目を覚ますと、やはりそこは暗かった。
01:ひとりにしないで
「…腹へった」
ひとりで呟いた。昔はこんな言葉言う前には食事の時間だったのに。毎日同じ場所に置かれているおぼんに手を伸ばして、なにかを掴む。今日はクロワッサンだった。小さなそれをちぎって大事に食べる。師匠が帰ってくるまではそのおぼんの上に乗ってるものでやり過ごさないと自分が辛いと知ったのは最近。愛玩動物みたいな扱いだと思う。屈辱。
「せんせぇ…」
またひとりで呟いて、虚しくなった。いくら呼んだって師匠は来やしないのだ。クロワッサンを半分ぐらい残して、横になった。もうとっくに涙は枯れた。することもなく時間を潰すだけ。逃げようとしても鉄格子には譜術が張り巡らせてあるし、それを越えても扉には神託の盾兵が見はっている。神託の盾兵からしたら子供の抵抗なんて痛くも痒くもないから、俺が抵抗疲れするだけだ。酷く合理的な性格になった気がする。そうこの環境がさせたのか。
暫くして足音に目が醒めた。気付かないうちに寝ていたのか。
「おお、起こしてしまったか」
「…寝てない」
「寝ていただろう。さぁ、何か食べたいものはあるか?」
いつも聞いてくることは同じ。いつになったらここから出してくれるんだろうか。しかも寝起きに何か食べさせる気だ。師匠が出してくれればいつでも食べるけど。
「……ミネストローネ」
「なんだ、もっとちゃんとしたものを食べたくはないのか」
「腹がすいてない」
「…そうか」
嘘をつく。師匠だってわかっているはずなのにそこは何も言わない。どうでもいいのかな。鉄格子越しに話し掛けてきた師匠はまた扉の向こうに消えてしまった。独りぼっち。
暫くしたらミネストローネを持って現れて、それを置いて師匠はまた消えるんだ。俺はそれを食べてまた眠る。誰も俺のことを見てもいないし、話し声も聞こえない。屋敷にいたころの騒がしさなんてもってのほかだ。…寂しい、なんて気のせいだ。じわりと目尻が熱くなった。
12.01.29
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