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「これ、ヴァン先生から。ネクタイ忘れるなんて珍しいなぁお前」
「…、なにか言っていたか?」
「別に?まぁ、なんでヴァンが持ってたのか知らんけどな」
「……あり、…感謝します」
「相変わらず素直じゃないな」

2時限目の終わり。数学の教師だったガイから昨日取られたネクタイを取り戻した。ヴァンがガイを使ったのは俺のご機嫌取りらしく、ガイに余計なことは言っていないみたいだ。…よかった。あんなのをガイに知られたら顔から火が出るかもしれない。無樣に押さえ付けられたなんて。首筋に赤い跡がついている(もっとも今は絆創膏がついているが)なんて。

放課後、昨日の書類をちゃんと渡したかとティアに聞かれ俺は曖昧に嘘をつくことしかできなかった。ヴァンのところまでは確かに持って行ったが、渡したかと言えば答えはノーなのだ。やり切らないことに自分でも苛々したが、どうしようもない。どうしようもなかったのだ。
今日クラスを出た時にヴァンはみなかった。いたら昨日の事を文句でも言ってやろうと思っていたが、何を言いたいか実際考えていなかった。会わなくてよかった。
煩い兄弟は相変わらずガイの元へ。二人が一緒にいるのを見るだけでもやもやとして、嫉妬では無いと言い切れない。学校なのでベタベタはしていないが、家に帰ればイチャイチャと見せつけられるわけで。帰りたくない。こんなものは子供の我が儘だ、わかっている、家に帰る足が重くて、女々しくて鼻がツンとした。




「おかえりアッシュ。遅かったな、なんかあったか?」
「……別に」
「む…ガイ!さっきからアッシュばっか!ずりぃ」
「…駄々こねてんじゃねェよ、いつもイチャイチャしやがって」

ルークの言葉を聞いて少しどきりとしたが、結局八つ当たり。ガイはやっぱり鋭くて、こんなことじゃ悩みは隠せない、むしろあらわにしてしまったような。
ルークが風呂に入っている間に、飯を作っている俺の手伝いをしにくるガイ。確か理由は、俺の負担を減らす為と、ルークに自分の料理を食べて欲しいから。隣に立てるのは嬉しいが、理由は喜べるもので無い。

「なぁ、本当に何もないのか?」
「……」
「例えば……ヴァンとか?」
「…!……っ」
「ここ」
「っ違う!」

思わず否定してしまった。何が違うんだ。絆創膏を指すガイの指が近くて、こわくて。

「…あ、わりぃ…、流石に違うよな…気持ち悪いよなそういうの」
「あ…、違う、そうじゃない、ガイ…っ」
「本当悪かった。ごめんな?」
「そうじゃない!」

がしゃん

近くの小皿が音をたてて落ちた。その音が耳に入っても頭には入って来なかった。


「アッシュ……?」
「…ヴァンとはどうもねぇしそういうのを気持ち悪いとか思ってねぇよ!!お前は悪くねぇ!そんなに俺を避けたいかあいつから?!俺だって……ッ」

涙腺が緩みそうだった。もう何を言っているのか自分でも何やらで、ふっと顔をあげるとガイの真面目な顔が見えてようやく、理性が返ってきた。自分は半ばやけになっていた。謝罪を一言述べて割れた食器に手をかけると、スッと赤い線が自分の手に入ったがそんなもの今はどうでもいい。
ガイは何も言わなかった。さっきの俺に引いたのか、それとも。思いに気付きでもしたのか。
飯は作り終わらないままルークはあがってきた。





結局ガイはその日、その事については話さなかった。いつもどおりルークとイチャイチャして、一緒の部屋に入って就寝した。どうせ寝てないだろうが。二人は夜一緒に寝て、恋人同士に相応しい行為をするのだ。それは俺が手をだせるわけでもなく。恋人同士だけに許された行為であって、本来は男同士でするべきでないが、そこば愛あっでのものである。
愛なんてものは無償で受けるものだと言うが、愛には愛を返すのが妥当だとあいつらを見て思った。何故なら、あいつらはあんなに幸せそうに互いを見て笑うのだ。俺には手に入らなかった幸せ、愛しい、とかの感情を持って。
狡い、と兄弟に思うのはいつものこと。先程のように涙がこぼれ落ちないよう、枕に押し付けて静かに泣いた。




11.12.11



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