たかが超能力、されど超能力(モブサイコ)


「律。」
「なに、兄さん。」

 たまたま同じ時間になった帰り道にふと何かを伝えたくなったモブは弟を呼ぶ。ただその何か、が何なのかまだモブの中では固まりきっておらず長めの沈黙を作った。


「…………えっと。」
「……そういえば、兄さん背伸びた?」
「え……」

 もちろん急にモブの背が伸びた訳ではない。超能力が発現してからも変わらず兄思いの律が兄の頭の中で話が固まりきっていないことがわかったので、気を使ったのだ。少し前までは兄の御機嫌取りだと思ってやっていたがもはや癖になっていた。

「そうかな……。律も、前よりかっこよくなったよ。」
「それは、超能力が使えるようになって吹っ切れたからだよ。まだ兄さんよりは弱いけど、やっと近付けたからね。」

 そう言いながら持ち歩く癖のついていたスプーンを懐から取り出して、くるくるに曲げて見せる。もうこの癖も必要のないものになった。

「律、本当に器用だ。この前も僕が曲げたやつ戻してくれたし。またスプーン代をお小遣いから引かれるところだった。」
「兄さんの気持ちがちょっとはわかるようになったよ。お小遣い減らされないよう僕も気をつけなきゃ。」

 曲げたスプーンを元に戻しながら鞄の中にしまう。モブはまだもやもやとして形にならない伝えたいことをこねくり回していて、それを見て律は自分の意見を持とうとする兄に一種の感動を覚えていた。
 超能力を爆発させないでも意見や感情を表せる、しかもそれが恐怖を伴わないというのはモブが変わったのと同時に律も変わったから起こった変化だった。

「律が超能力を使えるようになって、おめでとう、って言ったけど。心配なんだ。超能力はあっても何か変わるわけじゃない。」
「僕は、念願の超能力だったからあんなことしてたけど。すごく嬉しかったから。」
「律が超能力を使って悪いことしたら、すごく怒ると思う。律に超能力は使いたくない。 ……悪いことはしないで。」
「あれで懲りたよ。花沢さんの言ってたこともよくわかったし…」

 モブと対峙し凡人さを噛みしめ、粋がることを止めた一人の注意を今となって理解した。すぐ近くに同じ枠の中でもとびきり敵わない奴がいるのだ。

「ならいいけど。」

 年子ではあるが兄として、また先に超能力を持った先輩として、超能力の心得でも説きたかったのかも知れない。超能力が暴走しない程度の兄弟に向ける笑みを律は笑顔で受ける。
 律が超能力を持ったところでモブは何も変わらなかった。それが律に取ってはありがたくもあり、複雑でもあった。

「そうだ…花沢君にありがとうって言わなくちゃ。」
「なんで?」
「律を見つけてくれたから。」
「……ああ、そういえば。 兄さん、ついでによろしくって言っておいて。」
「わかったよ。」

 目まぐるしい時が過ぎいつも通りの日常に戻る。モブや律、他のみんなも少しずつ成長した。
 ただちょっとだけ、非日常が癖になってしまって物足りなく感じるのは中学生だからかと、律はひとり思うのだった。


 後日、律はたまたま会ったテルに「影山君が君の伝言としでよろしぐって言ってきてちょっと笑っちゃったよ。」と言われ、自分が暴れた時兄が不良に言ったのと同じような言葉をテルに向けることになる。




16/08/09


気持ち律モブ律。
律がかなり好きで、モブは言わずもがな。エクボが絡んでもこの二人はおいしい



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