※n巡目
女装する系ジョルノ
あたしの親戚にはおかしなやつばかりだ。
信じらんない程お人好しで天然を極めてたり、いつもおちゃらけてて調子が良い癖に一企業の社長だったり、人とまともな会話をする意思がないのにヒトデの論文なんか書いて博士になってたり、普段温厚な愛すべき馬鹿が髪形ひとつでブチキレたり、順番に上げだしたらキリがない。
みんながみんな違う方向にブッ飛んでいるのだが、一番年の近い奴はこれまたおかしな方向におかしい。ギャグみたいに言うけど、一緒にいればそのおかしさをひしひしと感じることが出来るだろう。
「徐倫、どうしました? まさかもうバテたりしてませんよね?」
涼しい顔をして、いや確かに外は涼しいのだが、心配するように見せかけてからかってくるこいつはジョルノと言って、性別は男である。あるはずなのだが――、その服装は、短めのトップスに細身のパンツ、そして膝まである薄めのロングカーディガン。ジョルノの性別を知らない人が見たら絶対に女の子と言われるような格好なのだ。
ジョルノは、性格が良い方ではないが懐に入れた人には優しいし、ギャングのボスだとかの噂もあるけど少なくともあたしといるときは、年相応に近い。
ただ、服装の趣味がおかしい。誰かさんのように奇抜な色を好んだり、何故か海のいきもののアクセサリを頻繁に使用するのとは違った方向におかしいのだ。
男服はもちろん、ユニセックスやジェンダーレスと言われる服、果てに女服も着る。女装やレディースの服が特別好きと言うわけではなく、理由はただひとづ自分に似合うと思ったから゙。事実、ジョルノは未だに女顔負けの美少年だから似合うし、ジョルノがダサい格好をしているのをあたしは見たことがない。
そんな彼は良く言えばオシャレさんなのだが、幼稚園児の頃から散々からかわれているのを見た。しかし、すこしだけ秘密のあるあたしたちは幼稚園児の頃には既に高校生ぐらいの頭を持っていて、ジョルノも例に漏れず同じだけからかいの言葉を返していた。言い返された男児がジョルノをぶったと聞いた時は、やり返せないことに地団駄を踏んだのを覚えている。
「や、大丈夫。ちょっと幼稚園のころ思い出してた」
「幼稚園? なんだって急に……」
今日は二人でショッピングモールにお出掛けだ。他の奴らは体がデカ過ぎて普通のショップじゃあなかなかサイズがないし、兄弟の中で一番センスが良いのは言うまでもなくジョルノだからだ。
「そうだ、そんときぐらいに着てたワンピースかわいかったわよ。ノースリーブのやつ」
「あれは……、あのサイズだから許されるような格好です」
「そんなことないでしょ」
まだ5頭身も無いような頃にジョルノが着ていた文字通りノースリーブで、グレーのバルーンワンピース。下には長いスパッツを履いていたので決して生足ではなかったが、人形の子供と同じようなシルエットはとてもかわいらしかったのを覚えている。
あたしだってスカートやワンピースを着たりするけど、ジョルノがよく着るおしとやかでかわいらしい服はあまり似合わない。
「いいえ。近頃、腕の筋肉がついてきてしまって……。ノースリーブとはお別れかもしれません」
「うそ!着ないやつあたしに頂戴よ!」
「ぼくの服は自分には似合わないと言ってませんでした?」
「気に入ったのだけ着るの!」
駅に向かいながら服の話をするなんて、普通の男とはできないだろう。ジョルノの容姿は紛らわしくあるが、そのおかげで尚更自然にファッションの話が出来る。
二人でいるとどうしてもナンパに合うが、ジョルノの腕力は男の物だし、あたしだって追っ払い方ぐらい知っている。兄弟だから、カップルだと噂されようがあたしたちに取っては笑いのネタでしかない。
とにかく、ジョルノと一緒にいるのはファッションのことを抜きにしても楽しいし、一番性別の垣根が低い。確かに世間から見ればおかしなことだが、あたしはジョルノにこの謎の癖だか性癖だかをやめてほしいとは思わないのだ。
「まあ、わかりましたよ。好きにしてください」
「やったー!ありがとジョルノ!」
「Prego.」
思いきり抱きつくとジョルノは軽くハグし返してくれる。日本人は恥ずかしがってなかなかしてくれないが、アメリカ気質とイタリア気質のあたしたちには欠かせないコミュニケーションのひとつだ。
「代わりと言ってはなんだけど、今日は昼飯奢ってあげるわ。あんたの服って高いの多いだろうし」
「ぼくの服を買っているのが主に誰だか知ってて言ってます? 甘えさせてもらいますけど……」
「いいの!」
もうじき駅に着く。そしたらそこで乗換駅まで乗って乗り換えて、すぐだ。今日の予定は始まったばかりなのにすでに楽しい。
これだからブラコンと言われようがジョルノと出掛けるのをやめられないのだ。五月蝿い兄がいなくもないがその兄貴だってシスコンで、ジョルノのタイプが頼れる年上だってことすら知らない。
ただ単純に、あたしたちは仲が良いのだ。
*
「ジョルノが女の子なら下着だって一緒に買えたのになぁ」
「別に構いませんよ?」
「うーん……」
「今度はスカート履いて来ましょうかね」
電車から降りて、またそういう話。流石に静かな電車内で話せるほど一般的な話ではないことぐらいは、あたしもわかっている。
「そういうことじゃあなくて……、あたしが嫌なんじゃなくて、いや、複雑な気持ちはあるけど、あんたはそれでいいの? 女モンの下着見て下心的な興奮なしで楽しいの?」
「ああ成程……、あいにく物に興奮するほど飢えてないので。美しいものは美しい、そうでしょう? 男物より華があって好ましいですよ」
「そんなんでよく枯れないわねあんた」
下ネタと言えば下ネタだがジョルノはそういったものを感じさせない中性さがある。童貞かと聞かれるとそうではない気がするけれど、処女かと聞かれると悩むような、そんな感じだ。失礼かも知れないが、ジョルノ自身他人が悩むのを楽しんでいる節すらあるのでお互い様なのだろう。
「女物という条件だけでは興奮に繋がらないということですよ。あなたも今更男物の下着にドキドキしたりしないでしょうに」
「まあそうだけど」
やっとモールのはしっこに着いて、入ってすぐのアイス屋にジョルノが目を奪われる。けど、足は止めずに前に進む。
ジョルノはアイスクリームと言うか、ジェラートが好きだからアイス屋の前を通るとだいたいこうだ。ジェラートに限らず甘いものが好きなところも、スイーツ男子というか、ふつうの女の子みたいだ。べつに意識が女の子というわけでもないのに。
「そうか、fragolaの季節か」
「食べたい?」
「ンー……、いまはいいです」
ふるふると首を振るのは素のジョルノの証だ。猫かぶっている時はもっとゆるりと、何をするのにもゆとりを持って動きにする。余裕を持っていることは大事なんだとか。
近いところから順に、よく入る店を覗いてはあれがいいこれがいいと合わせてみたり、入りづらかったランジェリーの店に入って、真っ赤なスケスケ下着に笑ったり。
本当に女友達といるみたいで、あたしは時々ジョルノって存在がなんなのかよくわからなくなってくる。ミルフィーユみたく何重にも重なったガーゼみたいな不透明なもので包まれてて、真ん中にあるものがなんだか見えなくなる。よく一緒にいるあたしですら、たまにそう感じてしまう。
だからこそあたしはジョルノのことを知っておいてあげなくちゃならないし、見逃しちゃいけない。他のやつらみたいに、全部わかってくれる人がなかなかいないから。
部分的に理解してくれる人はもちろんいる。ミスタはジョルノの人間性を理解してくれているし、ブチャラティはジョルノの信念を理解してる。でもミスタは普通に囚われがちで、ブチャラティはジョルノを信じすぎている。あたしじゃなきゃ、ってのは買い被り過ぎかもしれないけど、誰かは必要なのだ。
「やっぱり、あなたといると楽でいい」
「何キザなこと言い出してんのよ。ディオの前で言わないでよソレ」
「わかってます」
緩くなっている表情を見ると、このおかしな奴があたしの親戚で、兄弟で、あたしにとってもジョルノにとっても良かったと、そう思うのだった。
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女装する系ジョルノ
あたしの親戚にはおかしなやつばかりだ。
信じらんない程お人好しで天然を極めてたり、いつもおちゃらけてて調子が良い癖に一企業の社長だったり、人とまともな会話をする意思がないのにヒトデの論文なんか書いて博士になってたり、普段温厚な愛すべき馬鹿が髪形ひとつでブチキレたり、順番に上げだしたらキリがない。
みんながみんな違う方向にブッ飛んでいるのだが、一番年の近い奴はこれまたおかしな方向におかしい。ギャグみたいに言うけど、一緒にいればそのおかしさをひしひしと感じることが出来るだろう。
「徐倫、どうしました? まさかもうバテたりしてませんよね?」
涼しい顔をして、いや確かに外は涼しいのだが、心配するように見せかけてからかってくるこいつはジョルノと言って、性別は男である。あるはずなのだが――、その服装は、短めのトップスに細身のパンツ、そして膝まである薄めのロングカーディガン。ジョルノの性別を知らない人が見たら絶対に女の子と言われるような格好なのだ。
ジョルノは、性格が良い方ではないが懐に入れた人には優しいし、ギャングのボスだとかの噂もあるけど少なくともあたしといるときは、年相応に近い。
ただ、服装の趣味がおかしい。誰かさんのように奇抜な色を好んだり、何故か海のいきもののアクセサリを頻繁に使用するのとは違った方向におかしいのだ。
男服はもちろん、ユニセックスやジェンダーレスと言われる服、果てに女服も着る。女装やレディースの服が特別好きと言うわけではなく、理由はただひとづ自分に似合うと思ったから゙。事実、ジョルノは未だに女顔負けの美少年だから似合うし、ジョルノがダサい格好をしているのをあたしは見たことがない。
そんな彼は良く言えばオシャレさんなのだが、幼稚園児の頃から散々からかわれているのを見た。しかし、すこしだけ秘密のあるあたしたちは幼稚園児の頃には既に高校生ぐらいの頭を持っていて、ジョルノも例に漏れず同じだけからかいの言葉を返していた。言い返された男児がジョルノをぶったと聞いた時は、やり返せないことに地団駄を踏んだのを覚えている。
「や、大丈夫。ちょっと幼稚園のころ思い出してた」
「幼稚園? なんだって急に……」
今日は二人でショッピングモールにお出掛けだ。他の奴らは体がデカ過ぎて普通のショップじゃあなかなかサイズがないし、兄弟の中で一番センスが良いのは言うまでもなくジョルノだからだ。
「そうだ、そんときぐらいに着てたワンピースかわいかったわよ。ノースリーブのやつ」
「あれは……、あのサイズだから許されるような格好です」
「そんなことないでしょ」
まだ5頭身も無いような頃にジョルノが着ていた文字通りノースリーブで、グレーのバルーンワンピース。下には長いスパッツを履いていたので決して生足ではなかったが、人形の子供と同じようなシルエットはとてもかわいらしかったのを覚えている。
あたしだってスカートやワンピースを着たりするけど、ジョルノがよく着るおしとやかでかわいらしい服はあまり似合わない。
「いいえ。近頃、腕の筋肉がついてきてしまって……。ノースリーブとはお別れかもしれません」
「うそ!着ないやつあたしに頂戴よ!」
「ぼくの服は自分には似合わないと言ってませんでした?」
「気に入ったのだけ着るの!」
駅に向かいながら服の話をするなんて、普通の男とはできないだろう。ジョルノの容姿は紛らわしくあるが、そのおかげで尚更自然にファッションの話が出来る。
二人でいるとどうしてもナンパに合うが、ジョルノの腕力は男の物だし、あたしだって追っ払い方ぐらい知っている。兄弟だから、カップルだと噂されようがあたしたちに取っては笑いのネタでしかない。
とにかく、ジョルノと一緒にいるのはファッションのことを抜きにしても楽しいし、一番性別の垣根が低い。確かに世間から見ればおかしなことだが、あたしはジョルノにこの謎の癖だか性癖だかをやめてほしいとは思わないのだ。
「まあ、わかりましたよ。好きにしてください」
「やったー!ありがとジョルノ!」
「Prego.」
思いきり抱きつくとジョルノは軽くハグし返してくれる。日本人は恥ずかしがってなかなかしてくれないが、アメリカ気質とイタリア気質のあたしたちには欠かせないコミュニケーションのひとつだ。
「代わりと言ってはなんだけど、今日は昼飯奢ってあげるわ。あんたの服って高いの多いだろうし」
「ぼくの服を買っているのが主に誰だか知ってて言ってます? 甘えさせてもらいますけど……」
「いいの!」
もうじき駅に着く。そしたらそこで乗換駅まで乗って乗り換えて、すぐだ。今日の予定は始まったばかりなのにすでに楽しい。
これだからブラコンと言われようがジョルノと出掛けるのをやめられないのだ。五月蝿い兄がいなくもないがその兄貴だってシスコンで、ジョルノのタイプが頼れる年上だってことすら知らない。
ただ単純に、あたしたちは仲が良いのだ。
*
「ジョルノが女の子なら下着だって一緒に買えたのになぁ」
「別に構いませんよ?」
「うーん……」
「今度はスカート履いて来ましょうかね」
電車から降りて、またそういう話。流石に静かな電車内で話せるほど一般的な話ではないことぐらいは、あたしもわかっている。
「そういうことじゃあなくて……、あたしが嫌なんじゃなくて、いや、複雑な気持ちはあるけど、あんたはそれでいいの? 女モンの下着見て下心的な興奮なしで楽しいの?」
「ああ成程……、あいにく物に興奮するほど飢えてないので。美しいものは美しい、そうでしょう? 男物より華があって好ましいですよ」
「そんなんでよく枯れないわねあんた」
下ネタと言えば下ネタだがジョルノはそういったものを感じさせない中性さがある。童貞かと聞かれるとそうではない気がするけれど、処女かと聞かれると悩むような、そんな感じだ。失礼かも知れないが、ジョルノ自身他人が悩むのを楽しんでいる節すらあるのでお互い様なのだろう。
「女物という条件だけでは興奮に繋がらないということですよ。あなたも今更男物の下着にドキドキしたりしないでしょうに」
「まあそうだけど」
やっとモールのはしっこに着いて、入ってすぐのアイス屋にジョルノが目を奪われる。けど、足は止めずに前に進む。
ジョルノはアイスクリームと言うか、ジェラートが好きだからアイス屋の前を通るとだいたいこうだ。ジェラートに限らず甘いものが好きなところも、スイーツ男子というか、ふつうの女の子みたいだ。べつに意識が女の子というわけでもないのに。
「そうか、fragolaの季節か」
「食べたい?」
「ンー……、いまはいいです」
ふるふると首を振るのは素のジョルノの証だ。猫かぶっている時はもっとゆるりと、何をするのにもゆとりを持って動きにする。余裕を持っていることは大事なんだとか。
近いところから順に、よく入る店を覗いてはあれがいいこれがいいと合わせてみたり、入りづらかったランジェリーの店に入って、真っ赤なスケスケ下着に笑ったり。
本当に女友達といるみたいで、あたしは時々ジョルノって存在がなんなのかよくわからなくなってくる。ミルフィーユみたく何重にも重なったガーゼみたいな不透明なもので包まれてて、真ん中にあるものがなんだか見えなくなる。よく一緒にいるあたしですら、たまにそう感じてしまう。
だからこそあたしはジョルノのことを知っておいてあげなくちゃならないし、見逃しちゃいけない。他のやつらみたいに、全部わかってくれる人がなかなかいないから。
部分的に理解してくれる人はもちろんいる。ミスタはジョルノの人間性を理解してくれているし、ブチャラティはジョルノの信念を理解してる。でもミスタは普通に囚われがちで、ブチャラティはジョルノを信じすぎている。あたしじゃなきゃ、ってのは買い被り過ぎかもしれないけど、誰かは必要なのだ。
「やっぱり、あなたといると楽でいい」
「何キザなこと言い出してんのよ。ディオの前で言わないでよソレ」
「わかってます」
緩くなっている表情を見ると、このおかしな奴があたしの親戚で、兄弟で、あたしにとってもジョルノにとっても良かったと、そう思うのだった。
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