはひとり、記憶に残る姿でもここまで無様なものは無いと口角をあげる。自分のレプリカに愛を囁いた癖に一人でに諦め、今まで引き摺っている奴に吐き気がした。苛々としている様が実に滑稽でざまあみろなんて思う。


「……あなたに私の気持ちがわかりますか」

「解るわけねぇだろ」
理解したくもない。
そんな言葉を隠した。


ジェイドはすっと立ち上がり、アッシュの前に立つ。座ったままにアッシュはジェイドを見下す。
目を合わせると、赤い瞳がこちらを覗いていた。

ぐんと手を引かれ、アッシュはソファの後ろの壁に頭をぶつ。握られた手首も壁にはりつけられ近くで眼鏡が光で反射する。
奥で燃えるような赤と無理矢理目を合わせられ、憎悪を叩きつけられた。

「解るわけありませんよね。散々に彼を蔑んでいたあなたなんかにわかってたまりますか。
 彼は知識が足りないだけでとても優しい子供でした。私はそんな彼を……、愛していました。理論上彼が帰還できる確率は皆無でした、それでも諦めきれていないのも事実です。
今ここにいるあなたが彼だったら如何に私は気分がいいことでしょうかね?ですがそれは空想でしかないのです。あなたは私にこれ以上何を言えと言うんですか」
「結局諦めたにはかわりねぇだろ。あいつはわかっていたみてぇだがな」
「もう一度いいます、あなたに言われる筋合いはありません。それも理解しています。理解していたところで現実は変えようがないのですから。これ以上堂々巡りの会話をするのは止めなさい」

「………、 『ジェイドは大丈夫だよな。俺なんかいなくても…いや、やっぱりいいや。』 」

「…アッシュ?」
「お前はあいつの思いも感じてやれないのか。クソったれ」


アッシュは隙間から身を翻してジェイドの拘束を抜ける。近くに置いていた上着を抱え、ジェイドを一瞥してヒールの音を鳴らして部屋から出ていった。バンと勢いよく閉められた扉の音が静まり、ジェイドはようやく棒立ちを止めた。 アッシュが去り際に言った言葉はまさにルークだった。中身は違おうとも同じ身体、同じ声帯から発せられたそれは目眩を覚えるぐらいにリアリティがあった。
あの子は私がこんなにも思い詰めているのを知っていたのかと思わせる遺言とも言えるもの。頭が混乱した。あんな子供を失ったごときでここまで乱れたなんて、最初で最後だ。消えた後まで心配をされて、私はどれだけ人間らしくなったのだろうか。

今になってルークへの本当の別れを告げる。私はあなたを愛していました。こんなにも自分の想いに気付かないとは、あなたを見習わなければ。暖かなあなたの笑い声が、今もこの部屋に残っているような気がした。








12.10.17






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