▼ピンククラッシャー


※n巡目
 CP要素無し、山無し・オチ無し・意味無し。




「徐倫って、魅力的ですよね。女性としても」

 突然何を言い出すものかと、徐倫は呆れた顔でジョルノを見る。ジョルノも平生と至って変わらない様子で、口説き文句や愛の告白にしては熱が無さすぎるし、冗談にしては表情が変わらなすぎる。もっとも、本気であっても好意も冗談もさらりと告げるものだから今と様子は変わらないのだが。

「急に何? 何かあった?」

 何かとは聞くが、どういった話をしたいかは先の言葉で伝わった。二人にとっては少し面倒くさい、恋色沙汰の話だろう。
 美形の血を継ぐ二人は、ハーフなのも相まって端整な顔をしている。その顔に一目惚れした、なんて言って告白したり付きまとったりする輩が散々いるのだ。
 ジョルノは一人でいることも多く、金髪碧眼の王子様を一人占めしたい女の子はごまんといることだろう。うんざりだと何回も聞いた徐倫は、この手の話題には慣れきっていた。それもそのはず、奇妙な繋がりのある二人の友情は既に10年を越す。

「ちょっとしつこい人がいまして。仕方なく話を聞いたら、゛私はこんなにかわいいのにどうして彼氏にならないの!゛――と。よくよく見ましたけど普通だと思ったのでそう伝えるとビンタされました」
「そりゃあ、まあ、されると思うわ」
「それで、少し考えたんですよ。かわいいってなんだろうと」
「すごい響きね、あんたが言うと」

 徐倫が肯定することで眉を寄せているのは、理解できないからだろう。その気持ちは徐倫もわからないでもない。
 ジョルノ自身や親であるディオはもちろん見目が良く、家族ぐるみの付き合いであるジョースター家は見事に美形で高学歴、さらに親しくしているツェペリ家までハッキリとした顔立ちかつ代々医者とくる。学力偏差値もだが、顔面偏差値の基準は子供の頃から世間とかけ離れているのだ。
 多分、ジョルノの話している女の子は学年で一番か二番にはかわいいのだろう。彼氏に困ったことはなかったのだと思う。だからこそジョルノを正面にしても高飛車に発言できたのだ。想像に難くない。

「かわいいとは、愛らしいということですよね。それはわかるんですよ。蛙はかわいいですし、花がかわいいと言うのも理解できます」
「蛙って」
「また、魅力的な人にも言いますよね。貴女を魅力的と言ったのはこれです。美しくたくましい。しかし、一般的には美しいとは別の意味を持った表現とされています。シーザーも使い分けています」

 さらりとまた口説きが入ったが、本人に口説いているつもりはないだろう。恥ずかしさは感じるが客観的事実らしいのでありがたく受けとる。

「しかし、これだけではよくわからなかった。なので人で考えました。かわいいと言われてまず浮かぶのはフーゴでした」

 すごく気になる内容を突っ込みたいが、ここは堪えなければ。フーゴには申し訳ないが胸中で笑わせてもらう。

「ッ……んん、それで、他には?」
「徐倫は会ったことがないと思うのですが、シーラEという女の子ですね。ああ、シーラEは一つ年下ですが、後輩と言うより部下の一人です。しかし、なんというか……子供みたいで。彼女の親のような気持ちになる」
「〜〜っっ…………つ、続けて……」
「徐倫」
「大丈夫、後で突っ込むから」
「…………」

 ジョルノが不満ありげに見るのに徐倫は真顔で応える。許して欲しい、ジョルノが発するにはどれも面白すぎるのだ。

「と、まぁ、その二人がすぐに浮かんだので、例の彼女は二人に似ているか考えました。似ているところなんかないんですよね。ぼくは彼女の名前すら知らないわけですから、比較出来る筈が無い」
「……それがオチ?」
「はい」
「その女の子はかわいくない、でファイナルアンサー?」
「そうです」

 これで全く悪意がないからタチが悪い、と徐倫は思う。ジョースターの男達の何人かも全く同じ思考を持っているから、似たような話をしたことがある。美形過ぎるのも考えようだ。
 何も女の子がかわいいと思えとは言わないから、せめてそういった感覚が存在していることを理解して欲しい。でないと一切気がないとはいえ女の子が不憫過ぎる。

「ジョルノあんたさ……、いいな〜とか思う人いない訳? そうじゃなくとも、フーゴやシーラEちゃんがかわいいならもうわかってるようなものでしょうが」

 無言で眉を寄せて少し首を傾げる姿は、むしろジョルノ本人がかわいいと思うが、これを言っても絶対理解してもらえないと分かる。無駄を嫌うジョルノの前では、無駄な言葉を言わないのが一番だ。

「好ましいと言う意味ならば、ミスタが良いと思いますが……。かわいくはないですよね。シーラEをかわいいと感じる気持ちと同じだと言うならば、人類全員に親心を持てと言われるようなものです」
「そんな盛大な話じゃあないわよ……」
「違うんですか? フーゴと同じと言うなら、……んん、小動物みたいな感じですかね」
「小動物! 面白過ぎるから今度本人に会ったら報告しても良い?」
「どうぞご自由に」

 ミスタが良いと言われ、そういった気があるのかとさらに尋ねたい。しかし、゛かわいい゛については関係がないと思われるのでやめた。
 にしても、保護者目線の゛かわいい゛や生き物に対しての゛かわいい゛はわかるくせに女の子がかわいい、には理解不能だなんて言うのか。言い換えれば、ジョルノの中で女の子は子供のような保護対象でなく、小さく儚いような生き物とは別だということだろう。あと、魅力的でない。これほど残酷なことがあるだろうか。

「ううん……、まとめるとなんというか、あまりにも辛口というか……。前世で女の子に酷いことでもされたワケ?」
「ああ、そうかも知れませんね」
「そこは否定しなさいよ」

 それはいい案だと言わればかりに声色を上げるジョルノにがくりと肩を落とす。そもそも女の子どころか、女性自体に良い感情が無いようだ

「別にいいじゃないですか。女性がかわいいと感じる気持ちが存在していることは知っていますし、そう言う人達はかわいい女性が好ましいということも理解しています。ただ、ぼくがそう感じないだけで」
「……そこまで来るとあたしから言えることも無いわ……」

 知っていて理解もしているが共感はできない、そう言い切られるともはや好みの話になってしまうため、教えるも何もない。人の好みをそんな簡単に変えることができたなら、こうして頭を痛めることもないだろう。

「……、あんたにとってその女の子はかわいくなかったのは事実かも知れないけど、もう少し恨みを買わない方法でお断りした方がいいわよ」
「そうですね。一緒に考えてくれますか? 徐倫」
「面倒だからいやよ」

 ジョルノは微塵も残念でなさそうな顔で残念だと言う。これからもなんてない顔でフラれ続けるであろう女の子や女性を思うと、徐倫は不憫で仕方がなかった。






170910


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