▼我等がボスは○学生


※n巡目
 ジョルノが7歳くらい
 ジョルノとDIOは記憶あり・DIOは味方





 清々しい朝にボスの部屋の扉をノックする。
 一番気の緩んだ寝起きを見ることを許されることは組織の人間として光栄なことだ。しかしどうも、胸の高まりだとかは起こりそうにない。そう思いながらもフーゴはその仰々しい扉を叩き、未だ眠りの底にあるであろゔかわいらしい゙ボスを起こしにいくのだった。


**

「まだねむいんですよぉ……」
 小さな拳で目を擦りながら高い声が抗議する。
 ふわふわの金糸に飴玉のようなブルーの瞳、もっちりとして赤みのかかった白い肌。誰がどう見ても10にも満たない天使のような子供がそこにはいた。
 ボスの御子息や誰かの子と間違えているわけではなく、正真正銘この子供が今のパッショーネを牛耳っているのだ。小学校に通う年齢の、朝が苦手で再び布団に潜り込んでいるこれが、と思うと締まるものも締まらないと言うものだ。立場も忘れて溜め息が出る。
「起きてくださいジョジョ。もう8時です。小学生でも起きれる時間でしょう」
「ぼく小学校いかないんで関係ないです……。 それに、9時間はねないと起きれないんですよお……ぼく昨日ねたの1時なのであと二時間はねますぼなのって」
「駄目です!夜更かししたのはあなたでしょう!」
 枕に顔を埋める小さな身体から毛布をめくり上げて力ずくでころりとひっくり返す。針ネズミのように体をまるめて唸り声をあげているところに揺さぶりをかけて少し強めに頭を叩いてやると、ぎゅっと目をつむったままいやいやと首を振った。
「うぅー」
「ほうら、起きてくださいよ」
「いま起きてもがんばれないです…、おねがい、せめてあと一時間……」
「その頃には会議が始まります。最後の打ち合わせしておかなくていいんですか?」
「…………」
 会議と言ってもこの子供本人が出るわけではない。外の組織に『小学生がボスをやっています』だなんて馬鹿正直に伝えられるはずもないのでカモフラージュがいて、そっちが参加するのだ。最も、そのカモフラージュも青年だから怪しまれていることに代わりはないが。
「彼をここによんで……、あと、資料…」
「全くもう……、かしこまりました。少々お待ちを」
 天然で放っておくと爆弾を落としまくってくる部下のため渋々と頭を起こしたボスは、盛大な欠伸をして眉を寄せながら再び唸り声を上げる。癖が強すぎる髪の毛のせいでさながら子ライオンのようだ。

 ジョルノが二度寝をしないうちに自分から見れば上司のブチャラティを探して資料を持ってきてもらうことは他にまれを見ないスピードが要求される仕事だった。口がいくら回ろうが体力や気力は子供で、睡眠へのしがみつきようは大人から見れば尋常じゃあない。敷地内を早足で駆け回った。




「任せておけ」
「おねがいします。ぼくはもう少しだけねるので……」
「寝過ぎて昼食べ逃すなよ」
「その時は起こしてつれてってください」
「はは、わかったわかった」
 こてんと枕に頭を埋め直してすっかり寝直す姿勢を整えたボスに向かってブチャラティが同期と喋るように言う。
 ナランチャやフーゴなど比較的幼い者からその祖父に当たる年齢の者まで、ジョルノに対して馬鹿にした態度を取ったり、こんな子供がボスだなんて冗談だと信じない輩が数多くいた。その中でもブチャラティは始めこそ疑っていたが一番に膝を折り、ちいさな手を握って唇を落とした。
 当時のブチャラティチームの驚きようと言ったらこれまでに無いくらいで、皆が落ち着きを取り返すまでは時間がかかった。ブチャラティは決して譲らず、『あいつと進んで行くことが正しい道だと思った』と繰り返し、折れたのはメンバーだった。
 今ではブチャラティは側近の一人で、チームとしても親衛チームとすら呼べるまでに出世したのでブチャラティは一周回って賢いと言われている。ジョルノもブチャラティが強く出ていることに何も言わないどころか、それが当然とでも言いそうな顔だった。

 二人には不思議な繋がりがある。
 ジョルノがボスになるまで会ったこともなかったはずなのに、と勘繰る者が調べ尽くしてもブチャラティに子供を通した組織的な繋がりはなかったし、ジョルノのデータは足がつかない。たった7歳でもどこで生まれて親は誰かくらいのものはあるはずなのに全く見つからないのだ。DNAを調べても組織内の誰とも似ていない。
 悪魔と呼ばれた元のボスを退けたのは天使なのか、それとももっと得体の知れない生き物なのか。ジョルノの存在は組織を震撼させていた。


 そんなことはお構いなしに睡眠を貪るボスの寝顔が緩みまくっていることは、側近と親衛隊の何人かしか知らない。今のところ唯一の女性親衛隊のシーラEが写真を取りたいと騒ぎ立てたくらいにはかわいい姿だ。
 普段達者な口が閉じられ鋭い眼光も塞がれば自然と、作り物のように端整な外見だけが残る。ボスでなくとも誘拐だとかが付きまといそうな見た目はひどく目立つ。
「ジョルノ、飯行くぞ」
「はい……」
 寝起きのミルクを飲んでいたジョルノに会議から戻ったブチャラティが声をかける。ミルクを持ってきたミスタが活動を始める準備を手伝っていた。服装はジョルノの好みで白いシャツに吊るしたハーフパンツで、ハイソックスまで合わせればいいとこのぼっちゃんのようだ。
 短い足でのろのろと歩くのでブチャラティが抱え上げると、顔に腕を突っ張って拒絶する。よっぽどの緊急時ぐらいしか大人しく抱かれていないのだ。
「下ろしてくださいブチャラティ、ちゃんと歩きますから」
「アジトを出るまでくらい、いいだろ?」
「いやです下ろしてブチャラティ、いどうのたびだっこされちゃあ足がなまるんですよ」
「寝起きなんだから甘えておけ」
 有無を言わせず抱いたままさくさくとブチャラティが歩くものだから多少文句を言いながらもジョルノは抵抗を止める。唇をつきだして不満ありげにしているが、ブチャラティの機嫌は良いから完全に拒否はできないのだ。ブチャラティがジョルノに甘いように、ジョルノもブチャラティには滅法甘い。
 会議の後は決まって二人きりで食事を取るので部屋で見送ったミスタは、上司らしくない二人の大義な仕事は大変そうだと他人事のように思った。



***

 ブチャラティの人気から自然と街の住民に受け入れられたジョルノは、隠れアイドル的な存在だった。年寄りや女性からは外見の良さでちやほやされ、男は大人になって欲しくないと言い、子供からは聡明さを尊敬される。
 組織内では見せることのない年相応の姿をさらけ出すことによって信頼を得ていたが、そちらの方が偽りだと言うことはブチャラティも理解していた。無邪気に破顔しているフリは疲れるのか外に出るとジョルノはよく口の周りを擦る。
「無理するなよ」
「大丈夫です。子どもの間だけですから」
 ジョルノはいつもそう言って穏やかな笑みを浮かべる。
 ブチャラティは、ジョルノが何をしているか、体や精神的な状態は如何なものかといったことを知ることは得意だったが、ジョルノの行動の根幹を知らない。年齢に合わぬ思考の理由も知らない。
 それでも、何か感じるものがあったから傍に着いているのだ。例えるならジョルノは風で、タンポポの綿毛である自分は風が新天地に連れて行ってくれることを遺伝子レベルで知っているような。そんな感覚だった。
 だからジョルノのすることが何であろうと着いていけば必ず良いところに行き着くという自信があった。ジョルノが示し合わせたように応えて来ることで毎日が黄金色に輝いていくようで、ようやぐ生きている゙という実感を持てた。そんな運命の運び屋を無下にできるはずもない。
「あなたと街を歩いていることが未だに夢のようだ」
 やけにはっきりとした口調で一人言のように言う言葉の真意も尋ねたことはない。聞いてもわからないと思ったし、聞いておかねば困ることでもない。
「頬でも引っ張ってやろうか?」
 そう言うとジョルノは素の顔を緩めた。


 テラスのあるピッツェリアでブチャラティ贔屓のマンマにアツアツのピッツァと絞りたてのスプレムータを頂いて、街の様子を見て回る。
 ジョルノがいる時は長くは歩いていられないが、ジョルノが直接目にすることを良しとしているのでたまにこうして徘徊している。中にはジョルノのことを不快だと言うような目で見る者もいるが、ジョルノは怖じ気づくことがない。背丈ばかりはまだまだ足りないが、ボスとして、大人も一目置くような存在であるから目力も人一倍だ。
「お前、言いふらしてるんじゃあないよな?」
「彼らはぼくのみなりがいいことが気にいらないだけですよ。それにボディーガードまでいるから」
 ジョルノがボスだと明かしてから半年。つまり乗っ取ってから半年しか経っていない。街の末端には力が及ばず、いい子の振りを始めたパッショーネ、もといギャングに苛々している者たちもいることを理解した上で浸透度を見に来たのだった。
 街全体でみれば確実に動いていっているとジョルノは思う。道端に転がる怪しい包み紙も大分減った。
「お前のおかげで麻薬もあまり見かけなくなった」
「そうですね」
「感謝している。……と、お前に言うのも、違和感があるわけだが」
 ううむ、と唸りながらもブチャラティが落ち着いた様子で言う。ようやくボスに殴り込みに行って再びパッショーネを乗っ取った甲斐というものが出てきたものだ。


***

 午後からは本格的に仕事を始める。といっても書き仕事や判子押しは大抵ブチャラティがこなし、ジョルノはひたすら書類を呼んで指示を決めていくことが主だ。ボスのサインが必要なものだけ署名してあとはひたすら書類を捲る。子供には退屈過ぎる作業だったがジョルノは弱音や愚痴を吐くことなく黙々とこなしていく。
 背丈の関係でジョルノはデスクではなくカウチでテーブルに書類を積んで仕事をしている。ブチャラティから常に確認できる位置で仕事をすることで警護の意味もある。
「ダメだ、だれた……」
 ブチャラティの仕事が主にデスクワークになってから半年が経つが、子供の頃から体を動かすことがほとんどで中々集中力が最後まで続かない。三時間に一度程ではあるが休憩を挟まないと目が滑りまくって仕事にならないのだ。
「おつかれさまです。何かもってきてもらいましょうか」
 そのサイクルに合わせてジョルノもしばし休憩を取る。片方だけ休んでいるのは気まずいし、ジョルノも目の疲れが早く目蓋が落ちてきてしまうから休むことに反対したことはない。もう数年経てば話は別だが。


 廊下で今日の護衛のアバッキオにカフェとラテを頼んで思い思いに休憩を取る。アバッキオはジョルノを認めないと言って毛の逆立った猫のような態度だがジョルノはそれを見ても懐かしむように微笑むだけだ。アバッキオはそれが余計にいやでジョルノに良い顔をした試しがない。
「あいつにも困ったモンだな……悪い奴じゃあないんだが」
「わかってますよ」
 足をプラプラさせながらジョルノが言うのでブチャラティも急いでアバッキオの意識を変えさせようとはしない。そもそも、外部からの圧力には応じない男なのだ。
「なにはともあれ、のんだら仕事再開ですからね」
 何も知らない人からみたらおかしなことに、仕事再開に文句をつけるのはブチャラティの方だった。


***

 切りの良いところで今日の分の仕事は終わりにして未だ明るい街に出る。夕食時で店はどこも賑わっており、席を探すのにも一苦労だ。
「席が空きそうにないわね……」
「でも相席はやめた方がいーんだろ? 待つしかねーじゃん」
「わかってるわよ!」
「相席できる人数じゃあねぇしな」
 シーラEとナランチャ、ジョルノを連れて保護者役のムーロロはため息をこぼす。ナランチャの方がシーラEよりも二つ年上だが毎回ろくでもないことで喧嘩をするから、あまり一緒にいたくないのだがこの二人だけにするとさらに小さなボスが心配なのだ。もっとも、フーゴと一緒の時のシーラEの方が手に負えないが。
 年齢にそぐわず一番静かに待っているジョルノがヒートアップしそうな二人を仲裁する。ナランチャはフーゴと違って単純なので、自分も悪いと思えば素直に謝るし、シーラEも結局怒りは頂点までいかない。そうして二人の間に入って片手ずつ手を繋ぐ。いつも大体これで解決だ。
「向かいの店の本日のメニューをよそうしましょう」
「うーん、じゃあ、おれは鶏肉のカチャトーラ!」
「…………、あたし娼婦風パスタ」
「ではぼくはプリンで。ムーロロは?」
「えっ、あー……」
 ボルサリーノ帽を押さえながら急に振られた質問の答えを適当に探す。看板を見ようと思えば見えるのだがそれは野暮だ。
「カポナータで」
「はい。帰りにかくにんしましょう。ほら、せきも空いたんじゃないですか?」
 ウェイトレスが片した席を見てジョルノが言う。ナランチャが繋がったままの手を引いて芋づる式に三人が移動する後ろから保護者の視線を向けられ居たたまれない気持ちのムーロロがついていった。


 わいわいと賑やかな食事を終えてようやく辺りが暗くなってくる。アルコールの入った大人たちはあちらこちらで歌ったり口笛なんか吹いたりして、さらに今夜の相手を探したりもする。一応子供のジョルノに悪影響で、治安も極東の国のように良いとは言えないからという理由で食べた後は早めに撤収だ。今日はジョルノが家に帰る日なので、遅くなると余計によろしくない。

「みんなハズレじゃあねーか!」
「当たる確率が高いわけじゃないから当然でしょ」
「ジョルノ様はいつもプリンしか言わねぇしな」
「ジョルノ様はいいのよ! こんなに小さいんだからプリン好きでも!」
「ふふ……、大きくてもプリンがすきなんですけどね」
 ジョルノが小さく呟くのを聞き取ったのはムーロロだけだったが、意味を尋ねても真実を答えてくれないことを知っているので一人肩を竦める。そんなムーロロに振り返ってにこりとジョルノが微笑むものだから、たまらず一礼する。こんな子供相手でも彼だけには頭が上がらない、と自分の性分を見抜かれた時から思うのだ。


***

 人通りの少ないアジト周辺まで来ると、組織の物ではない黒塗りの車が一台止まっていた。その車こそ、ジョルノの自宅までの迎えだった。
 ドアの前に立つ長身の男の格好はお世辞にもまともだとは言い難い。
「御迎えですぜ、ジョルノ様」
「そうですね。では、ぼくはそろそろ帰ります」
「またな〜ジョルノ」
「ごゆっくりなさって下さい」
「おやすみなさいませ!」
 思い思いの言葉を受け止めながら手を振り、男のところまで歩いてゆく。鮮やかな金髪はイタリアでは珍しく、彼らが親子であることを主張していた。
「ハルノ」
 ある程度近付いたところで男――、父親であるDIOが息子の名前を呼ぶ。一週間に一度は家に帰るのだから感動の再開のような馬鹿げたことがしたいわけではない。
 そうしてナランチャ達が見送るなか、瞬きの一瞬の間に二人は姿を消してしまう。車の中に入ったのだ。


「あまり外でスタンドをつかわない方がいいと何度も言ってますよね?」
「どうせあの通りは人が少ないだろう」
 後部席に並んで座りながら親子のような会話をする。殆どのことが体験済みのジョルノもこれだけは、今回が初めてだった。
 フーゴが話すように厳しい父親でもなければ、ミスタが言うようにいつも女に酔っている訳でもなく、ブチャラティが思い出すような優しい男でもない。ただ静かなふりをして、自分に隠しきれない興味を持ち続けてくれる、自分とよく似た人だった。よく似たところと全く正反対なところを持っていて最初はやりづらいこともあったが、彼が向けてくれる彼なりの関心がありがたかった。
 歩き回って疲労がたまっていることを見抜いてか、頭を雑に撫でてもう寝ろと言う。子供扱いをされても困るだけなのだが体力は限界に近付いているようで、体温のない暖かさに自然と目蓋が落ちてきてしまう。
「……ついたら起こしてくださいね」
「さて、どうかな」
「もう……」
 起こす気がないというより、その時の気分任せにしようとするところが彼らしい。気まぐれな点は大層子供のようだが、なんだかんだ一大事にはまだ彼に守られている身なので文句を言うにも言いづらい。
「今夜はあきらめるんで、明日の朝は9時におこしてくれとテレンスに伝えておいてください。 ……おやすみなさい、とうさん」
「ああ」
 肩の力を抜くといよいよ眠りが本格的になる。睡眠に支配される時間は長いがこれも今のうちだけだ。
 体を一定のリズムで揺すられ大きな体に抱かれていることに気付き、眠りが浅くなる。前はいなかった確実に゙守ってくれる存在゙の胸板にすがり付くと夜だと言うのに彼は一人で笑って、ひとつだけ呟いた。

「ギャングのボスだかなんだか知らんが、まだ子供じゃあないか」




160721
ジョルノくんがやけにミルクばかり飲んでるのは、身長のためです。
追記170515
カプレーゼはデフォメニューに入ってることがほとんどだと気付きましたが目を瞑ってください……。
加筆修正170906
問題だったカプレーゼを、カポナータに変更等。


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