▼9:手をとりあって




※ED後





「アッシュってなんでもできるよな」
「あ?」

暇だ暇だと言い職務を一つもやらないアッシュのレプリカ…ルークがぽつりと言う。黙々と動かしている手を止めずにアッシュは返事を返す。ルークが唐突なのはもう慣れっこだった。

「それ。職務だろー、字書きながら俺の話聞けるだろ、あと…、高度な計算ができる。ピアノが弾ける。人前でもきちんと振る舞える…」

指おりながら一つ一つ例をあげていく。後半は貴族として覚えたもので、ルークができない事ばかりだ。

「それはお前が怠けたからだろうが」
「だってしたくないし」
「……」

子供じみた返事に思わず頭を抱える。そういえばルークは身体は二十歳でも、精神はまだ九つぐらいなのだ。やりたいことだけ飽きるほどやって、やりたくないことはしないのが子供。それを甘えと言い禁じられたアッシュにはそれがよくわからなかった。やりたくない事でも、やらなければならないのだ。

「馬鹿野郎 俺だってしたくてしてる訳じゃねぇよ。全部お前に押し付けてやろうか」
「いやだね!それに俺に任せたってちゃんとできねぇよ。…やっぱりアッシュがするべきなんだ」
「お前、そうやって俺に全部押し付ける気だな?」
「違うよ…。でも、俺がやったって、わかんないし…、俺、字下手だし」

自分から話し出した癖に一人でどんどんブルーな方に流れていくルーク。そうやって自分を下げて何もできないフリをしていれば、誰かが守ってくれるとでも思っているのだろうか。…いや、子供を守らない親がどこにいるんだろうか。本当は守られる存在なのに、皮肉なことにこいつはレプリカで。0歳から自我を持つことを求められた。俺なんかより早く。

「お前は…」
「…?何、どしたのアッシュ」
「…お前は、笑えるだろうが」
「へ?」
「俺はそんな風に笑えない。それに、お前みたいに愚痴をこぼすこともできない」
「…それは、俺が」
「俺は怠けるのが苦手だし、泣くことだってほとんどできない。俺からみれば、お前だって、なんでもこなしやがる」
「アッシュ…」


ひとつ言葉にすればするすると出てくる、ルークにできて俺にはできないこと。羨んだりなどしないが、必要ないことばかりでないから、また厄介だった。
二人はパズルのピースのようだと思った。片割れができないものを、もう片割れがやり遂げる。バランスの取れた二人。

「…なんか、アッシュ、変」
「………、俺が馬鹿だった。やっぱりお前は何もできない屑レプリカだ」
「ひどい!ほんとは結構バランスいいとか思ったろ」
「思ってない」
「聞こえたもんねーっ お前回線緩みがちだし?」
「なっ……」

前言撤回。バランスの取れた二人なんて嘘。そう考えたってもう遅い。

「俺は、それでもいいけど」

にへら、と同じ顔とは思えない顔でルークは笑う。笑い方なんて大分昔に忘れてしまった、と思う。俺は笑顔に対して変な顔しか返せなかった。

「じゃあ俺は、アッシュの分も遊んでくるから!」
「ああ……、っておい!てめぇ!逃げんな!」
「やーだよ!」

べーっと子供らしく舌を出して走り去っていく片割れに、ため息をひとつついてアッシュは微笑んだ。

(そういうのもいいかも知れない)




12.03.23





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