▼もっと強く抱きしめて


※企画提出物
 ユーリス→エルカナ



「……」
「もう少し、ね、お願い…」





カナンとの結婚式前日。言っちゃあれだけども多少面倒臭い準備だとか、スケジュール合わせを終えて俺は酒場にいた。結婚式を迎えると暫く城から出られなくなるので前日だけでも、と頼んだ結果夜だけ許可を貰えた。カナンには悪いと思っているけれど最近は皆と顔合わせすらできていなかったのだ。久しく感じるいつものメンバーに自然と気が緩んだ。
翌日に響かないようにちまちまと酒をつまみ、それなりに皆が出来上がってゆく中一人だけいつもと変わらないように静かだった。お酒のペースはいつもより早いみたいだけれど顔色は変わらずちらちらとこちらに視線を送ってくる。まるでタイミングを掴むかのような。時々目が合うとすぐにそらされてわずかに赤くなった頬が晒された。アルコールのせいだろうか。そういえばまだユーリスから祝福の言葉を貰ってない気がする。いつもなら後からこそりと言ってくれたのだが。

まず最初にセイレンが寝てしまいそれに続くようにマナミアは部屋に戻った。さすがに深夜を回り夜も深くなってきてお開きになった。と言っても皆男部屋に戻るだけなのだが、ジャッカルはやっぱセイレンと寝るわ、なんて言って女子部屋に行ってしまった。そうして俺とユーリスは男部屋に二人きり。昔はよくあることだったが久しぶりの感覚がなんだかもどかしい。黙々とベッドを整えて、金具を外して。そこまではいつも通りなはずだったのにいざ布団に潜ろうとするとやけにユーリスがこちらを見ていて、挙げ句には俺のベッドまでわざわざ来て寝かせまいと服の端を掴んで何がしたいのだろうか。さては一緒に寝たいとか…?ユーリスの意思が読めずとりあえずぽんぽんと頭を撫でる。

「どうしたんだユーリス?」
「っ…まだ寝ちゃだめ」
「ええ……」
「僕が、えと、話終わるまで、駄目…」

だんだんと萎んでゆく声に安心させるように寝ないよ、と告げる。ユーリスは少し前屈みになっていて前髪で表情は伺えない。急だったら驚いただろうけど、下にいた時なにか言いたげな目でこちらを見ていたから。用件はなんだろうか。ユーリスが顔をあげるまでの短い時間で考えてみる。けれど思い浮かぶのはこんな寝る前で無くてもよいことばかりだ。ユーリスが発するしかわかる方法はない。ユーリスを見るとどこか踏ん切りをつけたような面持ちだった。

「…っ、エルザ」
「なに?」
「う…気持ち悪がらない?」
「?当たり前だよ。ユーリスは気持ち悪くないよ」
「そういうことじゃないんだけど…え、と」
「なんでもどーぞ。」

こっちは準備万端だって言うのにこの、えーと、焦らしよう。なにを言うのにこんなに戸惑うのか気になってきた。早く、と促すと少し唸ってから胸に頭突きされた。痛みに顔をしかめるも、ユーリスの目的は頭突きでなかったらしく俺の胸に額を押し付けて腰に腕を回してきた。ユーリスが俺に抱き着いている状態だ。これが女性…カナンだったら抱きかえすだろうがユーリスは男で、対応に困ってしまう。もんもんと考えこんでいると顎にぶつからんばかりの勢いで顔をあげたユーリスは真っ赤で、暫く戸惑ったものの、ぎゅってして…?と目的を伝えてきた。ぎゅっと、と言うのは抱きしめればよいのだろうか。言葉通り抱きしめてやれば男にしては細めの肩が微かに揺れた。ユーリスの頭はだんだん上がってきてついに俺の肩にのせた。表情は伺えない。
温もりを感じながら背中にまわした手を離すとユーリスから離すなと声がした。頭蓋骨をすり合わせながら体温を分け合う感覚は初めてでどうすればいいのか頭も回らなかった。多分ユーリスの体温が頭に行ったのだ。ぽぅとする。

「……」
「もう少し、ね、お願い…」

命令口調ではなくお願いとなってしまえば俺は見過ごすことはできず、ユーリスが寝息をたてるまで俺はユーリスと抱き合っていた。



翌朝はユーリスは普通に起きて、いつもと変わらない様子だった。カナンとの結婚式にも皆と一緒に顔を出していた。お祝いの品だって貰ったし、昨日のあれはまるで無かったようだ。違ったことと言えば、ユーリスの顔には泣いたあとがあった。






11.08.24




戻る

TOP





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -