▼夕暮れの赤


※現代転生
 短い



「手ぇ鈍る…」
「鈍ったっていいだろうが、屑」
「ううう…」

家から少し離れた竹藪でローレライの剣を地面に突き刺してルークは踞る。アッシュはそんなルークを上から見下ろして呆れたように言った。

「なんせここには戦争どころか盗賊、泥棒も滅多にないんだ。無理にあっちにいたときに合わせる必要性もない」
「だって毎日勉強勉強…俺元々勉強好きじゃねーし。剣を扱ってる方が好きだ」
「そうだな。だがこの社会では暮らしていけないだろう」
「そーだけどさぁ…」

ジワジワと太陽の熱が照り付けてくるのがわかる。竹の葉がまだらな影をつくり揺れているのをアッシュはなにとなしに見ていた。

自分と双子の兄ルークは生まれてからすぐに驚くほどの知識を持っていた。それは神の子やらなんでもなく、既に一度人生を経験している記憶があったからだ。前世と言えるであろう記憶は二人の再会を喜ばせ、また生まれてからの不自由な体に不満も持たせた。起き上がれるように、そして歩いて喋れるようになるまで乳児言葉を喋り立ち上がる度に足を震わせなければならない。とくにアッシュは不満だったらしくたまに幼児らしく唸りながら泣いたが、シュザンヌはたまのそれが嬉しいらしくアッシュを甲斐甲斐しくあやしたりした。
二年、三年と経ちようやく満足に歩けるようになり口も回るようになると、二人はこの世界はなんなのだろうという話をした。母に隠れてあれやこれやと話したが、下手に一度死んでから生きて還っていたためにこの世界もその延長かとも考えたが、回りには母シュザンヌに父クリムゾン以外に確認は出来ていない。それに一度還った後は寿命を全うしたはずで、さらに還ると言うのはおかしいように感じられる。未だ前世来世という概念がない二人には死後の世界でもなく音譜帯でもない幼児化させられたここが不思議でならなかった。

『なんでまた生きてんだろーな』
『しるか。このからだも小さくてかなわん』
『けんつかえねーし…』
『かかえきれないな』

小さい頃から剣を握って生きてきた二人は、公園や買い物に行っても不審な輩は見ないし武器も売っている様子もない、いわゆる平和過ぎる世界に驚いていた。こんなにも無用心でよいものかと最初は焦りもしたが実際何も起こらないので慣れるしかなかった。
そのうち幼稚園に通いだし、園内で小さなナタリアをアッシュが発見した時には他のメンバーまで幼児化しているのかと目を回したが、ルークが声をかけたところ小さなナタリアちゃんは何も覚えていない純粋な4歳児であることが発覚した。この頃ようやく本や絵本を読み始めたアッシュが、゙来世゙や゙転生゙という言葉を知り、ここがもしかして死んだ後に生まれかわった世界ではないかと気付いた。それにしては随分と前世に似た人間関係だ。そう思いながらルークと情報を共有すると、そんなことも有るのだと思い込むしかないという結果にありついた。いくら頬をつねろうが互いに叩き合おうが、痛みが現実だと伝えてきて幼児化により弱くなった涙腺からは涙が溢れた。なんの前兆もなく二人で叩きあって涙を流す姿は園内で相当不思議な光景となっていただろうと今なら想像がつく。
小学生とやらになり体も大分丈夫になったころ、回線は使えるものかと試したことがあった。が、二人が今は双子として生まれてきたせいか直接的な会話は不可能だった。それでも片方が悲しめばそれが冷ややかに伝わり、怪我をすれば痛みが、そして風邪を引けばもう片方も風邪へと追い込まれた。両親も不思議に思ったが最終的にはシュザンヌの双子だから、にクリムゾンも納得することにしたらしくあまり不気味がる様子も無く、現世でも自分達に甘い両親に感謝し胸を撫で下ろしたものだ。
子供の成長は早く体の方は女より遅いものの成長期を向かえ、慣れてきた視界から一気に過去の高さまで伸びていった。途中ルークが受験で音を上げていたが無事アッシュと同じ高校に進学し他の知り合いには会えないまま今に至る。平和すぎる世界にも慣れ、発達した文化や科学に驚き、また感じることのない譜力にもようやく納得してきたころだ。

「あっちぃー…」
「そうだな…ここは、本当に豊かで平和だ」
「…ちっといじめが流行ったりはしたけど、虐げられてる奴もいねぇし」
「動物は食用じゃないしな」
「そうそう」

アッシュは突き刺された剣を抜くと、泥を払うように一振りした。そうして、緩く構えてから剣を竹に当たらぬように引いては刺し、結んだ髪を靡かせて回転する。見覚えのある型にルークは息を漏らしてその様に見とれた。昔からとても真似出来そうにない、二人でガイに教わった剣舞だ。白い刃の部分が光を反射して煌めく。

「…こんなとこか」
「アッシュのはいつ見ても綺麗だな…」
「……。仕舞うぞ、そろそろ日が暮れる」
「うん」

おそらくコンタミネーションであろう現れ方をしたローレライの剣のこちらでの扱いも大分慣れてきていた。アッシュがもう一払いすると剣は乖離するように淡くなりそして姿を消した。毎度のことどこに消えているのかはわからないが、確かに自分達に溶け込んだことだけは感じ取れるのだった。譜力のないこの世界でコンタミネーションが起こせること事態がおかしいのだが二人は深く考えぬようにしている。考えてどうこうなることでもないから、とりあえず人目には付かないようにしているのであった。

「いつまでそうしてるつもりだ」
「アッシュたたせて」
「………」

下から伸ばされた手をアッシュはしかめ面で引く。その勢いで立ち上がったルークはアッシュにありがとうと言ってへらりと前のように笑った。

「今日の夕飯なんだろうな」
「帰ったとき鍋があったからカレーだろ」
「マジ?あっちーよ…でも楽しみだな」
「人参残すんじゃねぇぞ」
「そこは甘く見てくれよ……」
「折角母さんが作ってくれたのに失礼だ」
「嫌いなモンは嫌いなんですー」

口を尖らせてルークが言う。林を抜けるため沢山の葉をかぶりながら太陽に照らされて、砂漠程では無いが暑い帰り道を歩いた。決して二人で歩くはずのなかった道程をこの世界では歩めることが出来、二人はそれぞれ口には出さず転生出来たことに感謝する、そんな騒がしい帰り道だった。




140728
掲載:170712





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