▼こんにちは、はじめまして。


※細かいことは気にしないでください
 うっすらとDIOジョル風味
 「イタリア語」『英語』



 パッショーネの頂点に立って忙しく組織を回していたころ、初めてSPW財団と言う世界的財団を引っ張る代表から電話があって、その財団に詳しく知らなかったぼく自身の生い立ちを説明されたぐらいのことだったと思う。普通に考えて色々とブッ飛んだ質問をされたのは。

「君は自分の本当の父親のことを知っているのか」
「吸血鬼を信じるか」
「血が欲しくなったことはあるか」

 電話先の男の声が冷静でなかったら馬鹿にしているのかと言いたいようなものばかりだった。直接会いたくないらしい男――空条承太郎は詰問のようにぼくを質問攻めしたけれど、疑問に感じながらも大人しく応えていると勝手にぼくを値踏みし終えたのかさすがにぼくも声をあげずにいられないことを押し付けるように言ってきたのだ。

「……君を信用しよう。康一くんも君に私達と通じるものを感じたと言っていた。そして、君の父親を君に会わせようと思うのだが」
「え……、今なんて、父親ですって?」
「そうだ。吸血鬼で現在130……いくつだったか。財団で保護されているが正直面倒を見るのに苦労しているし息子がいるなら一緒に暮らした方がいいだろう。仮にも親子ということになるからな」

 ついさっき実の父親について知ったばかりなのに、はいそうですかなんて言えるはずがない。しかも面倒だとわかっていて寄越すと言うのは最早押し付けではないのか。財団の力をわかっていながらも抵抗しなければならない気がした。何より、自分によくないものをその父親、DIOは運んで来そうな予感がすると本能が叫んでいる気がする。

「……そんな急に…、ぼく、組織の方で忙しいんで面倒な人なんか相手してられませんよ」
「アイツは君に興味を示している。君を気に入れば大人しいままだろうし逆に気に入らなくとも君にはアイツを止められるだけの力もある。それに、このことは君が正しい精神を持っていると私が判断した時点で財団での決定事項だ。拒否も不可能ではないが……、現実的ではないな」
「勝手過ぎませんか……。ぼくは寮暮らしなんで今更家に帰っても父親…、DIOは置いておけませんし、わざわざ家を買うつもりもないんですが」
「財団の方で館を用意した。古いが馬鹿に広いから問題ない。君もぼちぼちそちらに移ってくれ」

 用意が周到過ぎて呆れて言葉もまともに返せないでいるとわかったな、と確認され何もわかりたくないと思いながらも気の抜けた返事をした。成りたてとは言えギャングのボスにこんな無茶ぶりを出来るのは後にも先にもこの財団だけだろう。そうであって欲しい。

 空条承太郎の喋るイタリア語がやけに流暢なことにぼくは気付かず、父親が今更自分に必要なのか、監視がまとめて出来るから楽なのか、財団の用意した館は学校やアジトからどのくらいかかるのか、とすぐ先の予定に対応すべく組織の方の予定を調節するのに頭を抱えた。
 そのせいで、もっと根本的な問題があるということに気付いていないままに父親との対面の日を迎えてしまった。


  *****


「チャオ……、あの」
「汐華初流乃くん……だな。空条承太郎だ」
「…どうも。それで……父は?」
「DIOは中だ。何かやらかしてもすぐ仕留められるようにな」
「はぁ……、じゃあこれからここで暮らせってことですね」
「そうだ」

 あらかじめ教えられていた住所の場所へ行くとそれはそれは盛大な古館が建っていて、白い上着の空条承太郎だけがやけに浮いていた。
 中へ入るよう促され空条承太郎の後について館に入ると立派な玄関と一人の奇抜な男が待っていた。金髪に真っ赤な瞳は人であらざるものと激しく主張していたが、それよりも全身に黄色を用いたおかしなセンスの方に思考を持っていかれて、父親だと気づくまでにしばらく時間を要した。向こうは興味津々にこちらを見下ろしている。
 今更だが、二人ともずっと見上げていると首を痛めそうな程に背が高くぼくは一人気後れしていた。

『こいつがおれの息子か?』
『ああ』
『……なかなかじゃあないか』

 突然英語で会話してぼくを父親の方へ押しやる空条承太郎に驚いて声をかけるも、抵抗虚しく離されて目の前には初めて会う父親が。英語で話すだなんて聞いていない。いや、イギリス人と言われて英語を普段使っていると気付かなかった自分にも非はある。あるけれど、学校の授業も適当にしか聞いていないぼくは成績がいい方とは言えなかったのだ。つまり、英語もものすごく初歩的なところしかわからなかった。
 試しにイタリア語で挨拶してみても良かったが、空条承太郎がわざわざ英語に変えたということはイタリア語はわからないのだろう。ずっと理想として描いていた人に初っぱなから気の利かないヤツだとは思われたくなかった。

「……あ…」
『……緊張しているのか?かわいらしいものだな』

 何かを言って彼が手を伸ばしてくる。かわいい、という意味の単語が間違いじゃあなければ聞き取れたが夢を見すぎなのだろうか。どうするべきかと固まっているとその手はぼくの頬に行き着いてむにむにと頬肉を弄んだ。どうやら害意はないようだ。でもなにがしたいのかはわからない。
 空条承太郎に視線をやるとこちらに気付いてからこくりと一頷きしてきて彼と意志疎通は不可能だと悟って諦めた。

『ほら、自己紹介くらいできるだろう……私はDIO。お前は?』

 大丈夫、落ち着けば単語ぐらいは聞き取れる。そう思い直して軽く深呼吸をした。アイムディオ、それくらいは聞き取れたのだからわかるところから考えればいいのだ。そういえば会ってまだ自己紹介もしていない、それならば先にしゃべっていたのはそんな感じのことだろう。度胸がなければギャングはやっていられない。

『Beh……、ぼくはジョルノです。ジョルノ・ジョバァーナ……初めまして。ディオ・ブランドー』
『ジョルノ……?』

 ぼくの顔を挟んだままディオは空条承太郎の方を向く。しばらく沈黙があって、空条承太郎は、ハルノ・シオバナと呟いてディオを見返した。本名を伝えていたならそう言ってくれればいいのに、と空条承太郎を少し恨みがましく思った。

『ニックネームか何かか……ハルノ。それと私はDIO、だ。ブランドーなどと忌々しい名前で呼ぶな、わかったな?』
『……??』

 しまった全然わからなかった。早口になられると一気にわからなくなってしまう。じっと赤い瞳を見上げると面白かったのか、はたまた怖がっているように見えたのか、ディオは口角をつり上げてぼくの頬をぺしぺしと叩いて額にひとつキスをした。吃驚して目をみはると今度はこちらを見つめてきて、そのまま滑らかにキスを寄越してきた。――今度は口に。体験したことがないほどにディオの瞳が近くにあった。

「……、…!?」

 頭が追い付かずしばし間を置いてからおかしなことに気がついた。
 キスしている!
 いくら血の繋がった親子でもこの年でこれはない。役立たずだった腕を張って逃れようとすると存外簡単に離れられた。思わず唇を拭って距離を取るとディオは高笑いをして大層ご機嫌そうに空条承太郎に話しかける。対する空条承太郎は苦い顔をしていた。

『あまっちょろいガキだな!昔のわたしによく似ている。それにこのジョースターの目……ふふ、気に入ったぞ』
『いきなり何してやがる……、息子に』
『ただの親愛のキスだ。舐めてすらいない』
『見境ないのも大概にしろ』

 がくりと肩を落とす空条承太郎とDIOを交互に見やるとDIOは思い付いたようにスタンドを発現させ、自分も反射でスタンドを出す。何を仕出かすかわからなかったが空条承太郎が動かないのなら暴れたりはしないのだろう。――多分。

「随分と子供っぽいスタンドだな……。まあいい。このDIOの能力を見せてやろうじゃあないか」
「え、」

 瞬間、瞬きの間だったなんていっていられない程短い間にぼくの体は宙に浮いていて、浮遊感にびくりと全身を強張らせた。何が起こっているかはぐるりと周りを見渡すだけでわかったが頭の方が理由を突き止められず追いつかない。近くの太い腕にしがみついた。原因であるDIOの両腕はぼくを床に下ろす気配はなく、むしろあげたりさげたりして楽しそうに笑う。

「なッ……にを、して、いるんです」
「楽しくないか?」
「意味がわかりません…あの、おろして、」
「反抗期か……」
「なんでそうなるんですか!」

 とくにそんなつもりはないのだが時期的には反抗期と称される年齢なだけについ言葉が強くなる。たった今あったばかりの人に親だからと言って反抗的になるはずがない。
 じたばたともがくとおかしいな、とでも言いたそうな顔でぼくを下ろしてから腕を組んで黄色いスタンドを見せびらかしてきた。GEは相変わらずぼくにまとわりついてDIOのスタンドを見てはちらりとぼくを見た。戸惑うぼくの内心をよく表してしまっている。

「これがわたしのスタンド、世界(ザ・ワールド)だ。お前のは……」
「…………黄金体験(ゴールド・エクスペリエンス)。なんでくっついてくるのかはぼくも知らないです」
「わたしも初めて見たぞ。素直なスタンドじゃあないか」
「素直?」

 縁のない言葉に眉をひそめて、ようやく違和感に気がついた。急に抱き上げられたりして意識が別に行っていた。
 別の言語を使って頭を凝らしながら話していた筈なのに、出てきた言葉をそのまま話して意味が正しく伝わっている。向こうの言葉もニュアンスを間違えることなく理解ができる。何故?DIOがイタリア語に変えた?

「あれ……」

 声に出ていたことに気付き慌てて口を覆う。考えろ、先と違うものはなんだ?DIOの言葉は訛りもない。ぼく自身も英語は思い返してみてもやはり外国語としか取れない。
 ――これがぼくら特有のもののちからだとしたら?

 (スタンド……?)

 会った最初と違うのは互いがスタンドを出しているということだけだ。空はまだ太陽が高いし空条承太郎は元の位置から動いていない。館の玄関も開いたまま。
 スタンドは精神の力。言語は頭を使って初めて役割を果たすが精神自体の言葉なら同じ精神を持つものには言葉として伝わるのではないか。抗争で戦ったのは全員イタリア人だったし空条承太郎もイタリア語を話すため経験のない憶測でしかないが、考えられるのはこれぐらいだった。

「どうした?」
「……いえ、なんでもありません」

 そんなこと何も考えていません、といった顔で場を取り繕う。仮面をかぶるのは得意だ。

「そうか。それで、能力は?」

 簡単に話題を変えられて、実はそこまで自分を気にしていなかったのだと気付く。息子がぼーっとしていることよりスタンドの方が大事らしい。生まれて此の方放置しておいて今さっき初めて会ったのだから息子だという認識も薄いのだろう。
 仮にも人類の敵に教えていいものかと空条承太郎を見ると好きにしろ、と返ってきた。
 服につけていたブローチをひとつ取り外して、不思議そうに見つめてくる先で掌をスタンドと一体化させる。何がいいか、と一瞬だけ悩んでからスタンドパワーを使ってブローチを一匹の蛇に変えて見せた。

「ほう……蛇使いか? 物質を変化させるのならばハイプリエステスと似ているが……」
「変化……まあ、そうですね、そんな感じです。べつに蛇じゃあなくても良かったんですが、逃げられると困るのでこれにしました。他にも蛙とか魚なんかもできます。花をつくる機会が一番多いですが」

 喋りながら、舌を出した蛇の顔辺りを撫でてやると後ろの方から体をぼくの腕に絡ませてくる。自分でつくった生き物はぼくに従順だから扱いやすいし、ちょっとだけ可愛いげがある。生みの親の気持ちと言うものだろうか。

「つまり……、生物を無機物から生み出せるということか」
「そうですね。ああ、人とかは無理ですけど……。複雑なので。パーツだけならなんとか…」

 これは言わない方が良かったか、と後から考えたがもう出てしまったものは取り消しようがない。DIOが値踏みするようにぼくによりひっついたスタンドとぼくとを繰り返し見て、にやりと口に三日月を描いた。眼鏡にかなったのかと少しだけ心を落ち着けて汗をかいていた掌を握りしめた。

「興味深いな……生命体を生み出すなんてのは普通じゃあない…。無から有を作り上げるのはそれこそ私の、゛DIO゛の子だと言うわけだ。んん?」
「……」

 素直に嬉しいと思ってしまった。
 実の父に認知してもらえ、さらに誉め言葉までもらえるとは考えていなかった。母親にすら褒められた記憶がないぼくにとって、親に褒められるのは初めての体験だったからだ。
 話を聞いている限りでは大層な悪人だったが、自分の子供に対する情くらいは持ち合わせているのだろうか、と余計な期待をしてしまう。

「上がってしまって返事すらできないか? まあいい」

 無駄に頭を回転させ冷やそうとしているぼくを置いて、ディオはスタンドをしまってしまう。翻訳機が無くなってしまった。

『これからは仲良くしようじゃないか、ハルノ』

 何を言っているかわからないが、先程の会話からすると悪い内容ではないだろう。レッツと言われているし、気に入られたという思い込みは多分、間違ってない。小さいころから望んでいた親子関係を手に入れられたらしいが自分の中でその認識は薄くて、まだ彼が父親だということも感じられなくて、血の繋がりとは奇妙なものだと思った。
 短い会話の中で得られたのは、DIOはぼくのことを自分の子供と認識しているが全く父親らしくなくて、傍若無人な性格ということだけだ。言語も儘ならないのにどう暮らしていくんだと思う。

「オーケー、DIO」

 簡単過ぎる返事をしておく。そうしてディオから空条承太郎に目線を変えてイタリア語で話しかける。どうせ英語は付け焼きだから、話せないことがバレるもなにもどうしようもないのだ。

「空条さん。今日は一度帰っていいですよね。引っ越しはすぐですか?」
「好きにしていい。引っ越しは……、そうだな、問題がないようだから、すぐだ。」
「わかりました……」

 何か言いたそうというか、こちらを構いたそうなDIOを無視する形で背を向ける。帰って、次の日からは英語を勉強しようと思う。だから、今は無闇に下手な英語を披露する必要もないだろう。そもそも会話のネタもない。

『さよなら、DIO』

 パパと呼ぶには早すぎるし、ファザーと呼ぶ気にもなれない。結局名前で呼ぶことに決めた。せめてもと思い、振り返りながら別れを告げるとグッバイマイスィート、と返ってくる。心がくすぐったくて、それこそ反抗期の子供のようにドアの方を向いた。
 外はまだ明るい。ドアを開けた瞬間に日の光が射し込んできて、目を細めながら足を踏み出す。そうしてもう一歩目、普段通り踏み出すところで奥から声がかけられる。そう意識できたのは、その言葉が聞き慣れた言語だったからだ。

「次話す時はイタリア語でも構わないぞ」

 歩を止めるわけにも行かずその場は聞き流して、ドアが閉じたあとに太陽に照らされながら体温が上がるのを感じた。必死に取り繕った自分が恥ずかしくて立ち止まってしまうが、夜になる前には帰らないと、と柄にもなく慌てる心を抑え付ける。
 純粋に敵わないと感じたのはDIOが多国語を喋れたからか、それとも父親だからか、ジョルノにはまだ判断がつかなかった。


 さらに、のちに共に暮らしはじめてから当初の嫌な予感は的中し、家にいる間のジョルノの心の安定と身の安全は失われることになるが、それはまた別のお話。






160913



戻る

TOP





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -