▼はぐれ星は太陽に隠れている


※承太郎×ジョルノ
 恥パ後、二回目の会合。続きます




お近づきの印に一緒にチェーナはどうですか、と自分の半分しか年を重ねていない少年に誘われて承太郎はとくに断る理由もなく頷いた。財団と共にイタリアには来ているが一日中拘束されている訳ではなく夜はもうホテルに帰るだけだった。自分となにか交渉しようとしているのかとも思ったが、部下であるグイード・ミスタに話す姿はとてもそうは見えない。気が許せる仲なのか固かった表情も緩い。

「じゃあミスタ、フーゴに伝えといて」
「Si. 任せとけ」
「頼みましたよ」

ポルナレフのいる亀などをミスタに預けてこちらを見上げる顔から感情は読み取れない。どうかしたか、と声をかけるとよそ行きの笑顔で否定を返された。悪を交えていないようなその顔は心なしか仗助に似ているようにも感じる。

「行きましょう」
「ああ」

上等なコートに手を突っ込んで言うジョルノに後からついてゆき、まだジョースターにしては小さい後ろ姿を眺める。見事な金髪はあのDIOと同じで、前髪を下ろせばかなり似ているんじゃないかと思う。途端ジョルノが振り返り、ライムブルーの瞳で自分を見た。多少驚いたが感付かれてはいないだろう。

「歩くの速いですかね」
「大丈夫だ」
「そうですか。ああ、あっちです」

まだ明るい空の下で店がわんさかある方を指差してジョルノが言う。今更ながらに本当に普通の人間であり人間と同じ食事をするのかと思い、不躾に歩き出した後ろ姿を見た。店までの距離はわからないがその辺の堅くない店ならそこまで時間はかからないだろう。向こうはそれ以上話しかけて来なかったが、喋るのはあまり得意で無いし沈黙は苦痛でなかったため自分からも話しかけないままもくもくと歩いた。


**

ジョルノに導かれてついたのは堅苦しいレストランではなく繁盛したファミリーレストランに当たるような場所だった。イタリア語は読めないが、ピザやパスタの絵が書かれた看板が置いてあったため自分でも注文できそうだ。二人して好奇の目に晒されていたが、背の高さや顔立ちの良さは自覚していて慣れているためそう気にはならない。ジョルノも背丈はともかく顔はあのDIOとジョースターのブレンドでまれに見ないぐらいの美貌を持っているせいか気にする様子はない。この時周りはまた別の要素でも二人を見ていたのだが、承太郎が知ることはなかった。
ジョルノがずかずかと入っていくのについていき店の端の席に座ると、ジョルノは色々と勝手に注文して先に一息ついた。とりあえず白いコートを脱いで背凭れにかけ、なにを注文したのか訊いたがおすすめのやつですとしか返ってこなかった。イタリアで出てくるのは殆どパスタやピザ、リゾットやサラダ類だろうと予想がついたし好き嫌いは今のところないのでそれ以上は訊くのをやめた。

「シニョーレ」
「なんだ」
「そういえばなんですが、ワイン…、お酒は大丈夫ですか」
「ああ」
「じゃあ食前酒でも……僕頼んだのでわけてあげますよ」
「……君はまだ飲めない年じゃないのか」
「イタリアでは16で法律上飲めるようになるんです。まぁ、そんなものあって無いようなものですがね」

ワインと少しのサラミなんかが運ばれてきて、ジョルノは笑顔でそれを受けとり、サラミの一枚を手でつまんで口に入れてしまった。育ちのせいだろうが、見た目ほど細かいマナーに頓着していないようだ。そもそもここが高級レストランでないからかの違いもわかりようがないが。

「ン……、それにお酒が入ったほうが腹を割りやすいでしょう?」
「……財団のことか」
「違いますよ。プライベートな話です」

、グラスに口付けて笑う姿はまだ成長しきらない少年らしい。つり上がった目元がDIOと同じ印象を持たせている。それでも心が繋がっている、同じ星の元の子だと叫ぶのが煩わしかった。

「……それは君のじゃあないのか」
「僕食後の甘いやつのほうが好きなんで。それにあげるって言ったじゃあないですか」

少年は喉をひと鳴らしだけして口付けたグラスをこちらに押し付けてサラミをつまむ。読めない子供だと思いながらも仕方ないので寄越されたグラスをあおって、やっと一息ついた。飲み回しなどは気にしないのだろうかと思ったがわざわざ訊くほどのことじゃあない。

「……」
「……」
「……弱いのか」
「弱くはありませんが」
「酒の話だ」
「わかってますよ 普通です。シニョーレは」
「血のせいだろうが…、日本ではザルといわれるくらいには酔わないな あと、呼び方は承太郎でいい」
「…ジョータロ」
「…………」
「こわい顔しないでください わざとですよ。フフ」

少年はおかしそうに笑ってフッと無表情に戻った。



「はいよー、マルゲリータとカルボナーラだ」
「グラッツェ」
「……無難だな」
「本場のピッツァと言えばマルゲリータかマリナーラです。僕はフォルマッジも好きですが……。そのピッツァは承太郎さんのです」
「ずいぶんと大きいんだが?」
「? 普通ですよ。ジャッポーネでは小さいんですか?」
「これよりは小さいな。手で食べれるサイズだ」
「手で? フフ…、ちゃんとナイフとフォークを使ってくださいね、ここはイタリアですから」

運ばれてきたカルボナーラを引き取りながらジョルノは言う。まさか大きなピザ一枚丸々自分の分とは思わなかったが、もしかしてピザ一枚だけなのかと少し疑問も出てきた。日本のものに比べたら一枚で腹も膨れそうだが。先に食べ始めたジョルノは本当に一緒に食事をしたかっただけらしいので、教えて貰った通りに大きなピザをいただいた。食べている間にジョルノのようすをたまに見ていたが、丁寧に食べているというより食べるのが遅いと自分のピザの消費ペースと比べて思った。
後からもう一皿パスタが来て、それも承太郎さんのです、と言われたときは食べきれるか不安になったが、思った以上に自分の食欲は衰えていなかったらしい。 真っ黒なパスタが予想外に美味だったこともあるだろう。パスタを食べている間にジョルノはのろのろとカルボナーラを食べ終えて、一杯あおっていた。多分最初に言っていた食後酒だろうが、甘ったるい匂いがこちらにまで香ってきてそれだけで胸焼けがしそうだった。年相応なところもあるのかとは思ったが。

「ドルチェか食後酒、それか水はいりますか?」
「……ミネラルウォーターを」
「ガス抜きですね」

ジョルノがクスクスと笑いながらウェイターを呼んだ。日本以外では水はガス入りが基本で、気分にもよるがガス抜きのミネラルウォーターを頼むことが多い。ジョルノも日本に住んでいた期間があったと書かれていたから同じ経験があるのだろう。最初会ったときよりもよく笑うなと思った。




ミネラルウォーターを飲み終えてから、自分が財布も出す前にジョルノが勘定を終えてウェイターを向こうにやってしまう。ジョルノが身支度を始める様子は無く、じっとこちらを見やるので自分も動き出せない。プライベートな話、とやらだろうか。父親殺しの自分相手に話すことなんて復讐の予定ぐらいじゃないのだろうか。

「お腹いっぱいになりました?バールに行こうとも思ったんですけど、ここの方が騒がしくて良いかと」
「…ああ。……バーのことか? 何か…、話したいことでも?」
「ええ。…ああ、復讐だとかそういったことではないので気軽に聞いてくれますか。顔しか知らなかった父親を殺されたからと言ってそんな無駄なことしません」
「無駄……」
「ええ」

口癖まで似るものかとふと思ったが、娘の徐倫が自分の口癖と同じようなものを呟いているのを散々拒絶された後に聞いているからそういうものかと無理に納得する。一度も会っていない親子でも有り得るものかなどと思っても確かめようもない。

「……承太郎さんは、僕が汐華初流乃だったころの情報は全て目を通しているんですよね」
「…ああ」
「だったら、僕が同世代からは虐められ、義父には虐待され、母からはネグレクトを受けていたことももちろん…」
「知っているが……それが?何が言いたい」

要点の掴みにくい話し方はジョルノらしくない。ジョルノらしさと言っても、今日一日話した時に感じたものだけだが。何を言おうとしているのか全く予想がつかない。

「僕の、全く個人的な希望なんですけど。組織には関係ない、最初に言ったようにプライベートな話です。聞いてくれますか?」
「……、聞くだけなら」
「よかった。…要約すると僕の保護者になって欲しいんですが」
「…………? ギャングの君に保護者が必要だとは思えないんだが?」
「書類上とかの話ではなくてですね。承太郎さん以上に僕の事情を知っている大人は今いないわけで、もっと言うなら親代わりになってみて欲しいんです。親子とはどういうものか知っておきたくて」
「親……」

気恥ずかしいのか合わせられていた視線はテーブルをさ迷っているが表情筋が硬くなったかのように表情はない。もしかしたら先までの笑顔は素ではなく外交のための表面上だけなのかも知れない。
それよりも、親、と言っただろうか?世帯を持っていることを話してはいないはずだがいったい何の目的があってのことだろうか。聞くだけ、と言ったがどう返事したらいいものか見当もつかない。

「……あの」
「ん……、ああ…」
「…すみません、変なことを言ってしまって。決してあなたの家庭を探ろうだとかではないんですが……ええっと、駄目でしたらいいんです。そもそもすぐに答えを出せと言っている訳でもないので……」
「……確かに、すぐには返事をできそうにない」

目を伏せ手遊びをしながらジョルノが言う。途端に沈黙が苦痛となってしまった。それは向こうも感じたのか、長く続く前に出支度を促されおかしくない程度に言葉を交わして店を出た。
外はすっかり暗くなり明かりを灯して賑やかな出店などでイルミネーションされていた。ジョルノがあらためて、バールにでも行きますか、と提案してきたが話の返事にも困っていたし無表情でこちらを見る瞳がどこか居心地悪く断った。だが、ホテルまでの案内ぐらいはさせて下さい、なんて白々しい笑顔で言うものだからその変わりように驚き断る前に先を歩き出したからついていくしかなかった。短い移動の間話すこともなく来たときのようにただ揺れる輪を見ながら歩いた。
朝見たホテルまではそれからすぐで、財団の構成員がやってきたジョルノを見て体を強張らせていたがジョルノはそれを気にとめる様子もなく笑顔を振り撒いた。無邪気なものではなく大人びた、自分から見るとDIOにどことなく似たような笑いかただ。大人の社会で生きていくために身につけたであろう一見媚売りにも見える行為は16歳のこどもとしては全く可愛いげがない。

「アリヴェデルチ、承太郎さん。近いうちに電話しますね。その時には聞かせてもらえると嬉しいです」
「……ああ」
「じゃあ。よい夢を」

そう言うとジョルノは手を振って護衛もつけずに来た道を戻って行ってしまった。一緒に歩いていたときよりも早足に見えたがそれも推測でしかない。
組織は関係ないと言葉上でだが言われているため、個人的な希望、つまりジョルノからのお願いとでも言い換えられるだろうか。それを突っぱねるのは簡単なのではないか。ジョルノの性格なら一度断ればしつこく繰り返してくることもないだろう。だが内容が内容だけにすぐに答えが固まりそうになかった。完全な他人ではなく、家庭環境も悪く、もしかするとその原因を作ったのは自分なのかも知れないのだ。それにまだ自分の半分しか生きていないような、あの時の自分より幼い彼が背伸びをしながら生きている中で奇妙な血縁だけを信じて自分だけにあんな話をしたのだとしたら、殺した父親の代わりをままごとのように引き受けてやるぐらいはしてやっても良いのではないだろうか。
全く自分の自覚していないところで親心のようなものが芽生えていたのだと認識しながら、離れて暮らしてから随分立つ賑やかな母親を思い出してかぶりを振る。父親は殆ど家に帰ってこなかった。自分が父親の何をわかっているんだと、見慣れた娘の反抗的な目を頭に描きながらエレベーターを降りた。





150422




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