▼深い海に呑み込まれて



※ヴァンアシュ
 うっすら暴力表現有り
 22歳×12才ぐらい



大きな身体に憧れを持っていた。
強い力を羨んでいた。
深く青い目に惹かれた。






「アッシュ」
「…はい」
「こっちへ来なさい」
「………」


機嫌が察せない時は危険。悪い時は手に取るようにわかるのだから。
何をするかなんて聞かなくてもわかる。痛くて意識しないでも涙が出る。

「あ…」
「………」

「ッ!……血、が」
「五月蝿い」
「……ヴァン」
「黙れ燃え滓が」


そうしたのはお前だろうと言いたかったがとても言える雰囲気ではない。そんなことをしたら明日足腰が立たない自信がある。
何も考えずにぼぉっとしていると暴行は止み、痛む身体はそのままきつく抱き締められて行動を取れない。もっとも傷みで動かす気もないのだが。

「…いてぇんだよ」
「………すまない」
「血ィとまんねぇ」

ズキズキと痛む唇から流れ続ける血をヴァンは拭って、反射的に開いた俺の口にキスをした。
いつもこうなんだ。飄々としている癖に時々すごく感情的になって俺を殴る。その感情の起伏が全て俺のせいだと思うと嬉しくて仕方がなかった。前に誘拐されてすぐ、逃げ出したことがあった。あいつは暇なディストなりラルゴなりに後を追わせていたらしいが、連れ戻しにはあいつが直接来た。普通に考えて教団の仕事もあるはずだし連れ戻させればよかったのに、そんな姿が滑稽で声を出して笑った。涙を流しているのとは裏腹に。
『ハッ……そんなに俺が必要なのかよ…自らお迎えにまで来やがって』
『もちろんだルーク。私は…、私にはお前が必要だ。お前をあいつらなんかに任せてはおけぬ』
『………うるせぇよ。変態が』
『口が悪いぞ。私はお前のことが最優先だ。お前を片時も頭から離したことはないぞ。私は…ずっとお前のことを考えているぞ。』
『………』
自ら″ずっと俺のことを考えている″とヴァンが言ったのは覚えてる。こんなにも俺が必要で俺のことばかり考えて、自分のことも放り俺のことを気にかけているやつなんていなくて、不覚にも嬉しく思ってしまった。 だから、必要なかったと謳われた同然の自分の家を恨みヴァンについていった。ヴァンは俺ばかり気にかけて気分がよかった。大きな身体、強い力、深く青い目。全てが俺を気にかけ心配し必要としてくれた。だからまた不覚にも、俺はヴァンを好きになってしまった。屋敷にいたころの感情とは似て非なるものだった。



「ん……ぁ、ヴァン、お前まだ…!」
「なんだ」
「はぁっ…い、っ……」
「…………」
「……」
「………」
「…もういい。なんか喋れよ……。俺のことしか考えらんないんだろ、変態?」
「……アッシュ」
「あ、っぅ」

唇から首筋におりて滑る舌に身体がこわばってまだ丸い肩が揺れた。肩を掴むヴァンの手は俺の手より一回りも二回りも大きくてどきどきした。気持ちの緊張か身体の緊張かはわからない。

「ふ……っ、またこんな子供にナニする気だよ……結構痛いんだが」
「……悪い。アッシュ、アッシュ………」
「あっ」
「     」


いつも行為の前に聞けるこの言葉が嬉しくてつい許してしまう。結局は恋人には弱いのだ。10才差しかも俺は成人すらまだ先の話だが、そんなのは世間の常識であって俺達には関係ない。
屋敷にいた時にはなかった幸せな気分というものが味わえるヴァンのもとは大層愉快だった。


俺が寝ている間にヴァンがどんな顔をしてるかなんて知らないまま俺はそう思った。








12.06.05





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