▼10.溶けてゆく心




時間は正午。
雇い主の青年は未だ帰らず、アルビオールの中はガラリとしていた。少々広すぎる空間は自分にはもったいないとギンジは感じていた。

(好き勝手にアルビオールを点検し回れるのは嬉しいけど…)

やはり人がいないと言うのは寂しいなと思った。雇い主----アッシュは昼には戻ると言っていた。そうだ、昼食でも作って待っていよう。いつも作ってもらっている恩返しにもうってつけだ。と、まともにしたことも無い料理を始める準備を始めた。



「うーん?あっ取れない!焦げてる!わわ」

簡単だろうとまずフライパンに卵を落としたのだが、フライパンに張り付いて取れなくなってしまった。どうしてだろうか。
結局白身は焦げてびりびりになった。
フライパンは諦めて、きゅうりでも切ってサラダを作ろうと包丁を取り出すが、なかなか切れずに大きさが不揃いになった。
また諦めて、次はどうしようかと頭を働かせる。組み立てるものでもあればいいのだが料理にそんな過程は無い。そういえばアッシュさんがよく買ってくるチキンがあったなぁと思い出し、あれも焼けばいいのかなとフライパンにまた火をつけた。


「………おい」
「はい!ってアッシュさん!?」
「何をやってる…油は引いたのか?」
「油…?オイルのことですかね?」
「……」

いつも以上に眉を潜めて深い溜め息をつくアッシュさん。何かいけなかったのかなと首を捻ると、おいらとフライパンの間に入り込んでコンロの火を止めた。アッシュさんの赤い髪が視界いっぱいに見える。

「お前馬鹿か。油も引かずに、しかも何丸々焼いてんだ。…せっかくのチキンが…」
「わぁあすいません!料理ってよくわからなくて…」
「碌にできねぇくせになんで急に料理なんかしてんだ」
「それは、いつもアッシュさんに作ってもらうのも悪いと思ったので、たまにはおいらがアッシュさんにご馳走しようと思ってたんですけど、おいら料理したことなくて…」
「っ……」
「…アッシュさん?」
「どうしてお前は簡単にそういう事言えんだよ…」
「??」

なんだか言葉に勢いがなくなったアッシュさん。また何か変なことを言ってしまったのだろうか。

「と、とりあえず、怪我して無いのか?」
「あっはい。大丈夫です。心配してくれたんですね」
「っちが…!……俺が作るから向こう行ってろ!食える場所の方作っとけ!!」
「はい」

ちらりと振り返ると、眉をひそめながらも赤くなっている顔が見えた。やはり慣れないことはするもので無いと確認し、キッチンで作られる彼の美味しい料理を待った。寂しさは元々無かったかのように跡形も無くなっていた。




「あ」
「なんだ」
「これおいらの切ったきゅうりですよね?こっちも…」
「…別に、食材が勿体無いから食べてるだけだ」
「卵も白身焦がしちゃったし…おいらが食べますよ?なにもアッシュさんが食べなくても」
「……うるせェ」







12.05.07






戻る

TOP





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -