「あ?転校生?」
職員室の自分のデスクに着き足の爪を切っていると声をかけてきた教師が言ったその言葉を繰り返した。
「はい、来週うちの学校に来るんですが…。」 「ふーん…。」
興味ないねと付け足して、そいつに見向きもせずに爪切りを握り直す。
「小林先生、真面目に聞いて下さい。 何でもその子ドイツ帰りの帰国子女だそうで…」 「そりゃ厄介そうだな。」 「そうなんです。それでその子を1年のどのクラスが受け持つか少々口論になってまして…。」
押し付け合いか…。こんな教師ばかりだというのだから…全く世も末だな。
「回りくどいんだよ。ようは俺のクラスに貰えって言いてぇんだろ?」 「さすが小林先生…。それでどうですか?彼女、貴方のクラスに貰ってくれますか?」 「やーなこった。今だけでもてんてこ舞いなのに帰国子女なんて来たら倒れちまうよ。」
第一アレだ。コイツらの言う通りにすんのも何か癪だ。
「話はそんだけか?じゃあ俺は行くから」
出席簿片手に朝のホームルームに向かうべく職員室を出ようとした時…。
「この子…顔は結構可愛いんですけどね。」 「…………。」
その言葉に僅かだが男の本能で興味が湧いてしまい踵を返す。
「見せろ」
そう言って教師の持つ写真を強引に奪い取りそれに目をやった。
「ふぅん…まあまあ……!!!」
軽い気持ちで見ていたがどこか見覚えがある顔だと思った瞬間ドクンと大きく胸が脈打つ感じがした。
こいつ……もしかして…。
「おい…………名前は?」 「え?」 「コイツの名前はって聞いてんだよ!」 「は、はい!えっと……、」
−−−…、
「クク……そうか…」
写真に写った微笑みを浮かべるその少女の名を聞き出すと俺の予想は見事に的をついていて自然と口端がひき上がった。
こいつはおもしれぇ事になりそうだな…。
「おい、コイツうちのクラスに貰うわ。」 「え?」
校長に言っといてーと付け足し、よろしくと意を込め、出席簿を軽く左右に降り職員室を後にした。
「こ、小林先生!?しゃ、写真かえ…行っちゃった…。そんなに好みだったのかな…?」
−−………、
廊下を歩きながら胸ポケットにしまった先ほどの写真を取り出しククっと喉で笑った。
「小桜美柑……。 こりゃ大変な事になりそうだなァ…。 ワンコにも教えてやらねーと。」
窓越しに見えた大きな入道雲。 そのもっと向こうにある別世界を見るかのように目をこらすと、沢山の過去の出来事が俺の頭を支配した。
暫くその入道雲に見入っていると、チャイムの音が響きハッと我に返った。
「おっと…急がねぇと。」
そう呟くといつもよりせっかちな足取りでホームルーム教室へと向かった。
波 乱 の 予 感
00話 end...
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